ピノールの一生(26)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(137)
「ピノールの一生」(26)
二人います。二人ともロボットです。「おまえたち、どこへ行くんだ?」一人が言いました。「家に帰るんだ」ピノールが答えました。
「それなら、証明書を持っているだろう?二人とも出せ」
「証明書?ああ、ロボットの身元を証明するものだな?そんなものはない」
「ない!家があるのなら、持っているはずだ」
「ぼくらは今船から下りたところだ。長い旅に出ていたんだ。その間に、法律が変わって、証明書を持っていないロボットは逮捕されて、有無を言わさずすぐにスクラップされるということを聞いた。でも、家に連絡をしても誰も出ないから、心配になって隠れながら帰っているところだ」
二人のロボットは、ピノールの説明に納得していないのかピノールと相棒をじろじろ見ました。
「それにしても、おまえは古そうなロボットだな。それに、あちこち錆が出ているぜ」
「そうだよ。ゼペールじいさんが300年前の部品で作ってくれたんだ。ポンコツでも頑丈だよ。きみらも証明書がないのか」今度はピノールが聞きました。
二人は顔を見合わせていましたが、「ない。事情があって証明書はない。船に乗りたいんだ」
「審査は厳しくなっている。ぼくらは、海で助けてくれた人間が大金持ちで、うまく港から出してくれた。そうだ!ゼペールじいさんに頼んでみようか。何とかしてくれるかもしれない」
「どこにいるんだ?」二人は身を乗りだして言いました。
「あの山の左側だ」ピノールは、遠くに見える山を指さしました。
「えっ!おれたちは右側から来たのだ」
「ケイロンの!ピノールは言葉を飲みこみました。
「ケイロンを知っているのか?」二人は叫びました。
「ああ、少し」
「おまえたちはケイロン一派の者じゃないな?」
「ちがう!」
「それなら言うが、おれたちはケイロンたちと抗争している者だ。襲撃がうまくいかなかったので出直すために戻ってきた。しかし、みんなばらばらになったので困っている」二人は具体的に言いました。
「ケイロンの家に行ったのか?」
「近くまで行った。透視カメラで内部を見ようとしたが、強力なバリアがあるので内部はよく見えなかった」
「モイラという娘を、もちろんロボットだが、ケイロンが狙っているんだ。家に閉じこめていないか心配して帰ってきた」ピノールも正直に言いました。
「そこまではわからなかったけど、家来はかなりいる。とにかく敵の敵は味方というわけだ」
「それなら、ここで待っていてくれたらいい。ゼペールじいさんに頼んでみる。足を作ってもらったら急いで戻ってくるから」
「ここは港に近いから監視が厳しい。ヘリコプターもいつも飛んでいるだろう。全部ロボットを見つけるためだ」
「しかも、やつらは最新の発見機器を積んでいるから、数キロぐらいまで来たら見つかってしまうぞ」二人は口々に言いました。
「それじゃ、感知されないルートを教えておこう」
「お願いします」
4人で用心しながら数キロほど歩いたとき、突然ドーンという音がしました。4人は近くの穴に飛びこんだのですが、気がついたときは穴には3人しかいなくて、穴から顔を出すと、近くで何かが木っ端みじんになっています。逃げてきたロボットの一人です。黒こげの体から煙が上がって、金属が焼けた臭いがしています。
「ロボットというだけで、こんな目に会うのか。ロボットに知能を与えたのは人間じゃないのか」ピノールは憤りました。
ヘリコプターの音はしなくなりました。それに、気温は50度を超えているので、人間が来ることはありません。
「きみも来るか?」ピノールは、残ったロボットに声をかけました。そのロボットはうなずいたので、3人で山を登ることにしました。

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