ユキ物語(15)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(228)
「ユキ物語」(15)
おれは若い男に連れられてその家に向かった。田んぼの間の細い道を行くこと50メートルぐらいで昔風の家が一軒だけあった。
玄関の左側に小屋らしきものがある。以前飼っていたと言っていた犬はここにいたのか。確かににおいがする。
若い男はおれをそこに入れて南京錠を占めた。それから、玄関をがらがらと開けて中に入っていった。
しばらくすると、若い男が出てきると、その後に母親のような女がいた。
男は、「これ」とおれを指さした。「へえ。すごい犬だね」と言った。
また玄関が開いて、二人の老人が出てきた。おれを見てから、「どうしたって?」とおじいさんのほうが聞いた。
男は、おじいさんに向かって大きな声で説明した。「ぼくの友だちがしばらく面倒見てくれと言っておいていったんだ」
「くれたのじゃないのか」
「くれてはいないよ。しばらくの間だけ」
「おじいさん。また散歩に行けるよ」おばさんが言った。
「でも、体が大きいから、引っ張られてこけでもしたらたいへんだよ」母親がおじいさんに言った。
「まあ、仲よくしてやったら暴れたりしない」
「しばらく隆に様子を見てもらいましょうよ」
「おとなしいからと言っていたけど」
「何か食べさせよう。そうだ。ロンのが残っていたからもってこようか」母親は急いで家の中に戻っていった。
他のものはずっとおれを見ていた。そのとき、近くで、クッ、クッというような音が聞こえた。何だろうとそちらを見ると、少し離れたところで、何かが動いていた。2,3いるようだ。
見たことがないものだ。体は真っ白で頭が赤いものがせせこましく動いていた。
これは何だろう。何か分からないが、おれより体は小さいし、ひ弱そうだ。
しきりに草を食べている。ときどきおれを見るためか檻の近くまで来る。
別に敵意はないようだ。店にいた鳥の仲間なのか。あいつらは隙があれば飛んでにげたが、こいつらはそういう気配はない。ただ、草を食べたり、砂をつついたりしているだけだ。まあ、こいつらのことは後で研究しよう。
まだみんなおれを見ている。ロンとかいうやつの残りものがおれの前に置かれている。しかし、おれはまだ車酔いが残っていて食べる気が起きない。
「ところで、この犬の名前は何というの?」母親が聞いた。
「あっ、忘れていた。山崎は急いでいたからな。後で電話するよ」
「そうしてちょうだい」母親はそう言うと家に入った。年寄り二人も続いた。
男はその場で電話をしたが連絡は取れなかった。それから、しばらくおれを見ていたが家に入った。
誰もいなくなると、また庭にいた鳥がおれを見に来た。よく見るとかなり大きい、店にいた鳥はこの10分の一ぐらいしかなかった。
庭は針金のようなもので囲われているが、どうして逃げないのか。ひょいと飛べばすぐに逃げられそうだが、5,6羽いる鳥はそういうことをしない。
ひょっとして飛べないのか。まさか鳥なのにそんなことはあるまい。まだ柵と柵の間に顔を突っ込んでおれを見ていたが、無視して一休みすることにした。
翌日早く、おじいさんがおれを散歩に連れていった。昨日はぐいぐい引っ張られたら困るようなことを言っていたが、おれのことが気になったと見える。
あれは逃げるつもりだから、今のところはおとなしくしなければならないので、おじいさんの歓心を買うようにした。
それで、朝はおじいさん、夕方は山崎の友人が散歩の担当だったが、不在の時は
、夕方もおじいさんと散歩をした。
散歩は、だいたい家を出てから、道を渡って山のほうに向かうことが多かった。山に沿って細い道が長々と続いていた。
町のように車道の横の歩道を通るよりは気道がよかったが、散歩しながら逃げる際の道を研究することはあまりできなかった。
山崎はあのまま行ったが、どこに言ったのだろうか。もし中岡がすべて白状しておれば、ボスや山崎のことはすべてわかっているはずだ。
金を取っていなくても脅迫か何かで捕まるだろう。それなら、山崎はまだ逃げているのだろうか。
警察が、山崎の家、つまりおれが今いる家に来ていない以上そうだろう。捕まったとしても、おれを開放したなどと言っていないだろうな。
誘拐が成功しても失敗しても、おれは助かると思っていたが、どちらにしても、こんなことになるとは。
とにかく、殺されたりしなかったことは儲けものと思うしかないのか。
このあたりで、おれのことは評判になったようで、学校帰りの子供らがおれを見にくるようになった。
もっと評判が広がり、テレビや新聞などおれのことを店が知るようになれば話は早いので、おれも子供らに愛嬌を振りまくことにした。

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