のほほん丸の冒険
2026/07/28
のほほん丸の冒険
第1章107
三上さんと佐藤さんは朝早く奥さんの家に来た。奥さんは丁寧に昨日の礼を言った。
佐藤さんは、昨日の追跡の説明をした。「おれもあの近くで働いたことがあるので、大体の様子は分かる。白石は物流と預かりをやっている。昨日の荷物はすぐにどこかには送るのか、しばらく保管するのかは分からない。
それによって、こちらがすぐに動かなければならないのか。あるいは時間をかけてもいいのか対応が変わってくる」
「すぐにどこかに運ぶかかもしれないのですね」しゃかりき丸が聞いた。
「そうなんだよ。そうなると分からなくなる」
みんな黙った。今までうまくいっていたのに、また別のところに行ってしまうかもしれないのだ。
「あの別荘はどこが借りていたんだっけ」三上さんがぼくに聞いた。
「不動産屋から聞いたところでは、借り主は菱和貿易です。しかし、世界的な商社ですから、そこに聞いても教えてもらえないと思います。
そこで、ミチコさんの友だちが調べてくれていますが、犯罪を犯すような関連会社ではなさそうです」
「そうだな。もしそうなら、まったく関係がないところに頼むよな。奥さんは警察に今回のことを説明したんですよね」三上さんが聞いた。
「別荘の写真を持って行きました。話は聞いてくれたのですが、『また連絡します』と言うことで」
「証拠にならないというのかな。トリカブトはあちこち生えているからな」
「どうでしょうか」
その時、佐藤さんが言った。「あれから考えていたことがあるんだけど、おれがは白石に努めるようにしたらどうかな」
「おまえが務めると言うのか」三上さんが驚いて言った。
「そうだ。バイトで」
「でもお前は仕事があるじゃないか」
「これが解決するまで休むよ」
「それはやめてください」奥さんがすぐ止めた。
「申しわけないけど、悪いやつを掴まえることができると思うと何だか興奮してきたんだよ。仕事は少しの間なら休めるから」
「バイトするとしたら、倉庫ではどうするんだ」三上さんが聞いた。
「どこかに運ばれてしまえば終わりだから、今日でも申し込んでくる。最近は運送業界も人手不足だから、何とかなるよ」佐藤さんは考えを変えないような
態度だった。
「そこまで言うのなら、おまえに任すよ。でも、すぐに運ぶのと一預かりの2種類があるんだな」
「そうだ。あの荷物がどっちか分からないので探すしかない」
「新人にそんな時間があるのか」
「まあ、やってみる」
ぼくは自分の考えを言うことにした。「今までのことを考えると、急に別荘を解約したと思います。
まず、すぐに運ぶのなら、関東一円に運ぶところに置いているような気がします。今まで関係がある会社は首都圏にありました。
しかし、かなり荷物は多いのでとりあえず一時預かりにしたのではないかと思います」
「そうか。きみが言うとおりだな。首都圏エリアを見る。その次に一時預かりを調べる。さすが探偵だ」佐藤さんは納得してくれた。
「しかし、そんな時間があるのか」三上さんはまだ心配していた。
「最初センターの中を教えてくれるはずだ。その時に全部見る」
話は終った。佐藤さんはすでに履歴書を書いていて、そのまま白石流通センターに走った。
その晩佐藤さんは無事に採用になったという連絡が来た。経験があるので明日から仕事をしてほしいとなったそうだ。
ぼくらは佐藤さんからの連絡を待った。二日後連絡が来た。「見つけたぞ。やはり一時預かりにあった」佐藤さんの声は弾んでいた。
のほほん丸の冒険
第1章108
佐藤さんの話では、その会社は東京・町田市にあるセイワ化学という会社だった。
「おれはしばらくもう少しここにいて様子を見るよ。そこがどういう契約をしているか調べて見る」ということだった。
セイワ化学が菱和貿易の子会社かグループ会社かは分からないが、とにかく行き先が分かった。
ぼくはすぐにミチコに連絡した。「もうすぐテツが来るから言っておきます」と言った後、「絶対無理をしないでね」とつけくわえた。
ぼくは、「おじいさんが言ってくれたように、慌てずに、そして、物事は少し距離を置いて見るようにしています」と答えて電話を切った。
それから、町田市にあるセイワ化学がどこにあって、どういう会社か調べた。
住所は町田市小山ケ丘町だ。企業が集まっているようだ。東京から2時間近くかかるが、すぐにでも行きたいと思ったが、まずはテツが見てくれるはずだ。慌てないこと。ぼくは息を深く吸い込んで気持ちを静めた。
やはり、翌日にテツから電話があった。「ののほん丸。見てきたぞ。3階建てのビルだけど、看板には、単にセイワ化学と書いているだけだ。仲間に調べてもらうと化学製品の輸出入らしいが、何をやっている会社か様子を見たが、ビルの中はブラインドが下りていてまったく見えない。
たまに人が出入りするけど、みんなサラリーマンふうだ。ビルの奥は何かありそうだが分からない。横は会社の駐車場になっている。要するに普通の会社だ。まあ、そんなとこだ」テツは申しわけなさそうに報告した。
「ありがとうございます。ぼくも調べたのですが、そんな大きな会社じゃないようですね。
協力してくれている人が、運送会社の倉庫にバイトとして入り込んでいて、いつどこに運ぶか調べてくれています。それが分かればすぐに連絡します」
「待っている。でも、おまえはすごいな。まるで警察だ。とにかく気をつけろ」テツも少し興奮しているようだ。
二日後、再び佐藤さんから連絡が来た。配送の日が分かったのだ。一週間後の2月16日に配送されることが決まった。しかし、同じ町田市だが、セイワ化学ではなく、行き先は関東実業という会社に変わっていた。鉄などのスクラップを扱う会社らしい。
「これは困ったな」話を聞いたしゃかりき丸が顔をしかめた。「スクラップされると、別荘を借りていた会社が分からなくなる」
「テツが行ってくれているので、その連絡を待って、次のことを考えよう」そう答えたものの、急がないと密かに思った。
夕方、テツから電話がかかった。「かなりスクラップが積み上がっていたぞ。
トラックが何時に出るかは知らないが、17日に着くんだろう。17日におれたちもそこに行こうか」
「一時預かりで配達の時間はまだ分からないそうですので、その人から連絡が来たら、お願いするかもしれません」
テツも別荘から運んだものがスクラップされてしまうと、ミチコの叔父さんやや奥さんのご主人だけでなく、同じように監禁されている研究者を助けられないと心配しているのだ。
15日に佐藤さんから連絡があった。16日の朝8時にトラックに積み込むことになった。ただし、急ぎの配送ではないので、着くのは17日の昼過ぎと決まったそうだ。ぼくとしゃかりき丸は17日の昼頃に間に合うように東京に戻ることにした。
のほほん丸の冒険
第1章109
前日深夜から深夜バスなどを使って町田市にある関東実業という会社に11時ごろに着くことができた。
