シーラじいさん見聞録

   

オリオンたちも行きたかったが、やつらが帰ってくるかもしれないので、ペルセウスが1人で迎えにいくことになった。
「ペリセウス、すまないなあ」オリオンは声をかけた。
「大丈夫だよ。ぼくはきみやシーラじいさんに助けてもらった。国がむちゃくちゃになっていたとき一つ一つやりなおすことを教えてくれた。
今こそ恩返しをしなければならないときと思っているんだ。ママもそう言ってぼくを送りだしてくれた。
ぼくはパパのことをおぼえていないけれど、ぼくをみんなの役に立つ者にするというのが口癖だったと聞いている。
それに、ぼくは小さいから、やつらが今の10倍大きくても恐くないよ。いや大きいほど自由に動きまわれるからね」といたずらっぽく笑った。
オリオンも笑顔で「それでは気をつけて頼む」と答えた。ペルセウスは姿を消した。
「海の中の海」は静寂に包まれていたが、警戒を怠るわけにはいかないので、見回り人や改革委員会のメンバーも交代で監視をした。
改革委員会の部屋の中も落ちついていた。幹部の状態は一進一退だったが峠を越し回復に向っていたからだ。
翌日遅く監視は波がうねったのを感じた。すると黒い影が次々と飛びこんできた。
ペルセウスとともにゲルや弱虫たちが帰ってきたのだ。それに気づいた者が奥から出てきた。
「やあ、お帰り」、「無事でよかったよ」、「ただいま」、「また会えてうれしい」みんな口々に叫んだ。そして、ぶつかって喜びをあらわした。
「幹部は?」リゲルがオリオンのそばにきて聞いた。
「もう大丈夫だ。ここに帰ってきたときは何もないように思えたが、かなり傷を負っていたようだ。
意識がなくなるときがあったが、医者の治療がうまくいって、体を動かすまでになった」
「そりゃよかった」リゲルは安心した。
「やつらの攻撃はすごかったらしいな」
「ああ、上官がよくひきつけてくれて作戦は成功した」
「幹部の友だちのことも聞いた。娘は悲しんでいるだろう?」
「そう思うが、ぼくたちに気を使わせないようにしている」
オリオンは、弱虫が近くにいるのに気づいた。
「幹部がきみの勇気をほめていたよ」
「いや、そんなことはない。ペルセウスがきみたちのことを話してくれたが、ぼくはまだまだやつらの顔が近づくまで待つ勇気がない」弱虫は謙遜した。
「いや、よくやったよ。失敗したら作戦はうまくいかなった」リゲルが弱虫をほめた。弱虫は笑顔を見せた。今まで先輩に物を言うどころか、近づくこともできなかったが、やはり今回のことで自信をつけているのにちがいない。そして、リゲルと弱虫の間には友情も芽ばえているのだろう。オリオンはうれしかった。
「しかし、やつらはどうしたんだろう?」リゲルが聞いた。
「ペルセウスが『海の中の海』の入り口まで行って様子を見てくれている」
そのときそのペルセウスが急いできた。
「やつらが来たのか!」誰かが叫んだ。
「ちがう。近くで潮が見えた!」
「ボスか」、「ボスだ」、「ボスにちがいない」、「ボスがやつらを追いだしてくれたのだ」
みんなの体が踊った。そしてそのまま飛びだした。もう誰もとめる者がない広場を突ききって、潮が上がったほうに急いだ。リゲルでさえ追いつけないほどだ。
しばらく行くと、確かに大きな影が海に浮かんでいた。
「ボスだ」誰かの声でさらに近づいた。「ボス」、「ボス」みんな心で叫びながら近づいた。近くまで行くと、それは体の向きを変えてこちらを見た。しかし、目が不安そうなのに気づいた。ボスはないのか。しかも、体はボスより小さそうだ。
「ボスではないですか」誰かが勇気を出して聞いた。
それは、「ボスはぼくのパパです」と答えた。幼い声だ。オリオンがウミヘビの婆あから聞いた息子だったのか。
「ボスと一緒にここを守ってくれていましたね」
「そうです」
「ボスはどこにいますか?」
「ぼくも探しているのです。ここに来ていないかどうかと思って」
「えっ」みんな顔を見あわした。
「わたしたちもボスが帰ってくるのを今か今かと待っているところです」
「そうでしたか」
「いっしょにおられるものだと思っていました」
「ここのことはパパから聞いていました。絶対ここを守らなくてはならないことはわかっていたので手伝いたいと言いました。
パパはしばらく考えていましたが、『よし、2人で守ろう』と言って、ぼくがついていくことを許してくれました。
ここを中心にあちこち見てまわりました。こんなことは初めてですが、何も恐くなかった。
パパの役に立っているうれしさのほうが強かったのです。
ある日、パパは、何か起きているような気がするので、ちょっと見てくる。すぐ帰ってくるが一人で大丈夫かと聞きました。ぼくは大丈夫だと答えました。
それなら、絶対ここを離れるな。もしやつらを見たら、すぐに『海の中の海』に行けと言って出かけました。
しかし、2,3日帰ってこないので、だんだん不安になってきました。それで、パパが向ったほうに行きました」息子の顔は歪んだ。

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