シーラじいさん見聞録

   

アントニスはダニエルの気持ちに応えたかった。
「ダニエル、これはどうだ。研究所に出入りする清掃車がいるはずだ。そこから糸口を見つけようじゃないか」
「なるほど。そこの会社に頼んでみるのだな」
「そういうことだ」
翌日3人は海洋研究所が見えるレストランに入り見張ることにした。研究所は道路の反対側にあるが、100メートルは離れているので、窓際のテーブルにすわらなければならなかった。3時間近くいたが、それらしき車は見つけられなかった。
「昼前は遅いかもしれないから、夕方に出直そう」とダニエルが提案した。
5時前に再び研究所の近くに来た。今度は、観光客のように通りに立ちどまって、それとなく様子を伺った。
1時間が過ぎたころ、「おい、あれだ。会社名を覚えてくれ!」ダニエルが叫んだ。
まさしく収集車だ。反対側に曲がる。アントニスは、スピードを出す車に書かれている字を頭に入れた。
ホテルに戻って、すぐに「ストラットンズ清掃会社」を調べた。
それはすぐにわかった。「今から行ってくるよ。直接出向いほうが相手も断りにくいから」ダニエルは、そう言うと出かけた。
ホテルからタクシーで30分以上かかったが、すぐにわかったので面接を求めた。
「仕事を探しています。どんな仕事でもいいですから、お願いできませんか」ダニエルは頭を下げた。
責任者はダニエルの顔と履歴書を交互に見ながら、じっと話を聞いていたが、「どうして大きな新聞社を辞めたのか?」と聞いた。
「世界は今後どうなっていくのか知りたいのですが、仕事をしていては自由に動けません。幸い独身ですから、思い切って仕事を辞めました。ただ、そのためにお金がいるものですから」ダニエルは頭をかいた。
「きれいな仕事じゃないぞ」
「かまいません。どんなことでもします」
「明日からでもできるか」
「できます」
「それなら、明日7時に来てくれ」
「ありがとうございます。厚かましいのですが、友だちも一人雇ってもらえませんか?」
「どんな人間だ?」
「同じように新聞社を辞めて世界を回っています」
「類は友を呼ぶか。いいだろう」
「ありがとうございます。じゃあ、明日7時に来ます」
ダニエルは飛んで帰った。
「アントニス、ニュースだ!」ダニエルはホテルの部屋に入るやいなや叫んだ。
「OKか」
「OKどころか、きみの仕事も見つけてきてやったぞ」
ダニエルは詳しい話をした。そして、話が終わると、イリアスが、「ぼくなら大丈夫だよ。本を読んだり、カモメを待ったりしているから」と言った。ペルセウスが自分を心配するだろうと考えたからである。
「大丈夫か。夕方には帰ってくるから」アントニスhがもう悩む必要はなかった。
翌日、2人は6時過ぎにホテルを出た。
会社に着くと、すでに大勢のスタッフが集まっていた。ひょっとして別の場所に行かされることはないかと心配したが、「きみら二人は海洋研究所に行くことになる。あそこは広いのでスタッフが足らないのだ」と説明された。2人は顔を見合わせて喜んだ。
10人近い男女がマイクロバスに乗りこんだ。ペルセウスは、隣にすわったボブという20代の黒人に仕事の内容を聞いた。
「なーに、ごみを集めるだけで頭を使いませんよ。ところで、お二人は新聞記者だったそうですね」
「ああ、そうなんだ」
「ぼくも、ジャーナリストに憧れています。どうしたらなれますか」
「ダニエルが詳しいから、また話してくれるよ」
「ぜひお願いします」
ようやく海洋研究所の中に入った。オリオン、待ってろよ。もうしばらくだ。アントニスは、心で叫んだ。
スタッフはスタッフルームに入り、ユニフォームに着替えてから、仕事の分担を聞いた。
2人は部屋を回るのではなく、各部屋から集められたごみを取集車に運ぶ仕事を言いつけられた。
ずっと外での仕事だったが、建物に入るときは、廊下などに張ってある案内板や研究所にいるニンゲンを観察した。
ホテルに戻ると、イリアスが飛んできた。何かあったかとあわてたが、シーラじいさんの手紙が来たと言うのだ。
アントニスとダニエルは急いで手紙を読んだ。「シーラじいさんたちがオリオン救出作戦をはじめた」
「えっ、どうしたの!」イリアスが叫んだ。
「ペルセウスがこの地区まできているそうだ。多分、前のようなことがあれば、すぐにリゲル、ミラたちに知らせるのだろう」
「みんなオリオンの近くに集まってきた。そして、海ならおれたちの勝ちだね」イリアスは興奮した。
「そうだ。研究所の中はとても広いが、友だちもできそうだから、早く見つけるよ」
「そうしたら、カモメや小鳥に伝えて、その場所を集中的に見張ってもらうんだ」ダニエルもつけくわえた。
「どんな動きも見逃さない。イリアス、これから忙しくなるぞ」アントニスも言った。

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