ユキ物語(18)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(232)
「ユキ物語」(18)
おれはやつを奥に入れてから自分の体を尻から押し込んだ。これなら誰かおれたちに気づいても、なんとかこいつを守れるだろう。
そうは言っても、こんなことは初めてだ。仲間以外のものと戦ったことはない。いや、仲間とさえ喧嘩したことがない。おれを兄弟の一人と言っていたものがいたように、おれも兄弟がいたような気がするが、兄弟喧嘩の記憶はない。
数か月でおれはどこかに連れていかれたのだ。ペットショップでもおれに喧嘩を売るようなものはいなかった。だいたい小さいものばかりだった。
暗闇の中で不安を感じたが逃げ出すわけにはいかない。おれを頼っているものがいるのだ。
そこで、クマが襲ってきたと仮定してシミュレーションというのをしてみた。
クマはおれたちに気づいて、洞(ほら)の前で威嚇するだろう。しかし、震えてばかりいては相手がつけあがるばかりだ。そして、突進してこられたらおれたちはつぶされてしまう。
まず、おれは洞から飛び出して全力でクマの顔に体当たりする。クマは慌てて引き下がるが、怒っておれを追いかけまわすだろう。
おれは徐々に洞から離れるようにする。その間にウサギは一人逃げる。
それしか助かる方法はない。そうだ。明日ウサギにこの作戦を話して、近くで逃げ込む場所を探させよう。あのけがでは遠くまで行けまいのだ。
そんなことを考えている間に、昔スタッフ同士がおれのことを話しているのを思いだした。
おれはグレートピレニーズという種類のようだ。元々ヨーロッパの山岳地帯で牧羊犬や番犬として働いていたらしい。つまり、家畜を守るために、クマやオオカミと戦っていたのだ。
しかし、世の中の変化で、その役目も徐々に減ってきて、貴族のペットに成り下がったというのだ。
彼は昔の彼ならずという言葉がある。その末裔おれたちは、山を走り回ることだけでなく、クマやオオカミと戦うことなど親から教えられたことはない。
できないというだけですますことができなくなった。祖先の能力がおれのどこかに眠っていないか。そして、明日から少しは訓練したほうがいいだろう。
そんなことを考えている間に眠ってしまった。
どこかで鳥が鳴いているような気がした。鳴き声を聞いていると、ペット屋にいるような気がしてきた。売り物ではないが店にいたのだ。誰が持ってきたのだろう。
おれは目を開けた。しかし、目の前にあるのはペット屋の風景ではない。おれは目をさらに大きくして風景を見た。
そうか。ここは山の中だったのだ。徐々に昨日のことが思い出された。
それから、洞から出て中をのぞいた。白くて小さいものがいる。少し動いている。こちらを見ているようだ。
生きている。クマなどが来なかったのだな。おれはようやくすべてを思いだした。
そう思うと腹が減っているのが分かった。
今まで時間が来ておれの前に食べものがないのは初めてだった。ペット屋はもちろん、誘拐されたときも、おじいさんの家に行ったときも、そういうことはなかった。
その時、ウサギが洞から出てきた。おれは腹が減っていることを悟られないようにして、「夕べはよく寝られたか」と聞いた。
ウサギは何か言ったが、よく分からなかった。しかし、少し動いて、ここを見てというように合図をした。
おれはそこまで行き、草の根元を見た。紫色の塊がある。これは木の実か。
これは食べられるのかと考えていると、ウサギは食べはじめた。そして、おれにも食えというような合図をした。
おれは少し食べてみた。少し酸っぱいがまずくはない。おれは食べつづけた。
二人で食べおわってから、どうしてここにあるのだろうと思った。何気なく洞の足元を見ると、何かを引きずったような跡があった。
そうか。こいつはおれに食べさそうとして、多分朝早く起きて、おれと洞の隙間から外に出たのか。

 -