ピノールの一生(4)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(92)

「ピノールの一生」(4)
「ピノール、ゼノールじいさんのお家に帰らなくていいの?」モイラが心配そうに聞きました。
「いいんだよ」ピノールは、モイラから目をそらしたようでしたが、すぐに答えました。
「でも、あれだけおじいさんに感謝していたじゃない。おじいさんのためにがんばるって」
「今も感謝しているよ、心から。でも、今はきみを守らなくてはならないんだ。いつかはおじいさんに事情を話すつもりだけど、必ずわかってくれる。それに、おじいさんはロボットを作る専門家だったんだ。ずっと昔だがね。今頃また新しいロボットを作っているかもしれない」
「そう。それならいいけど」
「ケイロンのやつ、おれたちが一緒にいるところを見てから頭に血が上ったようだな」ピノールは話題を変えました。
モイラはため息をつきました。「どんどんエスカレートしてきて。パパもママも、わたしたちとちがって人間だから、とてもロボットには立ちむかえないわ。
夜中にドアをノックすることもあったの。とりあえず警察を呼んだけど、今後どうなるかわからない」
「あいつはどこに住んでいるんだい?」
「今は友だちの家を転々としているようなの。人間の親がいたけど、暴力がひどくなって、どこかに逃げたと聞いたけど」
「今度会ったら、コテンパンにやっつけてやる」
「無理をしないで。ケイロンは最新のロボットだから」
「どうせおれは世間がプッと噴きだすガラクタロボットだよ」
「またそんなことを言う。そんなことを言っていないでしょ。ケイロンがわたしをあきらめてくれたら、わたしたちは楽しく暮らせるのよ。ゼノールじいさんも安心するわ」
「ごめん、ごめん。絶対にきみを守ることを一番に考えるよ。この前の仕返しを考えたりしないから」モイラはピノールにやさしく体を寄せました。
ピノールは、散歩中のモイラを一目ぼれして、もう一度会いたいと毎日その機会をうかがっていました。
しかし、同行している人間の親に見つかれば急いで連れて帰られるので、二重、三重のハードルを越えて、ようやく声をかけことができました。
モイラも、まじめなピノールともっと仲良くなりたいので一計を案じました。
ケイロンに怯えていた人間の両親に、私たちを守ってくれるロボットが見つかったと言って、家に呼ぶ承諾を得たのです。
そのままピノールは、ゼノールじいさんの家に帰らずに、モイラの家で用心棒のようなことをするようになったのです。もちろん、モイラと一緒にいられるのですから、ピノールにとってこんな楽しいことはありません。
しかも、モイラの散歩には、ピノールだけがついていくようになったので二人っきりでおしゃべりを楽しむことができました。
あるとき、ケイロンが山道にあらわれ、「このガラクタ、消え失せろ」とぶつかってきました。
ピノールも激しくぶつかりました。モイラは、「止めて!」と叫びましたが、戦いは長い間続きました。
ようやく、ケイロンが去って行きましたが、ピノールも大けがをしてしまいました。
モイラを家に送ってから、ゼノールじいさんの家に戻り、修理してもらったのです。
しかし、この間(かん)のことはどうしても話すことはできませんでした。
ケイロンのことが終われば、モイラを紹介すればいいと考えたのです。二つも三つも心配させるより、帰ってこないという一つだけのほうがいいと考えたのです。
でも、ゼノールじいさんは、「海に沈んでしまったか。今のロボットなら泳ぐこともできるが、ピノールはできない。かわいそうなことをした」と毎日泣いて暮らしました。もちろん、新しいロボットを作ろうなどは思いもしませんでした。
その頃、ピノールには大変なことが起きました。まだまだピノールの、冒険に次ぐ冒険の人生は続きます。
しかし、ムーズに出してくれという者の行列も続きます。そこで、ピノールの話はいったんストップして、そいつらを出すことにしました。
ほら、聞こえてきたでしょ、懐かしい声が。次回はこいつらです。

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