シーラじいさん見聞録

   

副官が二人の見回り人に入口で監視するように言った。そして、他の者は奥へ行った。
娘とオリオンだけがその場に戻った。オリオンは娘をなぐさめたかったが、言葉が見つからなかった。
自分を愛してくれて、自分も心から愛していたパパが今殺されたのだ。これほど悲しいことがあるだろうか。慰める言葉なぞどこにもない。
オリオンは、娘を一人にしてやろうと思って泳ぎだしたとき、娘が近づいてきた。
とりあえず何か言葉をかけようとするのだが、溢れてくる感情がその言葉を止めてしまうのだ。
「家なら泣いていると思うけど、ここでは何があっても泣かないことを決めていたの」
娘は静かに言った。
「ああ」オリオンは、そう言うのが精一杯だった。
「それがほんとになっちゃった」
「いつか起きることが今起きたと思うようにしている」
「きみのパパにもっと教えてほしいことがあった」オリオンはようやく言葉を出すことができた。
「パパはあなたのことを褒めていたわ。私をここに連れてきたのは、あなたに会わすためだったような気がする」
そのとき、ペルセウスが帰ってきた。そして、「オリオン」と悲しそうに叫んだ。
オリオンは黙ってうなづいた。オリオンの側に娘がいるのに気づくと、さらに悲しい顔になった。
「パパのことは幹部から聞いているから」娘はペルセウスの気持ちがわかったように言った。
実際ペルセウスは、娘からそう聞くと、少しほっとした。パパの死は幹部から聞いているとは思っていたが、自分から言葉をかけるのはとても辛いと思いながら帰ってきたからだ。
それは地獄のような光景だったからだ。
「きみのパパは最後まで勇敢だった」ペルセウスは娘に言った。
「幹部もそう言ってくれた。あなたは見ていたの?」
「ああ」
「パパの最後を教えて」
ペルセウスはオリオンを見た。オリオンの顔は娘にすべて話すように言っていた。
「ぼくも、あの砂浜の近くにいたんだ。やつらの気配があったら、すぐに報告するようにしていた。
危険な兆候もなく作戦の準備もしばらくかかりそうなので、そこを少し離れた。
その間にやつらは来たのだ。何か気配を感じたので、急いで戻ったが、パパはやつら2人に挟みうちにされていた。
体から血が出ているのが見えたけど、やつらを引きつけてはすばやく背後に回って逃げるときをさぐっていた。
しかし、だんだん弱ってきているようだった。幹部はパパを助けようと必至だった。一人をひきつけてその間に、パパを逃がそうとしていた。しかし、パパは捕まってしまった。
幹部がきみたちに帰れと叫んだとき、パパは最後の戦いをしていた。しかし、とうとう・・・」
ペルセウスは感情をこらえた。娘は気丈に聞いていた。
「幹部は、やつらが興奮していて、君たちを近づくと、さらに犠牲が出るととっさに判断したのだと思う」ペルセウスは黙った。
「ありがとう」娘は言った。ペルセウスはまた話しだした。
「その後、ぼくは壁に潜んでやつらの様子を見ていた。まだあちこち動いて、他にいないか探していた。かなり興奮していた。
やつらがぼくのすぐ横を通ったとき、何かしゃべっていた。
やつらの言葉はわからないが、2人の会話から、まだ連絡は来ないのかと言っているように思えた。確かじゃないが。
その後、やつらはしばらくどこかに行ったが、また戻ってきた。それを何回も繰りかえした。改革委員会を見張ることに決めたようだ」オリオンはペルセウスに礼を言った。
「幹部は?」ペルセウスが聞いた。
「病院だ。幹部もかなりけがをしている」
「そうだったのか。幹部に報告してくる」ペルセウスは奥に行った。
幹部の友だちも上官も犠牲になった。幹部もしばらく動けない。これからどうなるのだろう。オリオンはじっと考えた。
そのとき、一人の見回り人が来て、オリオンや入口で監視をしている見回り人に、すぐに奥へ戻るように言った。
全員奥へ行った。シーラじいさんのまわりに、副官と見回り人、改革委員会のメンバーが集っていた。ペルセルスもいた。
シーラじいさんが話をしているところだった。
「ペルセウスの話では、やはりやつらは先遣隊のようじゃ。しかし、やつらが大挙して押しよせてきても、決して動揺しないことじゃ。やつらはここには入ってこられまい。
今は幹部の回復を待つことじゃ」
話がすむと、ペルセウスは監視に出た。予想以上に重傷だったが懸命の治療を受けている幹部から、監視を続けるように指示を受けたからだ。
見回り人は、二人ずつ交代で外を監視することになった。
ペルセウスは、帰ってくるたびに「どうもおかしい」と報告するようになった。
やつらの動きがないというのだ。確かに監視をしていても波の高まり一つ感じられないのだ。
見あげてもわからないがどこかにあるはずの穴から入ってくる風が小波を起こすのみだ。
やつらはどこに消えたのだ?仲間を呼びにいったのか。部屋の不安が高まった。
幹部は、他の場所に避難している者を連れてかえるように命令した。

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