シーラじいさん見聞録

   

「おい、ペルセウス、クラーケンががいるぞ」という声が聞こえた。ペルセウスは振りかえった。友だちだ。それに、仲間もいる。
「どこにいる?」、「かなり下だ。ぼくらが様子を伺っていると、どこからか巨大な影があらわれた。その影のまわりも、4つ5つの影があった。
それらを追いかけようとしたが、今度は下に向かった。しばらくついていったが、ぼくらはそれ以上いけなくたんのであきらめた」友だちは興奮気味に言った。
「ものすごく大きい。前のやつらだ」、「一番大きい影は足が長くて気味が悪かった」、「地獄から来たとし思えない」仲間も、口々にペルセウスに説明した。
「わかった。どこへ行ったか教えてくれないか」ペルセウスは頼んだ。
「よし、ついてこい」
友だちとその仲間の後についていった。かなり潜ると、友だちが止った、「ここから一気に潜っていったので見失った」
「ありがとう。おれはもう少し調べてくる」
「えっ、行けるのか」
「ああ、仲間のクジラに特訓を受けたので、もう少し行ける。きみらは戻っておいてくれ」「それじゃ、気をつけてな」
ペルセウスは、ミラに教えてもらったように、体を垂直にして海底をめざした。
体が重くなりだしたとき、何か感じた。動いているようには思えないが、何かがいるような感じだ。
苦しくなってきた。あきらめようとしたが、すぐにここに来ることは体力が許さないだろうと思ったので、残っている気力を振りしぼって、奥をめざした。
体がつぶれそうになってきたとき、大きな影が近くにいるのがわかった。体の2,3倍の長さの足が動いている。薄れていく意識のと戦いながら、こいつがクラーケンにちがいないと思った。
オリオンやリゲル、ミラが、そして、友だちが見たクラーケンが目の前にいると思ったとたん、体の力が抜け、どんどん浮きあがった。
しかし、体力は全く残っていないので、体の制御ができない。自分が上に向かっているのか下に向かっているのかさえ分からない状態だった。動きが止った。
「大丈夫か」友だちがかけつけた。
言葉を言おうとしたが、口をぱくぱくあけるしかできなかった。
ようやく、「大丈夫だ。きみらが言うようにクラーケンだった」
「前のときは、今のはなんだろうと話していると、海が盛りあがるような感じになったんだ。それで、下に行くと、怪物が何かに襲いかかっていたんだ」
「あれはすごかった。襲われたものは、光や音を出したりしていたが、やがて底に引きこまれていった」
「襲われたものは、時々見たが、まさかあんなふうになるとは」
「ところで、ペルセウス、きみはすごいなあ。ぼくらの仲間でそんなに潜れるものは見たことないよ」
「大したことない。仲間がやっているのを真似しただけだよ。でも、ぼくらはぼくらしかできないことがあるから、それを伸ばしたほうがいいと思う。ぼくらの仲間もそう言ってくれている」
「そうか。何でも言ってくれ。これからどうしようか」
「そうそう。クラーケンは一気に襲ったと言っていたな」
「そうだ。恐ろしく早く襲いかかった」
「でも、ニンゲンは注意しているから、このあたりには近づかないかもしれないが、みんなでクラーケンの動きを見張ろう」
そのとき、カモメの鳴き声が響いた。「あれ、おかしいなあ。こんな夜更けに」友だちが言った、
「仲間かもしれない」ペルセウスは、そう言うと、ジャンプを始めた。
友だちとその仲間も、ペルセウスの真似をして、つぎつぎとジャンプした。鳴き声はだんだん大きくなった。
「おーい。ぼくだ」ペルセウスは叫んだ。
「ペルセウスか。たいへんだ」カモメの声が聞こえたかと思うと、近くの海に音を立てて止まった。
「どうしたんですか!」
「オリオンが海に連れだされようとしている。もう車に乗って、海に近づいているかもしれない。いや、もう船に乗ったか」
「やはりそう来たか」
「どういうことだ?」友だちが聞いた。
「オリオンを囮にしてクラーケンをおびきよせる作戦を始めたのだ」
カモメは、「そうだ」と答えたが、友だちは、ペルセウスの話についていけないようだった。
「ニンゲンは、オリオンをクラーケンの仲間と見ていたことがはっきりわかったということだ」
「シーラじいさんには知らせに飛んでいるから心配はいらない」カモメが言った。
「それはありがたい。クラーケンがこの下にいるんですよ。しかし、オリオンが近くに来ているのに、おれは何もできない!」
「何を言っている。今オリオンを励ますのはお前しかいないぞ。わしらの仲間も船を追いかけているから心配するな。みんないるんだ。それに、おまえには友だちがたくさんいるじゃないか」
「ああ、そうです。そうです。檻を壊すことはできないけど、檻に近づいて励ますことならできる」
「ぼくらも手伝うよ」
「ありがとう。頼むよ。それじゃ、サウサンプトン水道のほう戻ろう」
「先におれが戻っておくぞ」カモメは飛びさった。
夜中だというのに、ヘリコプターがかなり飛んでいる。「もうオリオンは近くにいるかもしれない」

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