シーラじいさん見聞録

   

アメリアを中心とした連合国が協力した治療が行われた結果、オリオンは驚くべき回復を見せていた。
すぐにでも泳がしてみようかという話が出てきたほどだ。
オリオンは、ニンゲンがそう話しているのを聞くと、「ベッドにくくられた状態」から解放されるのを心待ちにしている一方、マイクにはまだ十分話していないという思いがあった。
しかし、マイクは話を聞いてくれるが、ぼくを信用してくれているだろうか。ひょっとして、ぼくの秘密を探ろうとする作戦かもしれないという疑念もあった。
ただ、骨などの回復は検査で明らかになるだろうが、脳の回復はそう簡単にわからないだろう。ニンゲンが一番知りたのはそれだ。
そこで、オリオンは、ニンゲンが脳波を調べているときに、わざと意識を薄れるようにした。
「オリオンの意識は戻っているのかね」誰かが聞いている。
「それがよくわからないのです。脳波は乱れていないのですが、ときどきなくなります」
「意識がないということか?」
「そうです」
「それなら、思いきって泳がしてみたらどうか。体を動かせば。意識が一気に戻ることがあるかもしれない」
「今度の会議で提案しましょうか」
「そうしよう」
マイクは黙ってくれているのだなと思うと安心した。
しかし、急がなければならない。またあのようなことが行われるかもしれないからだ。
マイクが来ると、目をつぶっていてもわかるようになった。しかし、他の者もいることが多かった。
そんなときは、マイクも申しわけなさそうに、オリオンを見た。
しかし、検査の合間に一人で来てくれた。時間がないので、早口で話した。
「オリオン、最近、うなされているぞ。体調は大丈夫か」
「体は元気です。ただ、シーラじいさんたちがクラーケンに攻撃されている夢をよく見ます」
「イギリスの南部や東部にはいない。しかし、西部や北部にはまた集まりつつあることは確認されている」
「ぼくをどうするか決まったのですか」
「いや、まだだ。まず泳がしてみることは決まりそうだ。オリオン、一つ聞きたいことがあるんだけど、シーラじいさんたちが、きみがここにいることを知っているとどうしてわかるんだい?」
オリオンは一瞬詰まった。「フランスにいたとき、後から連れてこられたイルカが、『おまえを探している仲間がいた。イルカだけでなく、シャチや妙な魚がいた。どうして、いろいろなものが仲間なのだ?』と言っていたので、ここにも、来てくれているはずだと思ったのです」
「そうか。それでわかった。きみの苦しさはよく理解できる。シーラじいさんたちと早く会えるように、ぼくもやってみるよ」
「ありがとう」マイクは、時間が来たので出ていった。

リゲルは、シーラじいさんと話しあって、東に進むことにした。そして、アイルランドとイギリスの間のケルト海が一番安全で、何かあれば、すぐにオリオンを助けにいくことができるからである。もちろん、ミラでも目立たないほどの広さだ。
クラーケンが集結してきたり、それを防ごうと駆逐艦や潜水艦、あるいはヘリコプターが来たりしても、ケルト海に避難すれば、危険を避けることができるのである。
そこに着いてから、シーラじいさんが留まる場所を探した。しかし、予想以上に浅い海だったので、イギリス海峡との境目に陣を張ることにした。
警戒を強くしなければならないが、オリオンが前のようにイギリス海峡に出てくれば、3時間程度で助けることができるのである。
リゲルは、カモメたちに自分たちの考えを報告した。それから、ミラとシリウス、インド洋から来てくれたシャチ2頭を連れて、イギリス海峡を東に向かった。

その他の者はそこに留まり、シーラじいさんを守るとともに、クラーケンの動向を探ることになった。
ペルセウスが何か気づいたら、カモメによって、リゲルもしくはシリウスなど前衛にいるものがすぐに向かう。カモメは、さらにシーラじいさんに伝え、そこにいるものも急ぐことになるのだ。
もちろん、ベラは、それだけでなく、シーラじいさんの指示に従い、手紙を作成することも重要な任務である。
今回も、すぐさまアントニスに、今の動きについて手紙を送った。返事はすぐに帰ってきた。
リゲルたちがも戻ってきたとき、シーラじいさんは、手紙の内容を話した。
「アントニスと友だちは研究所の中で仕事を見つけたそうじゃ。早くオリオンがいる場所を見つけて、オリオンの様子を知らせると書いている」
「すごいじゃないですか。警戒が強いのに、よくそんなことができたものですね」リゲルも感心した。
「オリオンを助けたいという思いが仲間を増やしているのじゃろな」
「アントニスやペルセウスが、オリオンの動きを察知してくれたら、ぼくらも助かります」
リゲルがそう言うと、ミラも、「まとめはぼくがやるぞ」と力強く言った。
そして、それぞれの持ち場に急いだ。数日後、リゲルたちが、イギリス海峡の様子を見ていたとき、カモメが急降下した。
そして、「クラーケンらしきものがこちらに向かっています」と叫んだ。

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