会社の前を歩いて様子を見た。建物の横には大量の廃棄物が山積みされている。時々大型トラックが来て積んできたものを下ろしている。トラックに書いてある社名を確認しているから大丈夫だと思うが、すでに来ている可能性もあるので、廃棄物にスポーツ用品はないか、しゃかりき丸が確認した。「今のところないようだな」と言いながらも目を離さない。
その時、札幌ナンバーのトラックが入ってきた。ぼくの様子を見たしゃかりき丸が、同じようにトラックを見て、「来たな」声を上げた。
ぼくらは道の反対側にいたのだが、もっと見るために会社の近くに行った。やはり別荘から運んだものらしかった。無造作に廃棄物の山に落とされた。
すぐにスクラップにされるのではないか気が気でなくなった。「どうしようか」という表情で、しゃかりき丸がぼくを見た。
すると、ぼくの体は無意識に動いて会社の中に入っていった。
そこに従業員が2,3人いて、一人がぼくのほうに来た。そして、「どうしたんだ。ここはトラックが出入りするので危険だよ」と言った。
ぼくは、「分かりました。一つお聞きしたいことがあります」と言った。
「道に迷ったのか」
「いいえ。さっきトラックが運んできたのを見たのですが、スポーツクラブで使うものをさがしているんです」
従業員は、「そんなものあったけ」とトラックが下したものを振り返った。どれか分かったようで、「あんなもの、どうしてほしいんだ」と聞いた。
「実は余裕のない家庭の子供を集めてスポーツを教える活動をしているんですが、活動費があまりないので賛同してもらえるところからいただいています」
「それはすばらしいことだと思うが、おれたちも不用品をスクラップして商売をしているので、おれにはその権限がない。また聞いておく」と言った。
「分かりました。それならまた来ますので、そのままにしておいてください」と言って会社を出た。
しゃかりき丸は、ぼくの話を聞いて、「うまいこと言ったな。ひょっとしてくれるかもしれない」と喜んだが、「もらった後はどうしたらいいのだろう」と聞いた。
「ぼくもそれを考えていた。今浮かんだが、もしもらえたら、そのメーカーに販売先を聞くのはどうだろうか」
「なるほど。教えてくれるかもしれないな」
「他の方法はないか考えよう」
ぼくらは作戦を考えながら、おじいさんのテントに向かった。ぼくらの顔を見るとおじいさんは、買い物から帰ってきたミチコに頼んで体を起こして、北海道での話や町田市を聞くと喜んでくれた。
ミチコによれば、おじいさんは、おじいさんを慕っている大人や子供が、自分の状況に負けるのではなく、自分で工夫して早く一人前の社会人になることを願っているので、ぼくやしゃかりき丸が困難に向かっているのを聞くのが好きなのだ。
テツやリュウも夕方来たので、みんなで食事をして今後のことを話した。「もし中古のスポーツ器具をくれるのなら、すぐに取りに行くぞ」と快諾してくれた。2日後、関東実業に行くことにしたので、次の日はミチコと一緒におじいさんの世話などをした後、昔のように近くの公園で作戦を練った。
次の日、朝早く関東実業に向かった。ぼくは会社に入った。すると、この前の従業員がいて、ぼくを見ると、すぐに「この前の」と言って近づいてきてくれた。
ぼくはすばやく「どうでしたか」と聞いた。
山田という名札をつけた従業員は少し笑って、「きみのことを言ったら、上司は、『向こうとの約束で全部は無理だが、子供でも使えるものならいいだろう』と言ってくれた。それを別に置いている」と案内してくれた。
その時、トラックに下ろした時の不用品にシールが貼っているのに気づいて、社名を見た。
のほほん丸の冒険
第1章110
ぼくはそのメモをすぐに見た。東西商事と多摩市と書かれていた。この会社が関東実業に北海道の別荘のスポーツ器具を処分するように依頼したのか。
そのまま山田さんについていくと、子供が使うようなものが一まとめに置いてあった。トランポリンや鉄棒、エア縄跳び、体幹を鍛えるマットなどがあった。それにエアロバイクもある。
「こんなにいただいてもいいのですか」と言うと、山田さんは「子供のときに鍛えると自信が出るからね。どうせスクラップするものだから」と言った。
ぼくは、「助かります。ありがとうございます。責任者に言って、すぐに取りに来させます」と頭を下げてすぐ会社を出た。
そして、近くで待っていたしゃかりき丸と急いでバス停に向かった。バスに乗るまで一言いしゃべらなかった。
そして、バスが動き出すと、しゃかりき丸を見た。もちろんしゃかりき丸もぼくを見ていた。それで、「どこがスクラップを頼んだのか分かった」と小さな声で言った。
「多摩市にある東西商事」と言うと、「東西商事、また新しい会社が出てきたな」
おじいさんのテントに帰ると、みんな待っていてくれた。ぼくは説明すると、「それじゃ、すぐに貰いに行けばいいんだな」とテツが聞いた。
「そうです。そんなに大きな荷物ではないですから乗用車で構わないと思います」、「了解。リュウに運転させて、おれが行く」、「それなら安心です。話を合わせてもらったほうがいいですから」
話は早い。何回か繰りかえしたことなので、お互い自分の仕事が分かっているからだ。
おじいさんはぼくらのやりとりを聞いてうれしそうだったが、ミチコはみんなに迷惑をかけて申しわけなそうにしていた。
翌日、テツとリュウが、東海実業でスポーツ器具を積んで、多摩市の東西商事を見に行ってくれることになった。
ぼくとしゃかりき丸は、ミチコの手伝いをしてから、いつものように公園で作戦を練った。「別荘のブツは追いつめたが、これからどうしたらいいのかな」としゃかりき丸が話をはじめた。
「確かにあいつらは器具などを完璧に処分したかったんだろうが、それにしても念入りすぎるように思える。
それに時間を取られて、東京通商やその子会社の菱和貿易の人間のことは分からずじまいだ」
「ほんとそうだな。荷物を追いかけたら犯人はすぐ分かると思っていた」しゃかりき丸も同意した。
「分かっていることは研究所に出入りしていた佐々木と外国人が殺されたことだ」
「どうして殺されたのだろうか」
「仲間の口封じとは考えられない。他の組織から殺されたと考えるのが自然だ」
「ということは」
「外国からテロ組織はいくつも入ってきている可能性がある」
「そして、研究者の取り合いをしているのか。また北海道に戻ったほうがいいのかな」しゃかりき丸の考えにどう答えようかと思ったとき携帯が鳴った。テツかなと思ったがそうではなかった。
「もしもし。私が誰だが分かりますか」という声が聞こえた。とても落ちついた老人の声だ。
しかし、誰だか分からない。ぼくは言いよどんでいると、「以前大雪山で・・・」という声が聞こえてきた。ぼくは、「あの時の」と叫んだ。
「ああ、そうです。山岡です。あの時は名前を言っていなかったと思うが。
あの時は楽しかったよ。トリカブトのことを兄弟で話していたので、わしもつい声をかけたんだ」
「その節はありがとうございました。とても楽しかったです」
おじいさんは、「あれからもトリカブトは探したんかい」と聞いてきたので、
