ウエブ

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(60)

「ウエブ」
「パパ、ウエブってどういう意味なの?」ジョロウグモのタカシは、枝と枝の間に張る巣
ができたので一服している父親に聞きました。
うまくできないときは機嫌が悪いので近づくことができないのですが、今日は機嫌がよさそうでした。確かに父親しかできない巣ができていました。精緻と頑丈を兼ねそなえていて、これだけのものを作れるのは近所にはいません。
友だちからも、「きみのパパはすごいなあ」と言われるのがタカシの自慢です。
「ウエブか。確かわしらが作る巣のことだろう。それがどうした?」
「へえ、そうなの。この前、何人かの人間が森の中を歩いていたんだけど、大きな声で、ウエブ、ウエブとしゃべっていたんだ。何のことだろうかと思って」
「多分、その場合は、わしらが作る巣のことではなく、人間が作りだした巣というか網のことだろう」
「人間も、ぼくらみたいにして、食べものを取っているの」
「いや、ちがう。人間を結びつけて、情報を伝えるものだ。目には見えないけど、あっという間に世界中を駆けまわるそうだ」
「でも、昔からあったわけじゃないのだろう」
「ぞうだ。100年ぐらいしか立っていないだろう」
「それじゃ、ウエブは、自分で作れるものなのか」
「おまえも、すごいものを作れるようになれよ」
父親は、冗談のつもりでしたが、父親を尊敬していたタカシは、それ以来、友だちと遊ぶこともせず、研究を続けました。
母親は、「タカシ、早く寝なさい」と心配しましたが、「今までなかったウエブを作りたいんだ」と言って聞きません。
やがて、見事なウエブを作るようになりました、しかも、カブトムシが勢いよく飛んできても逃げることができないほど頑丈なものでした。父親のウエブは頑丈でしたが、それほど強くはありません。
タカシのウエブは評判になり、近郊近在から見学にくるようになりました。
巣にひっかかったカブトムシやスズメを見て、「こらぁすごいもんだ」、「天才としか思えん」と」と感嘆しました。
「わしらにも教えてくれんか」と大人たちから頼まれると、隠すことなく教えました。
がんばれば、みんなの役に立ち、喜んでもらえるとわかったタカシは、さらに寝る間も惜しんで研究しました。
ある日、ママが、タカシを呼んで、「タカシ、お前は立派なことをした。パパとママも鼻が高いよ。でも、そろそろやめたほうがいいのじゃないか」と言いました。
「ママ、ウエブというものは、人間よりぼくらのほうが先輩なんだ。先輩の意地があるから」と答えました。
「でも、最近はリスやイノシシまで逃げられなくなったそうじゃないか。そんなもの食べられないよ。そのうち、人間でもひっかかったらたいへんだよ。わたしらが目の敵(かた
き)にされてしまうじゃないか」
タカシは、パパやママ、そして、みんなのためにがんばってきたことがいけなかったと情けなくなりました。
それを聞いていた父親は、「おまえはすごいよ。家(うち)の家系で、おまえのような天才が出るとは夢にも思わなかった。これからは、おまえが考えたウエブを他に使えないか考えてみろよ」と助け舟を出しました。
タカシは、父親のアドバイスを理解して、「ウエブの他分野への利用」について研究をはじめました。
あるとき、サルが、腕も痛そうにしながら歩いていました。それを見たタカシは、ウエブの作り方を工夫して、サルにプレゼントしました。
「情けないが木から落ちて腕を折ったので、これがあれば早く治る」と、腕をウエブでつりました。
それが評判になり、大勢の動物が来るようになりました。
ゾウの前足のときはひじょうに苦労しましたが、なんとかゾウの体重にも耐えられるものを作ることができました。
キリンが寝違えたときやライオンの顎がはずれたときも何とかやりとげました。
赤ん坊やおとしよりのためのハンモック、腰を痛めたときのベルトなど、用途に合わせたウエブが作れるようになりました。今や、大勢の弟子も育てていて、森中の尊敬を集めています。
森の中に入ると、気持ちよくなるのは、どこの森でも、タカシのようなものがいるからかもしれませんね。

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