ピノールの一生(25)
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(135)
「ピノールの一生」(25)
その船は個人が所有する船だったので、専用の場所に着きました。特に二人を助けた船ののオーナーであるカルマンさんはVIPだったのか、港のスタッフは家族を丁重に迎えました。
二人に証明書を見せるようには言いませんでした。最近の法律では、こういう場合でも証明書の提示が必要だったのですが、カルマンさんには誰もそんなことは言いませんでした。
カルマンさんは、スタッフの前で、「それじゃ、きみたち、先に行ってぼくらが港に着いたと言ってきてくれるかな。びっくりするぞ。もし困ったことがあれば、すぐに連絡してくれ」と言いました。
ピノールと相棒を逃がすためにそう言ってくれたのです。奥さんも、3人の子供たちも、目に涙をためていましたが、ただ使いにいかすだけなのに、大げさなことをするとスタッフがあやしむかもしれないので、何気ないふうにしていました。
それがわかったピノールは、「ネイサン、ルイ、マノン。帰ってきたら、遊びの続きをしよう。今度は負けないぞ」と声をかけました。
「OK。早く帰ってきて」とお兄さんのネイサンが答えました。
二人は急ぎました。ピノールの片足は今相棒が使っているので、走りにくいのですが、相棒が支えて走りました。
港を出るとき、ちらっと大型船の発着場を見ると、ロボットは人間の家族と同行していても、別の出入り口で証明書を見せていました。
「最近厳しくなったなあ。昔は、あんなことなかったのに」と相棒が言いました。
「ロボットの反乱がひどくなったんだね。ゼペールしいさんがぼくを作ってくれたときでも、こんなことはなかった。今はと許可無しでロボットを作ると重罪になると聞いたことがある」ピノールは答えました。
そのとき、「きみたち、少し聞きたいことがある」と呼びとめられました。声のほうを見ると、パトロールカーが横にいました。「証明書を見せてくれないか」と警察官が聞きました。
相棒は、とっさに「ごくろうさんです。ご主人たちと今港に着いたのですが、友だちを驚かせたいので、二人で先に知らせてくれと仰せつかったのです。
ご主人が急に思いついたことで、ぼくらに証明書を渡すのを忘れたようです。
ぼくについてきてくれませんか。こいつは片足なのでここで待たせますが」と言いました。
警察官は、「それなら、念のため連れていってくれるか」と答えました。
「ピノール、そういうわけだ。頼むぞ」と言って、相棒は港に戻り、パトロールカーが後を追いました。
相棒の後ろ姿が曲がり角に消えたとき、ピノールは片足で走りました。ガチャガチャという音を立てながら、坂を登っていきました。
前にも言いましたが、西暦2800年には世界中の気温は50度を超えていますから、人間が表に出ることはあまりありません。目撃されることは少ないのですが、山側に行くとさらに安心なのです。それに、こちらなら、相棒もうまく逃げられます。
また、ピノールが山に向かったのは、遠くに見える山の一角でゼペールさんが自分を待っていてくれるからです。
30分ほど山に隠れていると、相棒が来ました。「しつこいやつらだ。きみが山のほうに向かうのはわかっていたが、まっすぐ来ると見つかってしまうので、あちこち連れまわしてやった。でも、あの家族の名前を言わなかったので、迷惑をかけていないよ」
「ありがとう。機転をきかせてくれたので助かったよ」
「きみから足を借りているので、このくらいなんでもないよ。そろそろ足を返そうか。山道が続くから」
「いや。大丈夫だ。もうすぐゼペールじいさんが作ってくれるから」
二人は林に入り、山を登っていきました。ヘリコプターの飛ぶ音が聞こえてきます。
「おれたちを探しているのだろうか」
「まだ音は小さいから、港の上を飛んでいるのだろう」
そんなことを話していると、二人の前に何者かがあらわれました。