「役に立ちました」と言った後、おじいさんともう少し話をしたい気持ちがわいてきた。
のほほん丸の冒険
第1章111
それで、「実は」と言って、今までのことをかいつまんで話した。山岡さんは、「伯父さんを探すために、兄弟でがんばったんだね。それにしても、一つ一つ事実をつなぎあわせていくのは学問と一緒だよ。
警察にも相談しているということだから、きみらが見つけた証拠を使って、伯父さんは必ず見つかると思うよ」
大雪山のときに言った内容まで訂正しなかったのは気がかりだったが、ぼくは
「ありがとうございます。ただ、次々と追いかけることが出てくるので、今後どうなるのか心配なんです」と答えた。
「また研究のことを言って申しわけないが、どんどん研究が進んでいるときは、もっと行こうもっと行こうと思うものだが、それがちがう道を言っている場合がある。
何かおかしいと思うときは、どこかで一休みすることも必要だ。だから、進めなくなって立ち止まったときのほうがうまくいくことがある。
私もたまに論文を出すこともあるけど、早く手柄を立てようとすると大抵うまくいかないもんだよ。誰かがすでに研究していることもある。
きみも、今までのことを振りかえったら、何か見落としていることが分かるかもしれない。ただ、きみらがしていることはとても危ないことだから、無理はしないことだ。警察が捜査しているはずだから、伯父さんは見つかるかもしれないから」
ぼくは、「貴重なご意見ありがとうございました。またお電話します」と言って電話を切った。
そうだ。山岡さんが言うとおりだ。それで、今までの流れをもう一度考えなおすことにした。
東西商事はテツとリュウが追いかけてくれることになった。
ぼくは、しゃかりき丸に今までのことを振り返ることを提案した。しゃかりき丸も、「実はおれも、追いかけるのが世界的な会社から徐々に町工場のような小さな会社になるので大丈夫かと思っていたところなんだ」とぼくの考えに賛成してくれえた。
そこで、すぐに公園に行って、さっそくぼくがミチコからカバンを預かるところから話をはじめた。
「おれたち3人がそれぞれ監禁されたときは、あいつらは例のカバンはどこにあるんだと脅すばかりだったな」としゃかりき丸が言った。
「そうだった。しかし、ミチコからカバンを預かったときはミチコの伯父さんはすでにどこかに連れ去られていたんだ。だから、カバンが手に入らなかったら、伯父さんに直接研究内容を聞こうとしていたかもしれない」
「それにしても、おれたちを監禁した会社は全部ちがう名前だったな」
「そうだった。あれは今でも分からないけど、研究書類が高く売れるので、会社同士で競争していたと思える」
「なるほど。それで分かった。そして、ドイツのテロ組織の事件か。あそこでも研究者が監禁されていたんだな」
「それで、ミチコと北海道の福田さんが知りあうとになったわけだ」
話は北海道での出来事が続いた。佐々木、ジェームス・ミラー、東京通商、菱和貿易、セイワ化学、関東実業、東西商事などの名前が出た。
「分からないのは3つだ。誰が写真を奥さんの郵便受けに入れたか。なぜ佐々木とジェームス・ミラーが殺されたのか。そして、奥さんが車の中で佐々木が電話でしゃべっていたコ―ズモスとは何なのか」ぼくは夕べから考えていたことを話した。しゃかりき丸は、「確かに」とうなずいた。
「それで申しわけないけど、ぼく一人で北海道に行ってくる」と、これも夕べ考えて計画を話した。
しゃかりき丸はびっくりした顔をしたが、すぐ「了解した。きみのことだから、もう奥さんには連絡しているだろう。おれは、ここでテツから東西商事についての連絡を待つことにする」と笑った。
のほほん丸の冒険
第1章112
新宿に戻っておじいさんやミチコに挨拶をしてから札幌に行ったので午後8時過ぎになったが、奥さんはごちそうを作って待っていてくれた。
お互い今までの情報交換をしたが、目立った動きはなかった。奥さんの話では、警察から捜査を続けているという連絡が一度来ただけだった。
「『どんな状況ですか』と聞いたのですが、『写真の風景もすべて確認して、それらしき場所で近所の人から話を聞いたのですが、人が出入りするのを見たことがないということだったので、さらに調べています』と木で鼻をくくる返事でしたね。それに、殺されていた二人の人間も佐々木やジェームス ミラーなのかも分からないようです」奥さんは悔しそうに言った。
「やはりスパイなので身元が分からないようにしているのでしょうか。でも、警察も国際的な協力機関があるので協力すればすぐ分かりそうなものですが」と奥さんに感想を言った。それから、奥さんの家の郵便受けに入れられていた写真から、トリカブトらしいものが見える別荘を見つけ、そこにあったスポーツ器具を追いかけていることを話した。
しかも、別荘の借り主は東京通商とその系列会社の菱和貿易という商社であることが分かったときは興奮したことを話した。「これでご主人やミチコの叔父さんをすぐに救いだせると確信しましたよ」
そして、別荘が解約されたことも知って、ぼくとしゃかりき丸は興奮しました。それは奥さんのご存じです。最初は三上さんや佐藤さんのおかげで漁通センターに運ばれたことが分かりました。それから、東京の町田に運ばれ、セイワ化学、関東実業とスクラップ会社をたらい回しされていくのです。今は関東実業から別の会社に行っているはずです。今考えれば、どんなことでも注意深く計画されているのかもしれません」
それを聞いていた奥さんは、「そうすると、東京通商や菱和貿易が主人たちを監禁した会社と言えるわけですか」と聞いた。
「ぼくも、最初そう思いました。しかし、世界的な商社がテロ組織を作ったり加担したりするとは考えられません」
「確かにそうですね」奥さんもうなずいた。
「それに誰が二人を殺したのかという大きな問題があります。警察も被害者が誰なのかもわからないそうですから、解決には相当時間がかかりそうです。
ただし、警察がご主人たちの行方が分かればすぐにでも助け出してくれるでしょう」
そして、奥さんに「しばらく佐々木が下りた場所を調べようと思いますが、警察はあのあたりを調べたのでしょうか」と聞いた。
「私は警察にちゃんと言いました。研究所に来ていた佐々木という男が下りたことは分かっていますからと。
警察の話では、佐々木らしき男を見たことがある人はいたようですが、それ以上は分からないと言っていました。それに、あの一帯は北海道でビジネスをしている外国人が多いらしいです」
「そうでしたか。先日ぼくもこれからどうしたいいのかと考えているときに、大雪山で知り合った人から電話がありました。
その人は山岡というおじいさんで昔理科の教師をしていたそうです。トリカブトのことをいろいろ教えてくれました。
それで、心配して電話をくれたようです。あのときは詳しいことは言わなかったのですが、もう少し話をしました。
すると、大人の助けがあるとはいえ、よくそこまで追いかけたなあとびっくりされました。
しかし、スポーツ器具が処分されたら今後どうしたらいいのか迷っているんです」と率直に聞きました。
