ユキ物語(14)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(227)
「ユキ物語」(14)
どうなっているんだ。背中でトランクに体当たりをするが、びくともしない。
そう息苦しくはないが、何も状況が分からないのは辛い。やつはおれをどこで降ろすつもりだ。
車は坂道を登ったようだ。それから、スピードを出しはじめた。ぐんぐんスピードが出る。排気ガスのにおいがトランクに充満してきた。気持ち悪くなってきた。
そうだ。おれは車酔いする質(たち)だった。昔、あちこちの店に連れまわされたときはふらふらになったものだ。あれ以来のことだ。
しかし、どうすることもできない。車はそのまま1時間ほど走り、少しスピードを落とした後、ようやく止まった。
そして、トランクが開いた。おれは外を見た。近くに山が見える。見なれた風景ではない。ここはどこだ。
ここで解放されても店に帰れるのか。そう思っていると、「お疲れ。もう少しの辛抱だよ」山崎がやさしい声をかけてきた。
おい、まだ開放しないのか。おれは山崎をにらみつけた。山崎は鎖を引っ張って、おれを助手席の足元に入れた。
しかし、狭いことがわかったので、スペースを広げて食べものと水を置いた。
山崎には感謝しなければならないが、まだ気持ちが悪いので、水を一口、二口飲むことしかできなかった。
それより、おれをどこに連れていくつもりだ。証拠隠しのために、おれを山奥で殺したりはしないだろうな。油断はできない。
隙を見て逃げだすのも選択肢の一つにしてしておかなければならない。
そう思うと、少し余裕が出てきた。そこで、山崎はこれからどうするつもりだろうと考えた。
中岡がすべて白状すれば、警察はあのアパートを調べる。そうしたら、山崎のことはすぐわかる。山崎はそれを恐れてここまで逃げてきたのだろうか。
山崎は学生か仕事をしているのかは知らないが、まだ20代だろう。捕まったとしても共犯だから、そう罪は重くないはずだ。自首をしてやりなおすことが一番いいと思うが、そんな考えはないのか。
車はまた走りだした。田んぼや畑の間の道を進んでいくが、何かを探しているような走り方だ。古い車なので、「ナビ」というものがついていないようだ。
何回か車を止めては家を確認したが、探している家ではないようだ。
ようやく家を見つけた。玄関を開けて誰かを呼んでいる。しばらくすると、山崎と同じぐらいの男が顔を出した。
山崎が何か話していたが、しばらくすると、二人で車のほうに来た。
山崎は助手席側のドアを開けて、「これだよ」と言った。
その男はしばらくおれを見ていたが、「すごいじゃないか!」と叫んだ。
「これはどこの犬なんだ」とさらに聞いた。
「スイスだよ。多分」
「どうしたんだ」
「もらったんだが、都合でしばらく世話ができないんだ。それでおまえに頼もうと思って」
「いいよ。どのくらい」
「そうだな。2,3週間ぐらい。用事が早くかたづけば取りにくるから」
「了解。おれがいないときは、親やとしよりが世話をするよ。みんな犬好きだから喜ぶよ。最近、飼っていた犬が死んだから喜ぶよ」
「助かったよ。それじゃ、頼む」山崎は何か渡して去っていった。封筒のようなものだったから、おれの食費か。
やつらのたくらみが成功しても失敗しても、すぐに開放されると踏んでいたが、まさかこんな展開になるとは予想だにしなかった。

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