
にぎやかな家
にぎやかな家
健太は電車に乗るために駅にいました。担任だった先生が移動するので先生の家に仲のよい生徒が集まることになったのです。
電車が来るまで10分以上あります。高いプラットホームからまわりの景色を見ていました。
まだ朝早い時間ですが、にぎやかな声が聞こえてきました。声が聞こえるほうを探すと、駅から50メートルぐらい離れた場所にある家からのようです。高い塀に囲まれた庭には大きな木がいくつもあります。
枝の間から子どもたちが走りまわるのが見えます。3人ぐらいいるようです。白い犬もいて、子どもたちと同じように鳴きながら走っています。
よく見ると大きな家には縁側があり、おばあさんがすわって何か縫い物をしています。おばあさんの横には猫が寝ているようです。
数日後、パーティで仲よくなった雅也から家に来ないかと誘われました。駅の近くのマンションです。8階に着き、外を見ると下にどこかで見たような大きな家がありました。庭には大きな木がいくつも見えます。先日駅から見た子供たちが庭で走りまわっていた家にちがいありません。
夕方ごちそうのお礼を言ってベランダに出ると、一緒に出てきた雅也にそのことを言うと、「それはちがうよ。そこは誰も住んでいないよ」と答えました。健太は駅から見た様子を説明しました。
雅也は、「それじゃ。家の様子を見に行こう」と言いました。
「入れるの」
「入れる。昔友だちと入ったことがある。門の横の小さな入り口から入れるんだ。庭に行くと、家から誰かに見られているような気がしてすぐ逃げたよ」
雅也の話を聞きと怖くなりましたが、にぎやかな声を出して子どもたちや犬が走りまわっていたのを確かめたい気持ちもありました。
雅也の後についていくと、雅也は釘を使って小さい門を開けました。健太もおそるおそる中に入りました。庭は静まりかえっています。たまに風が吹くと枝が揺れます。
「家には近づかないよ。気味が悪いから」雅也はそう言うと、庭の裏手のほうに一人で行きました。
健太も後を追いかけようとすると、小さな声が聞こえたような気がしました。
健太は思わず家のほうに近づきました。おばあさんと猫がいた縁側です。
声はさらに大きく聞こえました。健太は、ガラス戸を開けるとすっと開きました。
声ははさらに大きくなりました。健太は靴を脱いで縁側に上がりました。
誰もいません。しかし、にぎやかな声はさらに大きくなりました。
どうも畳の下から聞こえてきた気がしたので、健太はその畳をちょっと上げました。するとそこには穴があいていて、声はそこから聞こえていたのです。しかも、下は明るく光っています。健太は慌てて畳を下に下ろし、急いで家の外に出ました。
雅也が戻ってきました。しかし、今言見たことは言いませんでした。
「誰もいないだろう。この家のお父さん、お母さんは交通事故で亡くなったそうだ。それで、みんなどこかに引っ越したと聞いたことがある」
「確かに見たんだけどなあ」
「きみはお父さんと二人っきりだから、にぎやかな家にあこがれているからじゃないか」
あの日も、プラットホームで、よくお母さんと電車に乗ってどこかに行ったなあと思いだしていた。
ある晩健太の夢の中にお母さんが出てきました。淋しくなって眠れなくなりました。
すると健太は起きると服を着替えて、お父さんに気づかれないように外に出ました。
深夜ですので誰も歩いていません。足はにぎやかな家に向かいました。塀の外からも、にぎやかな声が聞こえてきました。犬も鳴いています。
健太はじっとそこにいました。すると、「あなたも、負けずに大きな声で笑って生きなさい」とお母さんの声が聞こえてきました。