シーラじいさん見聞録

   

あちこちから、クスッという笑いが起こった。他の者は、咳払いなどをして、それを諌(いさ)めた。
弔辞を読む長老は、そのやりとりがわかったのかちょっと間をおいた。また言葉を続けた。

我らは、勇猛果敢な若者を失った。
荒ぶる者が、今まさに姿をあらわそうとしているそのときに
しかしながら、若者は、暴虐に立ちむかう勇気を残してくれた
我らは若者のことを永久に忘れない

わかりやすい言葉に変えたのがよかったのか、長老の言葉は、みんなの胸に響いたようだ。参列している者は、ひれを軽く動かした。それは、同じ心であることをあらわす動作なのだ。
枝でできた安置台は、その波で動いた。そのため、見回り人は、生きているかのように見えた。
そして、長老たちが安置台に近づき、見回り人に触れた。次に、参列している者もそうした。そして、家族や親戚の者が近づき、最後の姿を見届けた。
幼い兄弟は泣いていた。
安置台を支えていた門番は、安置台を下から離した。すると、腹に重石(おもし)を入れられた見回り人は、しばらくその場に止まっていたが、ゆっくり沈みはじめた。
兄弟が、兄を追いかけようとしたが、親が止めた。
それを見ていると、家族は、あんなふうに結びついているものなのかと、オリオンは思った。
「あいつをヘラクレスと名づけてやったじゃ」
シーラじいさんは、だんだん小さくいく見回り人を見ていたオリオンに言った。
「ヘラクレスですか?」オリオンは、シーラじいさんを振りかえった。
「おまえたちと同じく星になっている英雄じゃ。王に命じられた12の冒険をみごとにやってのけたといわれている。
あいつも、生きていれば、おまえやリゲルといっしょになって、どんな敵にも向っていく兵士になったことじゃろ」
「さよなら、ヘラクレス。ごめんよ」
オリオンは、もう見えなくなった見回り人に心の中で言った。
家族を愛して、家族のためにがんばるといっていたのに、今、家族に見守られて旅立つ。
そして、シーラじいさんは、死ぬと、どこか遠くへ行くと言っていたけれど、ヘラクレスは、リゲルやぼくといっしょにいたいといっていたはずだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
自分のしたことが他人を不幸にしたかもしれない。ベテルギウスにも、ぼくが言ったことで、何かが起きたかもしれないんだ。オリオンは、自分が腹立たしくなった。
やがて、家族と長老たちが挨拶をして葬儀は終った。「海の中の海」にいる者は門の中へ引きあげた。
まだ、心の整理がつかないオリオンは、見回り人の家族のところへ行って、見回り人がどのように戦ったかを話をしようかと思った。
でも、それは許されないことだった。葬儀では、挨拶が終ると全員その場を離れなければならないからだ。
門の中に入るとき振りかえると、兄弟がこちらを見ていた。
誰かから、ぼくのことを聞いているかもしれないと思うと、胸がしめつけられそうになり、それ以上進めなくなった。
「オリオン、急げ」シーラじいさんは、オリオンを急かした。
「もし敵が攻めてきたら、みんなに迷惑がかかるぞ。こういうときは、そういうことがしばしば起きる」
シーラじいさんは、オリオンの気持ちがわかっていた。すんだことを早く乗りこえさせようとしたのだ。
入院していた兵士はまず病院に戻り、最後の診察を受けた。見回り人のことがあるので、院長が全員を診た。
全員けがは完治しており、あとは精神的なことだけだったので、それぞれの任務に戻ることが許された。
オリオンは、シーラじいさんとともに家に帰った。
シーラじいさんは、オリオンがまだ何かを引きずっているようだったので、改革委員会に顔を出さずに、いっしょにいるようにした。
夢をみてうなされることもあった。また、「シーラらじいさん、ここを出たいんだけど」と言うこともあった。
「おまえがそう言うのならそうしよう。おまえは、親や兄弟を探さなければならないからな」
「すぐ行きましょう」
「宿題はあとからするか?」
「宿題?」
「そうじゃ。いくつかあるぞ。ベテルギウスを探すことや、ペリセウスの様子を見にいくこともある。
そうそう、ジムも心配じゃないのか。そして、大きな災厄を見つけて、みんなを守ることも大事な宿題じゃ。
命を助けてもらったお礼をすることを忘れないのなら、わしは、おまえに反対はしない」
そのとき、誰かがあわててやってきた。リゲルだった。
そして、2人に「ボスがたいへんだ!」と叫んだ。

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