シーラじいさん見聞録

   

「そっちへ行ったぞ」、「急げ」子供たちは口々に叫びながら追われ役を追った。
お兄さんは、さらに体を揺すったが、ついていくことなどはしなかった。それは子供たちへの声援のようだった。
リゲルも、思わず体が揺れているのに気づいた。子供たちが見えなくなったので、自分の体を動かしてみた。
ここに来たとき、半身が痺れていたのに自然に泳げたことに驚いたが、今はさらに体が軽くなっているような気がした。
少し泳ぎ、体の向きを横へゆっくり変えてみた。以前と変わらない。今度は、上に向かい、そして一気に腹を上に見せて反転した。痛みもない。ひょっとして痺れは取れているかもしれないと思えた。
リゲルは、お兄さんが自分の行動をじっと見ているのに気づいた。微笑んでいるようだ。
リゲルも笑顔を返した。お兄さんとぼくが元に戻ればすべてうまくいくのだ。
すると、シーラじいさんやオリオンたちの顔がうかんだ。

オリオンも、リゲルを連れてかえってきたとき力を入れつづけたので、筋肉をひどく痛めていた。そして、意識が遠のくほど疲れていた。リゲルが回復をするのを待ちながら、自分もゆっくり体を休めたので、自分を取りもどすことができた。
ミラやペルセウス、シリウス、ベガもしばらく休めたことで、体の奥から力が湧きあがるのを感じていた。
ミラといえども、シャチは油断ができない存在だからだ。弱気になったら命を落とすことがあると、「海の中の海」を守ってきた父親が言っていた。
そして、心身ともに自分を取りもどすと、仲間に会いたくなって、また集まるようになった。海の奥にある岩場で休んでいたシーラじいさんも顔を見せるようになった。
みんなは、今までのように世界についての疑問をシーラじいさんに聞いた。
「シーラじいさん、今リゲルがいるところは、大人だけが下から強い力で引っぱられるそうですが、それはなぜですか。
ぼくらが知らないままそんな場所にいけば、死んでしまうというじゃないですか」ペルセウスが聞いた。
「多分それは磁力があるのじゃ」
「磁力?」
「物質を引きつけるたり、または撥ねつけたりする力じゃ。あの場所は特別に強いのじゃろな。
しかし、大人はそれを跳ねつけることができずに引っぱられ、子供の体だけが浮くとは不思議なことじゃ。
力を入れたときの体の密度と関係があるのか。しかし、磁力は金属以外は引きつけないと聞いているがわからんな」
「金属?」
「これはニンゲンが文明を作るきっかけになったものじゃ。わしらが目にする船とか飛行機には多くの金属が使われている。海の底にも金属があるが、わしらにはそれを使う知識がない。
そういう場所が他にあるかどうかはわからんが、何か気配を感じたら近づかんことじゃ」
その後も、みんなの質問にシーラじいさんが答えていった。シーラじいさんでもわからないことが数多くあったが、何がわかっていて、何がわからないかを分けながら考えていく方法は、オリオンたちを夢中にさせた。
みんなで、シーラじいさんの話を聞いていると、カモメが低空を飛ぶようにきた。あのカモメだ。
高く飛んでいると他の鳥に襲われることもあるというのだ。しかし、低く飛ぶことはひどく疲れるようだった。
「みんな大丈夫だった?」
「ぼくらは大丈夫です。リゲルが回復するのを待っています」オリオンが答えた。
「リゲルは自由に泳げるようになっているようよ。あそこはあまり低く飛べないけれど、ときどき仲間が様子を見てくれているの」
「そうですか。それはすごい」オリオンは叫んだ。
「お兄さんだって、あんな行動を取らないようになっているわ。おとなしくしていて、家族が話しかけると、何か答えているようよ」
「そりゃ、よかった」
「もうすぐ帰ってくるかもしれないわ。
ところでシーラじいさん、わたしたち鳥同士がどうして争うようになったんですか。遠くから大群が来ると、とりあえず逃げてしまいます。鳥の中にもクラーケンの影響が出てきているのでしょうか」
「まだ争いはついているのか?」
「以前より仲間が殺されことが増えました。退去してどこかに向ったので、もう安心と思っていたら、ここらにいる連中も増えて、大勢の仲間もほとんどいなくなりました」
「クラーケンたちが空の者と結託するとは思えないが、どうしたんじゃろ。空から海の争いを見て、何か影響を受けたかもしれんな」シーラじいさんも見当がつかないようだった。
「そういうことで、今までのようにあなたたちのためにあまり動けないの。そうだからといって、このまま引きさがるのは悔しいわ。
それで、シーラじいさんに何か知恵をいただこうと思って、海に浮かんでいたものを集めておきました。それを仲間がもうすぐもってきますので見てもらえませんか」
そして、カモメはあちこちを見た。「どうやら来ましたわ」
3羽のカモメ低空を飛んできた。見ると1羽が何か大きなものをくわえていた。
そして、みんなの前に来ると、どさっと落とした。

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