シーラじいさん見聞録

   

「やがて暗闇の中に大きな影が見えてきた。パパが言っていた城にちがいないと思ったので、警戒しながら近づいたんだ。
パパはその近くで敵と戦った。パパの話では、あちこちから何かが近づいてきたので、城のほうへ行き、そいつらのほうに向くと、突然身動きができなくなった。
何かが体に巻きついているようだった。解こうともがいているときに、それは巨大な足だとわかった。それぞれに吸盤が何十とついていたからだ。
体に力を入れて逃れようとしたが、吸盤が食いこむので、どうすることもできず、ずるずると海の底に引きずられていった。
また、そいつは、パパの後頭部を噛みついてきた。だんだん息苦しくなってきて、意識がなくなりそうだったと言っていた。
しかし、最後の力をふりしぼって、体を垂直にもちあげて、背中に乗っているそいつの頭を岩に何回もぶつけた。
すると、巻きついている足が少し緩んだので、一気に上に向った。しかし、吸盤は外れずそのままそいつを引きずって上に向った。もう息がほとんど残っていなかった。
最初に向かってきた4,5頭の者も追いかけてきたが、そいつが体に巻きついているので、パパを攻撃することができなかった。パパは、その間にどんどん上に急いだ。
やがて、海が明るくなっていき、海面に飛びだした。思いっきり息を吸いこみ、次の体勢を取ったとき、体が軽くなっているのがわかった。もう誰もいなくなっていた。
しかし、しばらくすると体が激しく痛むようになった。このままでは死んでしまうと思って、ぼくらが病気のときに治療してくれる老人がいる場所に向った。
そこから使いの者が来て事情を話してくれたのでママとぼくらはパパに会いにいった。
パパは苦しそうだった。骨が見えるほど噛まれていたが背中のほうだったので、しばらく海の底に行かなければ大丈夫ということだった。
そのとおり徐々に元気になっていった。
パパの話では、やつらは明るい場所は苦手のようだ。そういうことを早く『海の中の海』に教えなければと思ったが、まだ泳ぐことはできなかった。
ぼくは、警戒しながら城に向った。しかし、何かあっても、パパは不死身なので助けに来てくれると思った。
近づくにつれて何か動いているに感じたので、そこから左へ方向を変えて、ぼくは目を疑った。
そこには、パパが言っていたような光景が広がっていた」
誰も何も言わなかった。しかし、その光景を早く知りたかった。
「パパが巨大な足をもつ者と格闘していたのだ」
みんなの緊張は高まった。「すぐにわかったのですか?」もう耐えられないとばかりに誰かが聞いた。
「ぼくらはどんなに離れていても声でわかるんだ。パパの声にまちがいなかった。
『おまえたちはどこから来たんだ』と叫んでいた。
敵は大きかった。パパ以上だった。そいつが、何本もの長い足でパパを捕らえようとしていたが、パパはうまくすりぬけていた。
ぼくはどうしようか考えた。でも、パパは、やつらの弱点はわかったと言っていたので、様子をみたほうがいいと判断した。
そのまわりには何かが何頭かいるのがわかった。これも前といっしょだ。
そのとき、そいつらから何か出るのが見えた。海に刺さっていくような速さだった。
それはパパの腹に当たった。パパは体を激しく動かした。すると足の長い怪物は逃げた。
しかし、パパは追っていかず、発射されたほうを振りかえった。ぼくは、「パパ、パパ」と叫びながらパパのほうに向った。
ぼくに気がついたパパは、「来るな」と叫んだ。パパの体から血があふれているのが見えた。パパは撃ったやつに向っていった。
そいつは一気に上に向った。しかし、パパが恐かったのかぎこちない動きだった。
ぼくは、パパが苦しそうにしていたが、あんな小さなものにやられるわけがないと思って、すぐに家に帰った。早くパパから今の話を聞きたかったのだ。
待っている間ママや弟たちに見たことを話した。
でも、パパは戻ってこないんだ。いくら待っても戻ってこないんだ。あちこちさがしてから、ここへ来たんだけど」息子は話を終えた。
「よくわかりました。でも、わたしたちもボスを待っているのです」リーダーが答えた。
「それでは他をさがします」息子は出て行くようにした。
「ちょっと待ってください」リーダーはあわてて止めた。
「シーラじいさん、どうしたらいいでしょうか?」そして、シーラじいさんの近くまで来て聞いた。
「たいへんなことが起きているかもわからんぞ」
「それでは、いっしょに探したほうが」
「しかし、やつらがいつ戻ってくるかもしれんので、幹部に判断をしもらうことじゃ」
ボスの息子にはしばらく待ってもらって、全員病院に急いだ。
幹部は、話を聞くと、じっと考えていたが、「海にいる者はそんなことはできない」と言って、シーラじいさんを見た。
「幹部が言うとおりじゃ。それはニンゲンが乗った潜水艦だろう」
「それじゃ、何を出したのですか?」リーダーが聞いた。
「多分ミサイルというものじゃ」
「ミサイル?」
「ニンゲン同士が争うとき、敵の潜水艦を攻撃するものじゃ」
「それじゃ、生き物は?」
「無傷ではすまないじゃろな」不安が広がった。
「しかし、一発ぐらいで致命的になるとは思わないが」シーラじいさんはあわてて言った。
「それにしても、ニンゲンはなぜボスを狙ったのですか」見回り人の副官が聞いた。
「わからん」
「ニンゲンは自分たちの仲間を殺したのはやつらだということはわかっているはずなのに」
新しく見回り人を統率することになった副官は執拗に食いさがった。
「わからないことが多すぎるが、息子を一人で行かすと、潜水艦を敵と思って向かっていくかもしれない。そうなれば、また犠牲者が出る」
シーラじいさんは苦しそうに言った。
幹部も、「息子といっしょにボスを探せ」と指示を出した。

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