夏休み

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(58)

「夏休み」
明日から夏休みです。事務室の前に大勢の者がわいわいがやがやと集まって、何かを見ています。
「不景気でも、そう減っていないな」
「不景気ほど家族サービスを近場ですます傾向があるらしいんだ。そこにあれば、ついでに入ろうかとなるんだな」
「今日(きょうび)の子供は刺激をもとめているしな」
「暑いと涼しくなりたいものな」
「それは、まさしく先週の授業で聞いた科学的知識だ」
「それが期末テストに出た」
「緊張すると、交感神経の働きが弱くなって、血の流れが悪くなる。それで、涼しく感じるというやつだな」
「わたしは、副交感神経とまちがっちゃったわ」
「おれたちも、案外役に立つことをしているのだ」
「そうだ」
「そうだ」
みんな大きな声で話しながらメモを取っていました。
「おれは10か所」
「おれは20か所」
「そんなに行けるのか?」
「筆記テストが悪かったので、実技でカバーしなくては昇級できないよ」
夏休みは、生徒たちの日頃の実力が試されるときで、ゆっくり遊べないのがこの学校の慣わしです。実技テストは年一回しかないからです。
しかし、筆記テストがよかった者も悪かった者も、何だか楽しそうです。余所(よそ)に行けるのはこの時期しかないからかもしれません。
とにかく、実技テストを受けずに、昇級した生徒はいません。いや、ただ一人います。
「おい、やつが来たぞ」誰かが叫びました。教師たちが、学校はじまって以来の秀才といって秀才です。それがその生徒です。
「掲示板に目もくれずと行こうとしているぞ」誰かが叫びました。
すぐに「からかさ小僧」が、一本足でぴょんぴょんとその生徒に近づき、「ミノケヌキ、今年は行くんだろう?」と聞きました。
「いや、行かない」ミノケヌキは答えました。

「どうしていかないんだ?おまえは生徒会長だから行くべきだよ。みんなに示しがつかない。先生たちは、おまえに遠慮しているけど」
「お化け屋敷にこそっと入ることは別に義務じゃないだろう?課外授業の一つだ」
「まあ、そうだが、おれたちも助かるし、下界のやつらも喜ぶ。そうだな、みんな?」
「からかさ小僧」は、みんなが自分のまわりに集まっているのに気づき、加勢を求めました。
一反木綿、ぬらりひょん、アメフラシ、子泣き爺 ろくろ首 座敷童子 三つ目入道、赤舌 おんぶおばけ 蛇骨婆など、下界によく行くものや、なじみのない者がいっぱいいましたが、先ほどの勢いはどこかへ行き、「そうだと思う」と言うのが関の山です。
ただ、ろくろ首が、長い首を動かしているだけです。
そのとき、「白小僧」というお化けが前に出ました。「小僧仲間で言うわけじゃないけど、下界のやつらは、自分のお金を払っておれたちを見るんだ。
まあ、『怖いもの見たさ』ではあるけど、おれたちも自信を持つべきだと思うよ」と、その場を取り繕いました。
「そうだ」、「そうだ」どこからか声が聞こえました。それに続いて、「おれたちは幽霊のように女々しくない!」、「NO OBAKE、NO SUMMER!」ようやくお化けらしい歓声が上がりました。
ミノケヌキも、「一回ぐらいなら行こうと思う」と答えました。
「ミノケヌキ、ミノケヌキ。おれたちでも怖くなるミノケヌキ、おれたちの誉れミノケヌキ」ミノケヌキは、気持ちの悪い顔でニッと笑いました。
みんな、今年行く「お化け屋敷」の名前を事務室に提出して、急いで帰りました。
これで、「人もお化けもそれぞれ」ということがわかったでしょう?「お化け屋敷」には、ほんとのお化けが出ることも。

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