チュー吉たちの冒険

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(45)
「チュー吉たちの冒険」

「ヘークション、ヘークション」チュー次郎がくしゃみをしました。
「寒いなあ、今年の冬は」チュー次郎は、言いわけするように言いました。
「くしゃみが2回でたら、誰かがうわさをしているんだ」チュー作が言いました。
「じゃ、ママがぼくのことを心配しているんだ」
「帰りたいのか」
「そんなこと一言も言っていないじゃないか」
「帰りたいんだ。そして、ママに甘えたいんだ」
「おまえこそ帰りたいから、そんなことを言っているんだ」
「何を!」チュー次郎とチュー作は取っ組みあいをはじめました。
「おい、やめろ、二人とも」チュー吉が止めました。
2人は、相手を睨みつけながらも体を離しました。
「人間に聞こえたら、また毒をおかれるぞ!テレビか何かで、こんなネズミがいるというニュースが流れたら、ひとまず帰ろうと言っているじゃないか」2人はうなずきました。
「そうだ!ぼくらの思いを込めた詩がある。『男児、目刺しを食べたら』だったか。チュー作、何だっけ?」
「きみも、よくそんなでたらめを思いつくなあ。
男児志を立て郷関を出(い)ず
学若(も)し成る無くんば復還(かえ)らず
骨を埋(うず)むる何ぞ期せん墳墓の地
人間(じんかん)到る処(ところ)青山(せいざん)有り
幕末の僧、釈 月性(げっしょう)の漢詩だ。一度、志をもって故郷を出たからには、実現しないかぎり、故郷には帰らない。たとえ異郷で死んでも、墓になる場所は、どこにでもあるという意味だ」
「そうだった。すばらしい詩じゃないか。でも、死ぬ前に夢を叶えるのがベストだから、みんなでがんばっていこうじゃないか」
そのとき、近所からものすごい声が聞えました。「ん?何だ、あれは?」
確かに、火がついたような泣き声が聞こえます。
「人間の子供か?」、「いや、ちがう。ネコが鳴いているんだ」
「サカリがついているのか」
「こんな真昼間から?」
「あいつらは、人間の前では、『一生おそばにいますわよ』と猫なで声を出すくせに、本性は、本能丸出しの蓮っ葉女だ」チュー次郎の兄のチュー太郎が吐きすてるように言いました。
「まあ、まあ、そういうな。とにかく、誰か見てこいよ」
「じゃ、ぼくが言ってくる」とチュー造が言いました。以前、1人暮らしのおばあさんがネコにエサをやりだしたのを報告したことがあります。
しばらくすると、チュー造があわてて帰ってきました。
「どうしよう?近所の家に入った母子のネコらしいんだ。子供が一人で部屋に入ると、ドアが閉まってしまって出られなくなったようだ。
その家の人間はネコが大嫌いなようで、以前捕まったネコはひどい目にあされたのを母親は覚えていて助けを呼んでいるのだ。子供も、中で激しく鳴いていた」
「どうしてわかったんだ?」
「そっと近づいたとき、部屋の前を走りまわっていた母ネコに見つかった。
逃げようとしたが、ぼくに、『助けてください』と頼んできた」
「とにかく行ってみよう」チュー吉が言いました。よし!みんなも答えました。
家に着くと、まだ大きな声が聞こえます。1階の奥です。和室なら何も問題がないのですが、洋間なので、どうしようもないのです。
母ネコは頭を下げました。チュー吉は、何とかしなければならないと決めました。
「ドアについているガラスを割るしか方法がないなあ。何かヒモのようなものはないか」しばらくすると、誰かが荷造りのヒモを持ってきました。「よし、これを天井にあるフックに掛けよう。他のものは、重石(おもし)を探してくれ」
チュー助とチュー造は、小さなダンベルを転がしながら戻ってきました。
「いいものがあったな」すでに天井のフックに通されていたヒモに、ダンベルを結びました。
「よし、上に引っぱろう」母ネコも加わって、ドアのガラス窓の高さまで引っぱりあげました。
チュー吉は、重石に乗り、「もう少し上、いや、下」と指示を出しました。そして、重石を揺すりはじめました。
重石は、大きく振れるようになると、ガラスに当たり、ガシャという音とともに割れました。
すかさず、母ネコは中に飛びこみました。チュー吉は、フックからヒモを外し、今度は、部屋の中に入れました。ヒモにつかまって子供が出てきました。それから、母ネコです。
「ありがとうございました」母ネコがお礼を言ったとき、この家の人間が帰ってきた気配がしました。「助かってよかったです。それじゃ」みんなあわててそこを出ました。
天井に戻ると、「『母は強し』だ」とチュー次郎は感激したように言いました。
「2回くしゃみすると、誰かが悪口を言っているという言いつたえもあるそうだから、ママに褒めてもらうために、もっとがんばるぞ」

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