先生は、自分は社会のこともよく分からないし、きみのような国際テロ事件のことなどは知らないけど、植物の研究などでは、楽しようと考えていると新しい発見はできないな。どうしてこうなったかを見つけるためには長い時間が必要だ。自分は横着者だから、一流の研究者になれなかったんだと笑っておられました。
きみがみんなのためにやつていることはすばらしいことだけど、ぼくが言えるのはそれくらいだ。
また北海道に来たら連絡してくれよ。一緒に話そうじゃないかと誘われたので、来たんですよ。確かにわからないことだらけですから」
のほほん丸の冒険
第1章113
「私もそう思っていました」奥さんも同意した。「佐々木とジェームス・ミラーの正体が分かれば、どんなことをしていたか、誰に殺されたかも分かるのにと歯がゆく思っていました。早く警察の捜査が進めばいずれ主人たちも見つかると待っているんです。ののほん丸がまた来てくれたのはとても心強いですが、これからどうしますか。三上さんや佐藤さんと連絡を取りますか」
「いいえ。もう一度自分で調べようと思います」
「研究所は主人が帰ってきたらすぐに使えるようにそのまま借りています。
ときどき、研究所に行くのですが、殺人事件の後は佐々木らしきものは来ていないようで、殺されたのは佐々木にまちがいなさそうですね」
「まちがいないようですね。ぼくは、佐藤さんが追跡してくれたとき、ジェームス・ミラーらしき外国人が下りたあたりを見てきます」
「それと、私も一つ迷っていることがあるんです。佐々木が車の中で電話しているとき、『コ―ズモスから連絡があったか』と言っていたと話しましたが、あれはほんとに『コ―ズモス』だったかということです」
「ミチコさんの友だちに調べてもらったも分からないままですが、それも分かるかもしれません」
「小さい声で言っていたこともありますが、私が聞きまちがっているかもしれないので、だいぶ時間が立ちましたが、なんとか思い出しています」
翌日、ぼくはバスでジェームス・ミラーが入ったビルの近くまで行った。同じようなビルが並んでいて、しかも、どのビルも、1階に小さな店があったが、探しているビルにある喫茶店は見覚えがあった。
まずそのビルを調べるのは、二人が殺された後、会社が変わっていないか確認したかったからである。
3階建ての小さなビルで、1階に5つ、2階と3階にそれぞれ6つの会社があった。
ここのどこかに佐々木とジェームス・ミラーが借りているか、あるいは立ち寄っているかそれを知りたかった。
以前見たときは貿易や機械の会社は3か所ほどあったはずだ。ぼくは急いで3階から見て回った。幸い誰も出てこなかったので、ゆっくり確認することができた。
3階のイーストトレーディングと北海貿易、2階の亜細亜機工。この三つは以前からあった。事件が起きても変わりがない。また、そういう種類の会社は増えていなかった。
それでは、この三つの会社に二人は属していたのか、あるいは取引があったのかだ。
しかし、ぼくがそれぞれの会社を訪ねて聞くことはできない。どうしたらいいかと考えていたら、「誰か探しているのか」という声が聞こえた。振り向くと、白髪のおじいさんがこっちを見ていた。
「ええ」ぼくはあいまいに答えたが、「こんなところに子供が一人いるのは珍しいので、ちょっと声をかけたんだ。さっきビルに入って行ったけど、見つかったのか」とさらに聞いてきた。ぼくを心配そうに見ているその人に聞いてみようと思った。
「実は、このあたりのビルにいるかもしれない外国人を探しているんです。このビルには喫茶店がありますから、単に喫茶店に行っただけかもしれないなと迷っていたんです」
「外国人か。何人か見かけるけどな。名前は分かっているのか」
「ジェームス・ミラーだと思うのですが、よく分かりません」
「あやふやな話だなあ。このビルではないんだが、わしはこのあたりでビルを二つ持っているから、もう少し詳しいことが分かれば、テナントに聞いてやるよ」
「ほんとですか」
「まず喫茶店で話をしようか」おじいさんは、ぼくが調べたビルにの喫茶店に入った。
「このビルもおじさんのビルなんですか」
「いや、ちがう。オーナー仲間だから知っているけどね。ジェームスなんとかと言っていたけど、知りあいか」
「おばさんが知りあいですけど、最近会わないからどうしたんだろと心配しているんです。それで、このあたりにいることを聞いたので、調べようと思って」
「外国人の名前は分からないけど、よく見かけた外国人とは友だちのようになった。この喫茶店に何回か来て、よくしゃべったよ。トムという名前だった。
そう言えばトムも最近は見ないな」
「金髪だけど、かなり禿げていましたか」
「そうだったな。ひげも伸ばしていた」ぼくは思わず身を乗り出した。
のほほん丸の冒険
第1章114
「トムはいいやつだったよ。面倒見がいいというかな。4,5年前、わしが自分のビルに来ていたとき、体がおかしくなって、階段にすわっていたんだ。
道の向こうで、それに気づいたトムが走ってきて、『どうしましたか』と聞いてくれたんだよ。それから、すぐ救急車を呼んでくれた。そのときは、血圧がひどく上がっていただけだったけど、トムは命の恩人だよ。
それから、ここらで会えば、『大丈夫ですか』と声をかけてくれるようになって、たまにこの喫茶店で話をするようになった。そうだよな、マスター」と話を聞いて店の主人を振りかえった。
年輩のマスターはカウンターの中から出てきて、「あのときトムは店に走ってきて、『早く救急車を呼んでください』とあわてていたよ。そう言えば、最近見ないね」と応じた。
「そうだろう。わしもそう思っていたんだ。いやね。この子も初めて会うんだけど、叔母さんがトムと知りあいで、最近見ないので心配しているらしいので、この子が探しに来たんだって」
「確かにみんなに好かれていましたね」
「それでちょっと聞くけど、このビルに用事があるようなことを言っていたけど、どこに行っていた?」
「ぼくもあんまり知らないんですけど、たまに亜細亜機工さんの社長さんとうちに来ることがありますけど」
「亜細亜機工ね。2階だね。それじゃ聞いてくるか」おじいさんとぼくは2階の亜細亜機工に行った。
おじいさんはノックして入ると、中年の男の人と若い男の社員、事務員らしき女の人がいた。
おじいさんは、「お忙しいところ申しわけもございません。ちょっと人を探していまして」と言うと、奥にいた男の人がカウンターまで来た。
おじいさんは自己紹介してから、「トムとかジェームスとかいう外国人を探していまして」
「ジェームスは知らないけど、トムならは知っていますが」とすぐ答えた。
「ご存じですか」
「でも、もう日本にはいませんよ」おじいさんとぼくは顔を見合わせた。
「急用ができて、ドイツに戻ったそうです。それも本人からでなく、トムの知りあいがうちに営業で来たとき言っていました。もっとも、その知りあいもトムがどんな仕事をしているかよく知らなかったそうです。
