雲の上の物語(6)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(44)
「雲の上の物語」
「ぼく、ちょっと出かけてくる」ビニール傘が言いました。
風がきつくなったので、また沖縄のほうにでも行こうかとみんなで話しあっている最中でした。
「みんなで行けばいいじゃないか」誰かが言いました。
「そうじゃないんだ。沖縄はみんなで行ってきてくれよ」
「どこへ行くんだ?」
「いや、どこからか『助けてくれ』という声が聞えるので、ちょっと様子を見にいきたんだ」
「ほんとか!聞えないなあ」
「ぼくにだけ聞えるんだよ。ビニール傘の声だ。この風で吹きとばされているんだ」
「それなら、みんなで行こう」黒い傘が言いました。
「でも、きみらのように作りがしっかりしている傘でも、この風は危険だ」
「あなたは、どうしたいの?」花柄の傘が、心配そうに聞きました。
「何もできないかもしれないが、声をかけてやろうと思って」
「チュー助に聞いたけど、冬は等圧線が狭いので、風が強く吹くそうだよ。用心しながら行けば大丈夫だよ」桜材の柄の傘が言いました。
「じゃ、みんなで行こう」黒い傘がみんなの意見をまとめました。
「すまないなあ。でも無理をしないでくれよ」
みんなで、ゆっくり北に向かいながら、徐々に下りていきました。確かに風がきつくなってきました。みんな風に慣れていますが、油断をすると吹きとばされそうです。
ゴォー、ゴォーと吹く風の中をビニール傘は下に急ぎました。みんなもついていきました。
確かに、「助けてくれー」という声がします。しかし、その声は、バタバタという音がしたかと思うと全く聞こえなくなりました。しばらくすると、また聞こえるようになりました。
ビニール傘は、その声を追って、上に行ったり、下に行ったりしました。みんなも、それについていきました。
ビニール傘の技術は飛躍的に伸びていました。そうしないと、高価な傘に伍して、雲の上で生きていけないからです。
「大丈夫か」ようやく、傘に追いついたビニール傘は声をかけました。
「目が回る。もうだめだ」若い声でした。
「体をすぼめて、体の先を風が吹いてくる方向に向けろ。そうすれば、吹きとばされないから」
「できない!風がきつくて、力が入らない」その傘は泣きそうに叫びました。
ビニール傘は、風が吹く方に行き、自分の体を少し広げました。他のものも、同じように
しました。
15,6本の傘が楯になったので、その傘は、何とか体をすぼめることができました。
「ああ、できた。少し楽になった」
「そうだろう?風の方向に気をつけているんだ」
「ありがとう。きみもビニール傘か?」
「そうだ」
「きみは、高そうな傘といっしょにいるのか」
「そうだ」
「そんなことができるのか」
「できる。今は、風がきつすぎて無理だけど、今度ぼくに会ったら、声をかけてくれ」
「ありがとう」助けられた傘は、少し風がおさまったので、ゆっくり下りていきました。
それからも、声が聞こえればく、みんなで駆けつけました。最初の傘のように助けることができた傘もありますが、骨がばらばらになり、そのままどこかに飛ばされてしまった傘もあります。
ある程度の損傷なら気力だけで助かる場合もありますが、ひどい場合は、気力だけは無理で、長い経験がいる技術がいるのです。
やがて、高層ビルの屋上につきました。そこには風除けがあるし、下の様子をじっくり見ることができます。どうやら歩道の傍の灌木に、大勢の仲間が無残な姿をさらしているようです。
ビニール傘はゆっくりしたに下りました。みんなもついていきました。ほとんどがビニール傘のようです。
「大丈夫か!」ビニール傘は大きな声を出しました。しかし、答えはありません。
しばらくすると、「うーん」という声が聞えました。「がんばれ」ビニール傘は言いました。
「重くて動けない」確かに、傘が、次ぎから次へと吹きよせられ、しかも、誰かの骨が刺さったりしているので、どうしようもないようです。
「よし、」ぼくにつかまれ」ビニール傘は、自分の柄を、声のほうに向けました。
声の主が何とか自分の柄をひっかけると、ビニール傘は引っぱりました。他のものが、ビニール傘の体に柄をひっかけて、ようやく抜けだすことができました。
そんなふうにして、5本の傘を屋上まで運ぶことができました。
「みんなありがとう。一人じゃ到底できなかった」ビニール傘は礼を言いました。
「きみが仲間になってくれて、どれだけ心強いか」黒い傘は答えました。
「ほんとにそうだ。同じ傘なのに、わざわざ嵐のとき使われるなんて同情するよ」誰かが言いました。
「いや、チュー吉たちも、ミッキーマウスのモデルなのに、なぜ自分たちは嫌われるのかと言っているが、誰にでも理不尽なことがいっぱいある。ぼくも、チュー吉たちのように、そんなことに負けないような人生を送りたいんだ」ビニール傘は答えました。

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