ピノールの一生(3)
2017/05/22
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(91)
「ピノールの一生」(3)
ピノールの目に浮かんだ涙に気づいたゼノールじいさんは、自分は古くさいロボットだとわかったのだなと思いました。
「すまないなあ。いつかは人並みの、いや、ロボット並みの格好にしてやるから」とピエールを慰めました。
「そんなことは気にしないでください。何度でも言いますが、ぼくはおじいさんのおかげでもう一度生まれたことに心から感謝しています。それだけでうれしいのです」ピノールは笑顔を答えました。
翌日、いつものように朝から家事をこなしたピノールは、夕方になると、「おじいさん、少し散歩に出かけてきてもいいですか」と聞きました。
「おお、いいとも。今日もよく働いてくれたからな。おまえと一緒に住むようになって、家は見違えるようになった。ありがとうよ。
でも、外は暑いぞ。そうか、おまえはロボットじゃから、それは心配なかったか。わはは」と笑顔で送りだしました。
ピノールは2時間後に帰ってきました。おじいさんは、何げなく「どこに言ってきたのじゃな」と聞きました、
「海を見ていました」
「そうか、そうか。それはよかった。海に沈む夕日は格別の美しさじゃからな。でも、今は60度を超す時もあるから、わしは行けないが、おまえは楽しんだらいい」
その後、ピエールは毎日散歩に出かけました。雨の日も行きます。ときには、4,5時間帰ってこないときもあります。
しかし、ゼノールじいさんは、「どこに行ってきたのかな」などと聞かないようにしていました。
「きっと楽しみができたのじゃろ。でも、友だちはどうかな?ピノールは今どきの格好をしたロボットじゃないから、今のロボットには疎(うと)んじられないじゃろか、わしと散歩に出かけたときのように。
しかし、何よりピノールがうれしそうなのがいい。仕事中も、鼻歌を歌っていることもあるからな」ゼノールじいさんは、そう考えてピノールを見守ることにしました。
ある日、ピノールが帰ってきたとき、いつものとちがう音がしました。元ロボット工学の研究者のゼノールじいさんは、すぐにピノールを迎えに行きました。
ピノールは、「ただいま帰りました」と挨拶して、すぐに自分の部屋に行こうとしました。「ピノール、待ちなさい!」ゼノールじいさんは初めて大きな声を出しました。
ピノールは立ちどまりました。「どうした?顔が曲がって、しかも、鼻が取れそうになっている。しかも、体も大きくへこんでいるじゃないか!」
「夕日を見ているとき、うっかりして崖から落ちました」
「今日は曇り空が広がっていて、夕日は見えなかったはずじゃ。そんなことはどうでもいい。とにかく直そう。早くしないと、バランスが崩れて動けなくなるぞ」
ゼノールじいさんは、徹夜でピノールの体をなおしました。部品を物置から探したのですが、ぴったり合う部品が少なく、さらにガラクタの集まりのようなロボットになってしまいました。
「今はこれが精一杯じゃ。外に行けば笑われるかもしれないから、しばらくの間散歩できないぞ」
「ありがとうございます。また迷惑をかけてしまいました」
「何を言っておる。おまえはわしの子供じゃ。親という者はいくら年を取っても、子供が一番大事なんじゃ」
翌日の夕方、ピノールは、「散歩に行ってきます」と言いました。「いくらロボットでも、しばらくバランスが取れるまで動かないほうがいい」と、ゼノールじいさんが言いましたが、ピノールはどうしても行きたいと言うのです。
その夜、ピノールは帰ってきませんでした。ゼノールじいさんは、「やはり、応急処置では無理だったのだ。どこかで倒れているのではないか」と思うと、居ても立ってもいられなくなりました。
それで、探しに行くことにしました。午前2時でも気温は50度近くありますが、ある程度の部品と、もし熱中症で倒れたときの医薬品をもって外に出ました。
小一時間かけて、夕日が見える頂上の広場にたどりつきました。広場はライトがついていたので、隈(くま)なく探しました。
それから、海に向かう崖に向かって、「ピノール!」と何回も叫びましたが、返事はありませんでした。