チュー吉の挑戦
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(10)
「チュー吉の挑戦」
「チュー吉、こっちへ来なさい!今度は許さないわよ」
久しぶりに家に帰ってきたチュー吉にママはたいへんなおかんむりです。
「ママ、ただいま。一体どうしたの?」
「どうもこうもないわよ。おまえは、人間に、地震が来ることを早めに知らせて、家にネズミがいることを歓迎してくれるようにするとか言っていたけど、みんなで天井を走りまわっただけじゃないの!
それで、また人間は、私たちを捕まえようと必死になって、多くの犠牲が出たのよ。
こんなことになったのも、私の躾ができていないからだと、みんなから責められて、パパが帰ってきたら、合わせる顔がないわ。
もっとも、若い女と出ていくと、なかなか帰ってこないけどね」
「地震が来るのをいちはやく知らせようと、みんなで待っていたんだけど、そうそう都合よく起きないんだ。
みんな飽きてきて、一度予知したときの練習をしようと、みんなでチューチュー騒いだり、走りまわったりしただけなんだ。
しかも、最近は3度や4度ぐらいの地震で、人間は驚かなくなっているようだ。
それで、今後どうするべきか考えなおすことにしたんだ」
「私たちをモデルにしたミッキーマウスが世界中の子供たちから好かれているのに、どうして本物の私たちがこうも嫌われているのかなんて、いちいち目くじら立てていてもしょうがないよ」
「でも、パンダという動物は、本物もモデルも人気があるんだ」
「ああ、知っているよ。目が殴られたようになっているやつだろう?
あれは仕方ないよ。絶滅危惧種で、レンタル料が年1億円のかかるらしいよ。それにひきかえ、私たちは絶滅期待種だよ」
「ママの考えは極端なんだよ。ぼくらだって、病気を治す薬を作るために役に立っているんだ。あとは、イメージアップの努力をすればいいだけだよ」
なんだい、イモの揚げフライって?」
「ママは、いつも食べものと結べつける。
源義経という昔のお侍がいるんだけど、今も人気があって、漫画やテレビではイケメンに描かれているけど、ほんとは目が細く、出っ歯だったらしいよ。
しかも、お調子者で、すぐ相手に同調する性格だった。それで、兄の頼朝は義経を殺そうとしたんだ」
「よくそんなことを知っているね」
「チュー助が教えてくれた。ぼくらは、人間の子供部屋に行くけど、チュー助だけは、大学教授なんかの書斎が好きで、そこで、好きな歴史の本を読んでいるんだ。見つかりにくいしね。つまり、それがイメージアップということだよ」
「とにかく、これからはお兄ちゃんやお姉ちゃんのように、おとなしくしていてちょうだい」
「いや、ぼくは決めたんだ。世の理不尽をなくすために、旅に出る。チュー助たちもいっしょなんだ」
「そんなことをすれば、殺されちまうよ。あるネズミなんか、いっそ殺されたらいいのに、籠に入れられて、1日中大きな車を回しているらしいよ。それで、苦しくて全身の毛が真っ白になっているという話だよ」
「それはハツカネズミという種類だよ。ペットとして飼われているんだ」
「まあ、気をつけていくんだね。みんなにはママから言っておくから。
『家政婦は見た』のように、よく見てから動くんだよ」
「ママは相変わらず古い。今は、『家政婦のミタ』なんだ」
「どうでもいいけど、人間より私たちのほうが、見るということにかけてはすぐれているけどね」
「今はテレビで、サッカー、バレーボール、スケートを見ているから、そう心配しなくていい」
「そうそう、まおちゃんの人気の陰にいた鈴木明子がNHK杯を取ったのはうれしいねえ。
今夜は、祝杯を上げなくっちゃ」
「ぼくの前途にも祝杯を頼むよ」