シーラじいさん見聞録

   

オリオンとミラが怪物を連れてかえってきたとき、リゲルと若いシャチは興奮した。みんなで怪物に抱きついたので、怪物は恥ずかしそうに立っていたほどだ。
「よかった」、「ミラも戻ってきて、みんな揃った!」、「これでニンゲン救出作戦は成功したようなものだ」若いシャチたちの喜びはなかなか終わらないから、「おまえたち。クラーケンが戻ってきたらたいへんだ。静かにしろ」とリゲルが注意した。
しかし、「若いものが思うとおりだ」とリゲルは考えた。「ミラも帰ってきたし、怪物と力を合わせれば、おれたちの歯が立たない岩でも崩せる」
「オリオン。準備はできたようだな」リゲルはオリオンに言った。
「よかった。これで何とかできるかもしれないような気がしてきた」いつもは慎重なオリオンもリゲルに同調した。
「明日から全力を出そう」リゲルはみんなに言った。
オリオンは、怪物にもしクラーケンが来たときに隠れる場所を教えた。
「ここはきみが閉じ込められていた場所に似ている。ここならやつらは入ってこられないから安心だ。ぼくらが来るまでここで待っていてくれないか」
「明日からきみの助けが必要だ。絶対に相手の挑発になったりしないでほしい」リゲルも念を押した。
怪物はそれがわかったようでうなずいた。「それじゃ。明日」リゲルたちは海面に戻った。
翌朝早くオリオンは何か感じた。海を見渡した。まだ暗かったが変わった様子ははない。
リゲルが来た。オリオンは、「今何か感じなかったか?」と聞いた。
「風もないのに揺れたような気はした。気のせいかな。ミラが下を通ったからかな」
「それならいいが」そのとき、カモメが降りてきたので、オリオンは、「何かありましたか?」と聞いた。
「おれたちも、あれっと思ったんだ。海が揺れたからな」
「やはりそうしたか。それでどうかなりました?」
「しばらくしたら揺れは止まったし、その後は何も変わったところはない」
「ありがとうございます。それじゃ、行ってきます」
若いシャチも集まってきていたので、海底もめざした。
しかし、しばらくの間異常は感じられなかかったが、どこか今までと違うようだとオリオンは思った。
しかし判然としない。そのまま潜っていると、海が揺れているように感じた。
「今何か起きましたか?」若いシャチが近づいてきた。
「確かに揺れたな」オリオンが答えた。
「どうなったのですか?」
「地震だ!」オリオンもようやく合点が言ったように言った。
「地震?」
「地面が揺れているのだ」
「海にも地面があるのですか?」
「もちろん。地球は地面でできているとシーラじいさんから聞いた。水があるところが海で、水がないところが陸なんだ。
地面の下で何か起きたので海が揺れた。海底がどうなっているか心配だ」
深くなるにつれ、まわりの様子が昨日までとちがう。
濁っているからはっきり確認できないが、目印にしてきた山脈の麓も崩れているようだ。
オリオンは怪物のことが頭に浮かんだ。ここから出るなと言ったばかりにまた埋もれてしまったのではないか。埋もれたぐらいならいいが、もし岩が崩れていたらどうなるのか。オリオンは急いだ。
ミラはすでに遠くまで調べていた。「オリオン。かなり広い範囲で崩れている。昨日までとは全くちがう光景だ。おっと!」また揺れた。みんな集まってきた。
「一度上がったほうがいいが、怪物が心配だ」リゲルがみんなを見た。
「様子を見てから上がるから先に上がってくれないか」
「とにかくみんなで探しましょう」
「ぼくらもがんばりますから」
「しかし、どのへんにいるかわからないんだ。とにかく、ぼくが呼んでみるから」
オリオンは崩れた岩のまわりを、「大丈夫か。無事なら声を出してくれ」と叫びながら動きまわった。
ミラも探したいと思ったが、怪物の声が小さければ、オリオンが聞き取れないのでしばらく様子を見ることにした。
オリオンはしばらく探していたが、「ちがうかもしれないが、この奥で何か動いているような気がする。ミラ。この岩を少しどけることはできないだろうか?」と聞いた。
「それは構いませんが、崩れるようなことはありませんか?」ミラは心配した。
オリオンは岩の状態を調べた。そして、「ここを押してほしい。もし、崩れることがあっても、ここで止まるから大事には至らない」

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