しかも、トムが務めている会社の関係者と名乗る者から電話が来て、日本から離れたと言ったそうです」
おじいさんは、「よく分らんな」と言うしかなかった。
ぼくは、「トムはこんな顔をしていましたか」と自分で書いた似顔絵を見せた。「トムだ。よく似ているね。きみが書いたのか」社長らしき人が聞いたので、トムを探している理由を説明した。
「トムとはどこで知り合ったのですか」おじいさんは聞いてくれた。
「うちは医療器具の輸入業者で、たまに医者やメーカーの人間を集めてパーティをすることがあるのですが、トムとはそこで知りあいました。てっきりメーカーの人間だと思っていましたが、どうも違いました。メーカーの担当者の知りあいだったようです。
たまに『今日あいていますか』と連絡してきていましたね。正体はよく分からいところがありましたが、話が面白くてすぐ友だちのようになりました。
仕事の話はあまりしなくて世間話をよくしました。日本ことはよく知っていましたね。
魚釣りが好きだったらしいです。休日ごとに行くので海の近くにマンションを借りたか言っていましたね」
ぼくは、「どこの海ですか」と聞いた。
「それは聞いていないけど、かなり本格的らしいから、石狩湾新港か小樽港じゃないかな」
社長に礼を言って出てから、ビルの外でおじいさんにも礼をいった。おじいさんは、「また誰かに聞いておくから、またおいで」と言葉をかけてくれた。
ぼくは、明日二つの港に行くことにした。
のほほん丸の冒険
第1章115
まず小樽港に行くことにした。港にいた人に、「どこが一番釣れますか」と聞くと、「港のどこでも釣れるよ。はじめてかな」と言った。ぼくが釣り道具などを持っていないので、怪訝(けげん)な顔をしていたので、「パパが車を停めにいっていますので、先に聞いておこうと思って」と言いわけした。
「そうだな。ここを行けば、厩(うまや)岸壁や近くの北防波堤がいいじゃないか。初心者が多いよ」と教えてくれた。
ぼくは礼を言って厩(うまや)岸壁に向かった。港のどこでも釣れるなら、そう簡単にジェームス・ミラーを知っている人を探すことは至難の業だ。
そう思いながらも、手当たり次第に、ぼくが書いた似顔絵を見せながら、魚釣りをしている人に聞いた。
似顔絵を見ながら、「知らないな。外国人もよく来ているけど、帽子をかぶっている人が多いから、顔はよくわからない」とか、「みんな釣りに集中しているので人のことなど気にしないよ」という返事がほとんどだった。
ジェームス・ミラーは魚釣りがかなり好きだということなので、難しい場所に行こうかと思ったが、明日、大きな魚が釣れる石狩湾新港に行くことにした。
ここは札幌から近いので朝早く行った。人はまだ少なかった。それに、小樽港より釣り場は狭いようなので、全員に聞くつもりで歩きはじめた。
ほとんど知らないという返事だったが、子供一人で歩いているのを不思議そうに見ていた人が、「釣っているのか」と聞いてきたので、ぼくはすぐに近づき、「この人を探しているんです」と似顔絵を見せた。
すると、「トムじゃないか!」と叫んだ。「どうしたんだ。何かあったのか」「ご存じでしたか」
「釣り仲間だよ。最近会わないので心配していたんだ。で、きみはどうしてトムを探しているんだ」と40過ぎの男の人が興奮気味に聞いてきた。
ぼくは少し慌てたが、この前話したように、叔母が心配していたので観光がてら聞いていますと答えた。
「そうか。みんな心配しているんだ。トムは楽しい男だ。それに釣りはプロ級だよ。おれも釣り方をいろいろ教えてもらった。何でもおじいさんが釣り好きでいつも一緒に行ったとか言っていたな」
「どこの国ですか」
「どこだっけ。ドイツとか言っていたかな。ドイツ人でもトムという名前があるのかと思ったことがあるけどな」
「何をしている人ですか」
「中古車を買っているとか言っていたな。釣りをするときは浮世のことを忘れるから、ましてや他人のことはあまり詮索しないな」
他に何か聞くことはないか考えていたとき、「半年前だったかトムの車が動かなくなったことがあるんだ」
ぼくは続きを待った。「トムは、『急用ができたので帰らなければならない。それじゃ。またね』」と帰ったが、すぐに戻ってきて、『ちょっと送ってくれませんか』と頼むんだよ。おれは理由も聞かず、車に戻ってトムを乗せて言われるように車を飛ばした。車の中で、『人が来るんだ。エンジンがかからなくて』とか言っていた。トムは花川の交差点で、『ここで下ろしてください。助かりました』と言って走っていった。向こうで待っていた車に乗ったような気がする」
「どんな車でしたか」
「よくおぼえていないが、青色だったかな。ナンバーまでは見ていないが」
確かに佐々木の車は青入りだった。ぼくが「今から行って調べてきます」と言うと、教えてくれた人は「そうか。おれもずっと心配していたので、助かるよ。
トムの車はしばらくあったけど、いつのまにかなくなっていたので、魚釣りをしている暇がないぐらい忙しいのかなと思っていた」
ぼくは花川町の交差点に着いた。このあたりでマンションを借りていたなら、トムを知っている人はいるはずだと思って近所で聞くことにした。
のほほん丸の冒険
第1章116
しかし、通りを歩く人に次々と声をかけのは少しはばかれるので、横道に入って、マンションなどを探してから、そこで聞くことにした。
確かに小さいマンションはところどころにあった。ただ、ひっそりしていて人は少ない。
ようやく、若い男の人が歩いてきたので、「こんな人を知りませんか」と似顔絵を見せた。
えっという顔でぼくを見たが、似顔絵はじっくり見てくれた。そして、「見たような気がするな。でも、帽子をかぶっていたような気がするから、外国人だなと思ったことはおぼえている」
「ありがとうございます。どこに住んでいるのでしょうね」
「それは分からないな。でも、このあたりは水商売が多いから,寮になっているマンションは多いと友だちに聞いたことがある。何なら、店に聞いたほうが早いかもしれないな」
さらに店というのは、お酒を出す店だと聞いて、まだ3時過ぎだったので、しばらく時間をつぶすことにした。
5時になったので、お酒を出す店を訪ねることにした。子供が店に入ってきたので、店の人は驚いたけど、3軒目の店で、若い主人が、似顔絵を見て、「トムじゃないか」と言った。「よく似ているな。君が書いたのか」
ぼくはなぜトムを探しているか説明した。「釣り場で聞いたのは正解だったよ。魚釣りが好きで、ここに住んでいるとか言っていたもんな。
でも最近来ないな。どうしたんだろう。仕事が忙しくなったかもしれないね」
「仕事のことは、客が言わないかぎり聞かないようにしているんだ。客は仕事でストレスが溜まっているので飲みに来るのでな」
「いつもは一人で来てたけど、たまに日本人と来てたな。佐々木とか言っていた。一度、大男の外国人が来たかな。2メートルは完全に超していた」
「名前は何でしたか」ぼくはようやく口を挟むことができた。
「名前か。何だったかな。一度しか来ていないからはっきり覚えていないけど、確かコーズマスとか言っていたかな」
