空の上の物語(3)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(40)

「チュー吉たちの冒険」
「うるせーな、ったく」寝ていたチュー作が、忌々しそうに叫びました。
耳元で響くぐらい大きな声が聞こえているからです。ときには、キーンという音で体が震えるようになります。いわば深夜勤務のネズミたちには安眠妨害なのです。
「何かあったのか?」チュー吉も、隣にいたチュー助に小さな声で聞きました。
「選挙が始まったんだ」博学のチュー助が答えました。
「選挙?」
お昼はいつもならぐっすり寝ている時間ですが、他のものも、まわりの騒がしさに目が覚めて、赤い目をさらに赤くしながら、2人の近くに集まってきました。
「テレビで言っていたな。原発とかTPPとかだろう。しかし、そんなニュースがはじまれば、娘さんの部屋に行くんだ。いつもAKBなんか見ているからな。自分も、すぐも踊るから、おれが後ろにいても気がつかないし」チュー造が言いました。
「何だい、その、トイレでピーピーとか言うのは」チュー太郎が聞きました。
「ちがうよ。TPP。Trans-Pacific Partnership。環太平洋戦略的経済連携協定という意味だ」
そして、TPPとは何か、それに加入することになぜ賛成、反対があるのかを説明し、またEPAやFTAなどの他の経済協定なども教えました。
「頭混乱してくるなあ」チュー太郎の弟のチュー次郎が言いました。
「政治家でもよくわからないから、賛成、反対だけでなく、交渉ぐらいは認めるとか、いや、アメリカに丸めこまれるだけだから交渉も反対だという意見もある」
「でも、ぼくらには関係ないや」
「そんなことないよ。農業が衰退したら、ぼくらの仲間も困るだろう。農家に食べ物がなくなるのだから」
「でも、車やテレビなどの工業製品が売れれば、日本全体の景気はよくなるんだろう?」
「そうだ。人間がごちそうを食べれば、ぼくらもごちそうにありつける」
「今、福島などの仲間はどうしているんだろう」
「こればっかりは、テレビでも言わないしな」
みんなは、チュー助の話に引きこまれたのか、睡眠を邪魔されたのにもかかわらず、みんな議論に夢中になりました。
「じゃ、チュー助。選挙とやらをすればどうなるか教えてくれ」
それで、国の成りたちや、政治、経済の話をしました。
「なるほど。すると、日本だけでなく、世界中の国が不況になっていて、その出口がわからないということだね。
それなら、政権を変えても、おれたちの、いや国民の性格はよくなるんだろうか」
「チュー作の指摘は厳しいな。でも、確かにそうだ。選挙費用は800億円もするそうだから、不況対策に使ったほうがどれほどいいかわからない。でも、それが、さっき説明した民主主義というものなんだ」
「独裁者が無茶苦茶するのを防ぐ費用か」
「核兵器でも使えば、そんな金で済まないもんな」
「どうでもいいけど、おこぼれだけはある世の中にしてもらいたいな」
「賛成、賛成」
チュー助による解説と議論は終わりました。チュー吉は、新鮮な空気を吸うために外に出ました。
選挙カーがひっきりなしに通ります。甲高い女の人の声が候補者の名前を叫んでいます。たすきをかけた人が手を振っています。
「これが選挙か」チュー吉がそう思ったとき、「お兄ちゃん」という声が聞こえました。
あたりをきょろきょろ見ると、小さなネズミが壁の陰からこちらを見ています。
「こんにちは。何をしているんだい」チュー吉は近づきました。
そのネズミは、少し後ずさりしましたが、チュー吉を見ると安心したのか、「もうすぐ出ていくので、最後のお別れをしているところなんだ」
「どこかに行くのか」
「そうなんだ。家が村八分のようになっちゃって、誰も、ぼくと遊んでくれなくなった。それで、パパはよそに行くことを決めたんだ。また家族でやりなおそうって」
「そうか。また、どこかで会えるよ」
「そうだね。今度はゆっくり遊ぼうね」そのネズミは、淋しそうな笑顔を浮かべました。
「何があったかわからないが、困っているものを助けたら、また楽しい生活ができるよ」と声をかけました。
「誰かを助けたら、いつか助けてもらえるのだから」

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