シーラじいさん見聞録

   

しかし、やつらを「海の中の海」近くで目撃したらすぐに帰ってくることという条件がついた。やつらがさきにここに来てしまっては、もはやどこにも逃げられないばかりか命さえ危ないからだ。
誰が行くかは副官に任せられることになった。全員病院を出て、副官のまわりに集った。
副官は、まずリゲルとオリオン、ペルセウスの名前を挙げた。
ボスは城の近くで何かに攻撃されたので、まず城から探さなければならないが、リゲルとオリオンは城の場所を知っているだけでなく、その構造もわかっていたからだ。
また、ペルセウスも一人で忍びこんだことがあるうえに、今や情報収集において彼ほどの能力がある者はいないからだ。
そして、副官は、「シーラじいさんにも司令官の任をお願いしたい」と言った。
見回り人がボスを探しながら集めた情報を分析して、見回り人に指揮をするとともに、クラーケンに対する作戦を考えてほしいというのだ。
4人は、すぐにボスの息子が待っている場所に向おうとした。
そのとき、「副官」という声が聞こえた。全員その声のほうに振りむいた。娘だ。
「私も行かせてください。城の近辺は詳しいので、早くボスを見つけられると思います」と叫んだ。
間髪をいれず、弱虫も前に出た。
「副官。わたしにもボスを探させてください。大勢いたほうが早く見つけられるはずです」
すぐに他の見回り人も前に出た。
「待て」副官は前に出てきた者を制した。
「やつらが帰ってくることも予想される。ここで警戒することも大事な任務だ」
そこで、娘と弱虫だけを追加して、すぐに出発するように命じた。
リゲルたちはボスの息子が待っている場所に急いだ。息子もあせっていたのか自分から近づいてきた。
リゲルは、「わたしたちも、ボスを探します」と叫んだ。
「ありがとう。それじゃ行きましょう」息子は言った。
「ちょっと待ってください」リゲルは言った。
「手分けしたほうが早く探せます。7人いますが、それぞれの能力にあった任務や場所については、わたしたちで決めます。
あなたは、どんな深い場所でも一気に行ける能力をお持ちだとわかっていますが、連絡を取りあったほうが効率よく探せると思います」
息子はうなずいた。リゲルは話を進めた。
「そこで、みんなの名前を言っておきます」
「名前?」
リゲルは名前について一通りの説明をして、みんなの名前を紹介した。
しかし、弱虫と娘にはまだ名前がないことに気づいて、シーラじいさんにすぐにつけてくれるように頼んだ。
二人は驚いたような顔になった。
シーラじいさんは、しばらく考えていたが、「きみは、シリウスと名づけよう。シリウスは、おおいぬ座といわれる星座の中で力強く光っている。
しかも、1等星の中で一番太陽に近く、一番明るい星じゃ。オリオンの忠実な友でもある」と弱虫に言った。弱虫は笑顔でうなずいた。
「それから、あなたにはベガはどうじゃ。その星座は、ニンゲンが使う楽器とも美しい女性ともいわれている。温度が9500度もあり青く美しい星じゃ」
娘も、体で喜びをあらわした。
「それでは、これから、おまえをシリウス、あなたをベガと呼びます」とリゲルは急いで言った。
「みんなの名前をわかりました。それでは、シーラじいさん、ぼくにも名前をつけていただけませんか」と息子が言った。
みんな驚いた顔で見あげたが、息子はじっとシーラじいさんを見ていた。
「それなら、ミラというのはどうじゃ。これはあなたのお仲間のくじら座という星座の星で、心臓のように膨らんだり縮んだりしている。最近、とても長い尾を持っているということもわかった。あなたにふさわしい」
「ありがとうございます。これからぼくのことをミラと呼んでほしい」と息子もうれしそうだった。
「それじゃ行きましょう」リゲルは叫んだ。
全員泳ぎだした。そのとき、ミラと名づけられたボスの息子は、オリオンのそばに来た。
「そうか。きみがオリオンだね」
「そうです。ぼくも、シーラじいさんに名前をつけてもらいました」
「もっと大きいと思っていた。きみのことはパパから聞いている」
「ボスに助けていただきました」
「パパは、きみが放りだされたとき、きみが光って見えたと言っていた。
どんな理由であれ死んでしまえば、他の者を助けるのだから、死ぬことは悲しいことではない。
しかし、なんとしてもきみを死なしてはならないという思いが浮んで助けにいったということだった」
「ぼくも、それを聞いて、みんなの役に立たなければといつも思っています」
「パパから、名前について聞いたことがあるのを思いだしたよ。星座というのは、夜空に輝いているものだね」
「一つ一つは星といいますが、それの配置でニンゲンが知っているものと似ていれば、その名前をつけたようです」
「パパのことを頼む」
ミラは、そう言うと海に潜った。リゲルたちも、ミラがオリオンに話している間待っていたが、すぐに後に続いた。
シーラじいさんは深く潜ってから、第一門を左に曲がり、岩場を進んだ。
しかし、連絡がつくように穴場に入らないようにした。久しぶりに外に出たが、前と変わっていないようだ。
ボスはどこに行ったのか。悪いことが起きていなければいいがと思いながら、あたりを窺いながら進んだ。
しかし、花は流れに揺れ、クラゲは光りながらのんびり進んでいる。以前と変わらない風景が続いていた。
それなのに、なぜあのような怪物があらわれたのか。
わしはこれ以上深くいけないが、やつらは深い海から出てきたのか、あるいは「海の中の海」ようのように、また別の海に住んでいるのか。
そのとき、ウフフという笑い声が聞こえた。それに続いて、また笑い声が起きた。娘の声のように聞こえる。話し声も聞こえた。岩の裏側で娘たちが遊んでいるのかもしれない。
シーラじいさんは、笑い声が遠くになるまで、そこでじっとしていた。
その頃、リガルたちは城に近づいていた。

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