「コーズマス!」ぼくは心の中で叫んだ。「コーズマスは会社名でなかったのか。それも2メートルをゆうに越す大男だったとは」
「トムとコーズマスはどんなことを話していましたか」
「それは分からないけど、楽しそうに飲んでいたような気がする」
若い主人は話し好きでなかなか口を挟むことはできなかったが、ようやく、「トムはこのあたりに住んでいるのですか」と聞くことができた。
「それも聞いたことはないけど、近所のマンションのようだよ」
店の準備があるから、ぼくは礼を言って店を出た。
すぐ、店から5,6分ぐらいの場所にある小さなマンションを探した。3軒あったが、どこも郵便受けには名前がなかった。水商売で働く人はよく変わるのだろうと思って、中に入った。各部屋にも名前がなかった。3軒とも同じことだった。
あるマンションで若い人が出てきたので、また似顔絵を見せた。
「このマンションにいるような気がするけど、何号室かは分からない」
「郵便物はどう配達されるのですか」ぼくは気になっていることを聞いた。
「部屋番号で配達されるよ。このマンションは、ほとんど寮になっているので、誰も名前を出していないよ」
一通り3階の部屋からすべて見て外に出た。確かに名前は出ていないことはわかったので、急いで奥さんの家に帰ることにした。コーズマスが判明したからだ。
奥さんは、コーズマスは会社名ではなく、人の名前で、佐々木やジェームス・ミラーの仲間だった可能性があると聞いて、「何と言うこと」という顔をした。「てっきり会社の名前と思っていましたわ」と言った。
「それは全員です。ミチコさんに調べてもらっても分からないはずですよ」
「これからは、コーズマスという人を探すわけですね」
「そうなんですが、ジェームス・ミラーがトムと名乗っていたように、コーズマスも別の名前を名乗っているでしょう。コーズマスも本名かどうか分かりません。佐々木もそうでしょう。だから、誰か分からないのです。
ただ、コーズマスという男は2メートル以上の大男らしいですから、大きなヒントになります」
夕食後、ミチコと2時間以上話した。「粘りましたね。みんなに聞きます」
そして、翌日早くミチコから電話があり、大きなニュースを教えてくれた。
のほほん丸の冒険
第1章117
ミチコの電話は、「チュニジアから国際手配されていたテロリストのうち3人が日本で逮捕されたそうで、チュニジアに強制送還されたようです。
その中の一人がかなり大きい男だそうです」というものだった。
「コ―ズマスですか!」ぼくは驚いて聞いた。「はっきりとは分からないけど、新聞にはアリ・ルルーシュと書かれていたそうよ」
「アリ・ルルーシュですか。コ―ズマスに出会った人を知っていますから、同一人物か聞いてみます」
「すぐ写真を送ります」
「でも、日本にはもういないということですね。とにかく、アリと佐々木、トムはテロリストとして活動していたのですね」
「そのあたりが謎ですね。アリが二人を利用していたことも考えられます」
「ぼくも、以前から佐々木とトムは誰に殺されたのか疑問でした。コ―ズマスと言っていたアリに殺されたのか、別の敵対組織に殺されたのかと考えています」
「友だちの話では、日本には偽造ビザでかなり多くのテロリストが入っているそうです」
「どうしてですか。日本はでは顔が目立つので簡単に行動できないと思うのですが」
「私もそう思ったったのですが、友だちの話では中古車を集めるのが目的だそうです。性能がいいので、安心して山岳地帯でも使えるからだそうです」
「確かにトムと名乗っていたジェームス・ミラーも中古車を扱っていると言っていたそうです」
「それともっと怖い話を聞きました。チュニジアのテロ組織の一部には、ひじょうに凶暴で、宗教的な目的ではなく、お金儲けで動く組織があるようです」
「何をするのですか」
「世界から注文を受けて、その国でテロをしかけるのです。その方法に小型の核兵器を使う計画があるらしいです」
「そんなことができるのですか」
「日本の優秀な科学者を集めてそういう研究をしているという噂があるようよ。
行方不明になっている伯父や福田さんのご主人がそういうことをさせられていないか心配なんです」ミチコの話で一つ一つのことがつながっていくのでぼくは言葉を失った。
「大学などでは無理だから、個人の研究者に声をかけて集めているんです。伯父はそんなことに加担するような人間ではありませんから、最初は平和のためにと誘われたかもしれません」
「そうですか。それなら、今も日本に大勢のテロリストがいる可能性が高いですね」
「私も友だちの話を聞いてそう思いました」
ぼくは、「まずアリのことを調べます。それとしゃかりき丸にこっちへ来るように言ってもらえますか」と言って電話を切った。
翌日の午前中にしゃかりき丸がやってきた。「そろそろお呼びがかかるのではないかと思っていたよ」といたずらっぽく言った。
お互い今までのことを話した。スポーツジムの器具がどうなったはすでにしゃかりき丸から電話で聞いていたが、もう一度近くの西井という小さな町工場で処分されたことを説明した。
「しかし、テツやリュウと話したが、たかがスポーツ器具ぐらいを何ヵ所もたらい回しにするのは何かあるという証拠じゃないかと思う」
「確かにそうだ。警察が調べても一切分からないようにするためだろうか」
「テツは商社の中の一部が監禁に関わっていて、それがばれそうになったので、警察からも商社の経営陣からも分からないようにするためじゃないかと推理している」
そして、ぼくは自分一人で調べたことをすべて話した。しゃかりき丸もミチコから聞いていたこともあるが、点と点が少しずつ線になっていくのを興奮しながら聞いていた。
「おれも知っていたが、ジェームス・ミラーはトムと名乗っていたんだな。それにコ―ズマスも会社名ではなくテロリストの名前だと聞いてびっくりしたよ」
「そうだ。逮捕されてチュニジアに強制送還されたようだが」
「これからどうするんだい」しゃかりき丸は目を輝かせてぼくを見た。
のほほん丸の冒険
第1章117
「トムことジェームス・ミラーを知っている人を何人か知っているので、その人たちにもう一度会いにいく。ヒントが見つかるかもしれないから」
「それはおもしろい。すぐ会おうぜ」
しゃかりき丸は、奥さんに、「またしばらく厄介になります」と挨拶した。
「よく来てくれたのはとてもうれしいけど、絶対無理はしないでくださいよ。のほほん丸から聞いていると思うけど、今度は国際テロリストが相手だそうだから、気づかれたりしたら大変なことになります」
「分かりました。しかし、のほほん丸と作戦を考えていけば大丈夫です」と奥さんを安心させた。
翌日、トムが車から下りた場所に行って、貿易会社の社長の話を聞くことにした。
ぼくは、しゃかりきには先日聞いた話を説明した。「その会社は、医療器具の輸入業者で、たまに医者やメーカーの人間を集めてパーティをすることがあるんだが、ある外人と話をするようになった。
