パーティ

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(59)

「パーティ」
2099年12月24日、東京のとあるホテルで盛大なパーティが行われました。
出席者は5000人を越えており、裕福そうな人ばかりでした。
クリスマスパーティという名目でしたが、実際はマイク田中といい50代の実業家の無罪を祝うパーティでした。
事実、参加者はマイク田中のまわりに集まって、「おめでとう」、「いや、たいへんでしたね」と声をかけました。
マイクは、その都度、「ありがとう」を繰りかえすのですが、一晩で一生の半分近くの「ありがとう」を言ったようでした。
マイクは、別に人を殺したわけでもなく、役人を買収したわけではありません。事業は順調でしたが、体の調子が悪く、最新の手術を受けただけなのです。
2000年初めにはじまった「自分の細胞を使った臓器の再生」は、2050年位にはほぼ完成しました。
つまり、心臓であれ、肝臓であれ、病気などで機能が損なわれた臓器はすぐに取りかえることができるようになったのです。
もちろん、脳の場合も、損傷した部分を再生できるのですが、体の麻痺が残ったり、記憶を失ったりする後遺症は残ることがあります。
多忙な実業家などはそれに我慢ができません。一瞬たりとも、自分が自分でなくなるのは許せないのです。
それを解決するために、経済界は資金を出し、医学はそれに答えました。つまり、「首のすげかえ」ができるようになりました。
首をすっと切って、別の胴体につなげるのです。まだ莫大な費用がかかるので、その手術を受ける人は限られます。ドルしか通貨がない時代ですが、強いて言えば10億円はかかります。
喧騒のなかで、大勢の人が大きな声でしゃべっています。
「おれは、結局は無罪になると思っていたよ」
「国といっても、今や市役所ぐらいの役目しかないから、世界連邦にお伺いを立てた判決しか出せないからな」
「そうだ。人間を増やすためなら、医学は何をしてもいいということだ」
「この50年の間に、2回も核爆弾が落ちて、人口も、70億人から3億人になってしまった」
「当分、核爆弾は落ちないとしても、ウィルスで死ぬ人間が年間1000万人もいる。人間はとっくに絶滅危惧種のトップランク入りだ」
「それなのに、マイクはどうして罪に問われたのだ?考えれば考えるほどわからなくなるんだよ」
「元々は、脳に異常がないが、体に致命的な損傷がある場合、許可があればその反対の誰かの胴体をつけることができるということだったんだな?」
「そうだ。でも、体に損傷がないのに、金で胴体を買うものが出てきた。不正に認可を取る金と胴体を買う金がいるのに」
「最近では、自分の子供の胴体に優れた知能を持つ者の首をくっつける親まであらわれた」
「そのへんからわからなくなるよ。それじゃ、自分の子供の首はどこへ行ったんだ?」
「まあ、それはなかったことにしようということなんだな」
「家を守ろうとしたのだ」
「優秀な子供を養子にしたらいいのに」
「愛情を、一人の子供に注ぎたかったんじゃないか」
「マイクは不正じゃなかったのに」
「ただ、マイクは肝臓をやられていたので申請を出したが、子供のとき、親が、どこかの子供の頭部に変えたようだ。それが発覚して、今回のすげかえは認められなかった。
しかし、マイクは、命の危険があるといって、無許可で手術を受けた」
「マイクは、スイスの最高裁判所に上告した」
「『本来なら、すぐに認められるケースなのに、本人があずかりしらないことで認められないのは不当である』という判決が出るまで4年かかった。これで。マイクも事業を再開できる」
「まあ、逮捕されたのは、警告の意味もあったんだろう。顔が女、体が男も出てきたし、その反対も」
「女房の顔を自分の好みに変える輩(やから)もいるだろうな」
「もういるよ」仲間はぷーっと噴きだした。
「それくらいにしておけよ。おまえはアルコールが入ると声が大きくなるから」
「それじゃ、今度は、別の顔になるよ」
音楽が響きわたりました。パーティもいよいよ佳境に入ってきました。

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