日本語がうまいので通訳かと思っていたが、外国メーカーの担当者の友だちだったそうだ。それがトムとの出会いだったようだ。
それから、たまに「今日時間はありますか」と連絡してくるようになった。
正体はよく分からいところがあったが、日本で中古車の売買をしていると言っていたそうだが、とにかく話がおもしろくて、時間があれば下の喫茶店で話をしたと言っていた。
お互い仕事がちがうので仕事の話はあまりしなくて世間話ばかりしていて、トムは魚釣りが好きだったらしくて、休日ごとに行くので海の近くにマンションを借りたと言っていた。しゃかりき丸に真剣に聞いていた。
翌日昼頃会社についてドアをノックした。女の人の声が聞こえた。ぼくが自己紹介をすると、社長が立ってぼくらの前に来た。ぼくのことを覚えていてくれたようで、「トムは見つかったかい」と聞いた。
「まだなんです。トムは海釣りが好きで、近くにマンションも借りたと聞いていたので、小樽港や石狩湾新港に行きました。似顔絵を見せて聞いてまわりました。
小樽港では誰も知らなくて、翌日行った新港で、『これはトムじゃないか。最近見ないな。以前はよく来ていたな』と言う人を見つけました」
社長は、「そこまで探していたのか」驚いた。
ひょっとして殺されたかもしれないということは、話の辻褄(つじつま)が合わなくなるので、今回も話をしないことにした。
「学校にも行っていないし、せっかく北海道に来たのでおばさんの役に立ちたいと考えていたんですが、兄も来ることになったので、一緒に探すことにしたんです」
「なるほど。それからどうなった」
「トムをマンション近くまで送った人もいたので、そこを調べたんです。ときどき見たという人もいたのですが、結局分かりませんでした。
そこを引越ししているかもしれないと考えていたんですが、中古車の仕事をしていると聞いていたことを思い出したので、どこでしているのかお聞きになっていないかと思ってやってきました」
「どこでやっているかということだね。ちょっと思い出すよ」
ぼくらはしばらく応接間で待っていた。しばらくして入ってきた社長は、「今考えたら、トムのことを聞こうとすると、別の話題を振ってきたような気がするな。あまり自分のことを言わないようにしていたかな。
だからはっきりとは分からないけど、一度約束の時間からかなり遅れてきたことがあった。確かあのとき、江別からの道が事故で混んでいたのでと釈明したことがある。すると向こうに会社があるのかなと思うけどな」
「ありがとうございます。それで充分です」ぼくらはそう言ってすぐ会社を出た。
「それじゃ。札幌駅に戻ろうか」とぼくが言うと、しゃかりき丸は、「了解」と答えた。それから1時間後には江別駅に着いた。
「これからどうするんだい」しゃかりき丸が聞いた。「背が高いコ―ズマスを探そう」
のほほん丸の冒険
第1章118
駅の地図を見て、中古車屋が集中している場所に着いた。「片っ端から聞くしかないな」と決めて、次々と店を訪ねて、中古車屋をしていた背の高い外国人を知りませんか」と聞いた。
「このあたりにはそういう外国人は多いが、おれたちとはあまりつきあいがないな」という返事が多かったが、5軒目で、「ああ。知っている」と言う人に会うことができた。
「テロリストだったんだな。テレビで見て驚いたよ。近所に事務所があるので、たまに展示している車を見に来ることがあった。それで話をするようになったんだ。どこかに行ってきたと言ってお土産くれたこともあった」
「名前は何ですか」
「ジョージだよ。身長はべらぼうに高くて、『2メートル50はあるのか』と冗談を言ってやったが、『そこまではないですよ』と笑ってていたがね。まさか彼がテロリストだなんて信じられなかったな」
「どうして分かったのですか」
「いや。朝起きたらパトカーが何台も来ていたんだ。何だろうともってよく見たら、ジョージの事務所があるビルの前だった。それで、ジョージが何かやったかと近所の者と話していたんだが、翌日の新聞でテロリストと出ていたから、びっくりするなんの何かのまちがいじゃないかと思ったものだ」
「そこは今どうなっていますか」
「人に聞いたら、スタッフが二人いたが、今は、「しばらく休みます」書いあるよだよ。これからどうするのかは分からないけど、ところで、きみらはジョージのことを調べているけど、どんな理由なんだ」
「最近、日本人と外国人が二人殺された事件がありました。その二人とジョージが仲間じゃないかと思われるのです。それで、ジョージのことを調べているのです」
「札幌で殺された事件だな。あれはまだ解決していないのか」
「そうです」
「でもどうしてその二人ときみと関係があるのかな」
ぼくはまた伯母さんのことを持ち出して話した。
「へえ。内輪もめか別の犯人がいるかもしれないということだね。ドイツに強制送還されたそうだけど、その前に日本で調べてないのかな。
「それならいいのですが、日本の警察は何も発表していません。それで自分たちで調べようと思って」
「おれが説明できるのはこれくらいだけど、気をつけたほうがいいよ。たまにパトカーが来ているからね」
ぼくらは礼を言って、ジョージのビルを見に行った。3階建てでその2階にあった。1階と3階も中古車屋だった。ただし、1階と3階は日本人が経営しているそうだ。
パトカーが止まった。一人の警官が下りてきて、「何をしているんだね」と聞いた。
「テロリストが捕まったと聞いてみているだけです」
「誰か来るかもしれないから気をつけたほうがいいよ」
「強制送還されたんじゃないですか」しゃかりき丸が聞いた。
いのですか」
「いや、そうだけど、仲間が来るかもしれないからな」
テロリストはまだいるんですか」
「今調べているはずだよ」
「科学者が何人も行方不明になっていますが、その一人が親戚の科学者なんです。親戚中が心配しているので、見に来たんです」
「それは心配だな。でも一日一回はこのあたりを巡回しているので、何かあったら報告するよ」ぼくらを帰らせた。
元来た道を歩いていると、先ほどの中古車の主人が、「まだいるのか。さっ子供に電話してどんなことをを言っていたか聞いたんだ。子供をかわいがってくれからね。
子どもの話では、『釧路のペンションがいいよ。静かで景色もすばらしい』と何回も言っていたそうだよ」
「それはいいことを聞かせてもらいました」ぼくらは駅に急いだ。
のほほん丸の冒険
第1章119
奥さんの家に戻ると、「アリ・ルルーシュという男はコーズマスと同一人物だと思うのですが、ジョージという名前も使っていたようです。
中古車屋の人がいろいろ話してくれたのですが、そこの子供に、『釧路のペンションはいいぞ。今度行こうよ』としゃべっていたそうなので、明日から釧路を見てきます」と説明した。
奥さんは、「でも、釧路湿原や阿寒湖はとても広大な場所です。そこを調べると言っても、そう簡単にはできないですよ」と心配してくれた。
「電車の中で地図を見ましたが、確かに広いですね。しゃかりき丸と相談したのですが、エリアを分けて調べることにしたんです」
「しかし、歩いて調べることはできないよ」
「そうですね。向こうで考えます」
準備をしてから早く寝た。翌日は札幌駅から釧路駅へ行き、そこからバスで阿寒湖に向かった。
阿寒湖のバスセンターは人であふれていた。しかし、ぼくらはそこを離れて、計画通りに、いや、計画どおりに進められるか練習することにした。
近くにはホテルやペンションが数多くあったが、まさかこんなににぎやかなところに監禁されていることはないだろう。そこで静かな場所を探すことにした。
どこも営業中のようでこれらは調べる必要はない。
地図を見ながら進んだが、徒歩では時間がかかりすぎる。そこで、バスセンターまで戻って自転車を借りることにした。
空き家のようなペンションはなかった。もっと奥に行くべきだろうと思って、さらに計画を練った。
つまり、一番遠くまで行って、分かれて探すことにした。そして、あやしいペンションは二人で調べることにしたのだ。
広大な場所を探すけど、見逃すことはしたくない。さらに別のエリアもあるので、これは一番効率的な方法だと思った。
二人で作戦を練っているとき、一台の車がぼくらよ横に止まった。「どこか探しているのか」と50代ぐらいの人が聞きて来た。
「はい。知りあいがこのあたりにいると聞いたので、おどかそうと思って黙って来たんですよ」
「住所は分かっているの」
「いや。分からないです。探して見つけられなかったら帰ります」
「個人のペンションか」
「はい」
「阿寒湖温泉の近くや少し離れた阿寒町市街地とか阿寒湖近くに多いけどな」と教えてくれた。
それを参考に探す場所をもう一度見直すことにした。まず、温泉近くを行くことにした。そこで、別々に調べることにした。時間を決めて戻ってきて、再調査のペンションは改めて二人で調べることにした。
三日後、阿寒町を調べていたが、午後5時になってもしゃかりき丸帰ってこなかった。多分まだ探しているのだろうと思って、しばらく待つことにした。
6時30分になっても姿を見せない。しゃかりき丸も携帯を持っていたが、ペンションに近づいたときに携帯が鳴るとまずいので、お互い携帯を使わないようにしていた。
しかし、約束の時間を1時間半も遅れているのは心配なので、思い切って携帯をかけた。
「道に迷ったのか」と思ってかけつづけたが、まったく出ない。とりあえず、1週間借りているホテルに戻ってもかけつづけた。奥さんい連絡しようと思ったが、もう一日様子を見ることにした。
翌日朝早く集合場所に行ったが、何の変化もなかった。そこでしゃかりき丸が向かった場所を探したが、どこにいなかった。
ぼくは阿寒湖の交番に行って、友だちが行方不明になったことを説明した。
警官は話を聞いてくれてパトカーを呼んでくれた。
事情を聞かれた後、パトカーで現場に行き、二人の警官が探してくれたが、見つからなかった。
翌日、もう一度探すことになって、それでも見つからなかったら、行方不明者として捜査してくれることになった。
ぼくは奥さんに連絡した。奥さんは驚いてすぐに駆けつけてくれることになった。
しゃかりき丸の電話は相変わらず鳴りつづけるだけだったが、ひょっとして何か見つけたかしれないと思った。
のほほん丸の冒険
第1章120
しゃかりき丸がミチコの叔父さんや奥さんの主人が監禁されているペンションを見つけて様子をうかがっているため携帯には出られないのだと思ったのだ。
しかし、一日たっても連絡がつかないのはどうもおかしい。それで、しゃかりき丸を探しながら携帯をかけようと決めた。
奥さんは早朝急いできてくれた。「ごめんね。しゃかりき丸は何かに巻き込まれていないか気が気じゃなくて」
それで、ぼくはその時の様子をすべて話した。「今までの経験から、まず一人であやしそうなペンションを探して、翌日そこを二人で様子を見ることにしていたんです。でも待ち合わせの場所に来ないので心配になりました。
きのうは警察にも連絡して、パトカーで探してもらったのですが、何も見つかりませんでした」
二人で自転車でその場所に行くことにした。「ここです。2日前ここで待ち合わせしていたんです」
「場所が分からなくなっても、しゃかりき丸が連絡してきたらすむことですものね」
「それにあやしい家に張りついていたら、音を消すだけですから、そこを離れたら元に戻すと思っていたのですが」
「警察はどう言っているのですか」
「今日警察から連絡が来るはずです。まだ帰ってきていないのなら本格的に捜索すると言っていました。それでも見つからなかったら、あちこちにビラを貼ってくれるそうです」
そう話をしていたら、ぼくの携帯が鳴った。しゃかりき丸ともったが、やはり警察からだった。
話が終わると、奥さんに伝えた。「まだ帰ってこないと言うと、今から本格的に捜索するそうです。今からここに来ます」
パトカーが来るまでに、「ちょっと作り話をしたんですが」と言って、ぼくがどう説明したかを話した。奥さんは、「分かりました。そう受け答えをしますよ」と笑った。
10分後にパトカーが2台来た。「何か連絡でもこなかったかい」と年輩の警察官が聞いた。
「全然ありません。おばさんが来てくれました」と奥さんを紹介した。
警察官は、「ご心配ですね。チラシもあちこちに貼っていますし、今日は広範囲を探します」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけます」奥さんは頭を下げた。
「二人は、初対面の人をびっくりさせようとこのあたりのペンションを探そうとしていたそうですが、その人は佐伯さんでよかったですか」
「はい。佐伯さんです。でも、最近知り合ったので、住所は分からないのです。うちに子連れで遊びに時にこの子たちは仲よくなったんです。
私たちの話を聞いていて阿寒湖のペンションに行くそうだから、びっくりさせようと考えたらしいです」とおばさんはぼくの話に合わせて答えてくれた。
「分かりました。ペンションにも聞いてみます」パトカーは離れていった。
「ありがとうございました」とぼくが頭を下げると、奥さんは、「しゃかりき丸が早く見つかればいいですね。佐伯さんのことはちゃんと言えるように考えておきます」と笑顔で言った。「それじゃ。私たちも探しましょうか」
「そうですね。警察があまり調べない家などを見つけましょうか。ご主人たちはそういうところに監禁されている可能性があるはず」奥さんは深くうなずいた。それから、自転車で探しはじめた。
その日は,探しながらしゃかりき丸に何回も連絡したがつながらないし、警察からも連絡がなかった。
翌日も同じことだった。しかし、どちらもあきらめようという気持ちはなかった。
3日後の昼頃、いつものように探していると、一人のおじいさんが向こうから歩いてきて、「最近よく見るね。友だちはどうしたの」と聞いてきた。
ぼくらは自転車を止めて、「はい。今はいないんですが」と答えた。
おじいさんは、「けがは大丈夫だったかなと思ってな」と言った。
ぼくは、えっ!と声を出した。