女の子とオオカミ

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(75)

「女の子とオオカミ」
昔のことです。5才の女の子が、ママに、家で作ったケーキを少し離れた場所に住んでいるおばあさんにもっていくように頼まれました。
「でも、途中に森があるわね。あそこには悪いオオカミがいるそうだから、ケーキ作りがすんだら、ママがもっていくわ」と言いました。
女の子は、「ママ、大丈夫よ。まだお昼だし、森の中じゃなくて、横の道を通るから。それに、温かいほうがおいしいわ」と答えました。
それで、一人で、おばあさんの家に向かいました。30分ほどの距離ですが、花は咲き、鳥は鳴いています。寂しくありません。
丘を越えると、遠くに森が見えてきました。少しどきどきしましたが、春の光に輝いています。
森に入りたくなりましたが、念のために別の道を通ることにしました。少し遠回りですが、まだ温かいので、バターの匂いを嗅ぎつけて悪いものが来るかもしれないからです。
ようやく森を後ろになりました、後は小高い丘を越えるとおばあさんの家が遠くに見えるはずです。
一人で来たのは初めてですが、迷うような場所はありませんし、おばあさんの喜ぶ顔を思いうかべれば、疲れもありません。
それに、ママが作ったケーキはほんとにおいしいのです。もちろん、おばあさんがママに教えたのですが。今度はママから教えてもらおうと考えていると、「おじょうさん」という声が聞こえました。
誰?と探していると、「ここだ」という声が下からしました。草むらに誰かが倒れていました。どうも年を取ったオオカミのようです。
女の子が、「どうしたの?」と聞くと、「いや、耄碌(もうろく)はしたくないものですな。
人間が作った罠にひっかかってしまいしました。ようやく外したのですが、これ以上進めなくなったのです。それにお腹が空いて・・・」確かに後ろ足は真っ赤になっています。
「かわいそうに。わたしが持っているケーキをあげたいけど、これはママが作ったケーキで、おばあさんに渡さなくてはならないの」
「いい匂いがしますが、わしらは甘いものは食べません。もっとも、最近は甘いものを食べる若い者がいるが、食べすぎは体に悪いぞと注意しているんだ。
そんなことはどうでもいいが、おばあさんの帰りに、木の実を拾ってきてくださらんか」
「それでいいの。わかったわ」
女の子は、おばあさんの家に急ぎました。おばあさんはとても喜びました。「ゆっくりしておいき」と言いましたが、女の子は、「ママのお手伝いをしたいからすぐに帰ります」と答えました。
おばあさんは残念がりましたが、暗くなると危ないので、「気をつけておかえり」と見送りました。
女の子は、木を見つけては木の実がついていないか見上げました。そして、エプロンのポケット一杯に木の実を集めました。
けがをしているオオカミはたいそう喜びました。
「助かった。人間には気をつけろと、親から言われ、子供にも教えてきたが、おじょうさんのようないい人間もいたのだね」
「けががなおるまでもってきてあげるね」女の子は、そう言って帰りました。翌日も、オオカミに木の実をもっていきました。
けがは少しずつよくなっていきました。しかし、あるとき、知らないオオカミがいました。「あなたは誰ですか?」と聞くと、それには答えず、「見ろ!」と叫びました。
足元にはあのオオカミが倒れていました。「どうしたの!」と叫ぶと、「お前が毒の入った木の実を食べさせたので、親父が死んでしまったのだ」と怒りました。
「そんなことはありません。いつもと同じ木の実です」
そのとき、10匹ぐらいのオオカミがあちこちあらわれました。女の子は驚きましたが、逃げようとしませんでした。逃げる理由がないからです。
「わしらは裁判所の者である。これがまだ生きておるときに、わしらの仲間が見つけて、助けを呼びにいっている間に死んでおった。家族は、おまえが殺したと主張しておるが、人間といえども裁判を受ける権利がある。それで、裁判を開くがいいか」白い髭を伸ばしたオオカミが言いました。
女の子は了承して、今までのことを全部話しました。そして、弁護側3匹、検事側3匹が、それぞれ陳述しました。女の子の態度は堂々としていたので、裁判官や、いや検事にも好印象を与えました。
それを察してか、息子は、「親父を殺したのはこいつだ!現に人間の罠で大けがをしたじゃなか。そして、こいつがとどめを刺した」と叫びました。
4匹の裁判官は長い間話しあいました。そして、判決が出ました。
「わしらは夕べから密かにおまえを調べた。母親の手伝いをよくするし、友だちも大事にする。そんなきれいな心の持ち主が悪いことをするはずがない。今回も、母親やおばあさんの役に立とうとしたことが発端である。
死んだ者とその家族には不幸な出来事ではあるが、最後に人情の暖かさを知ったのは不幸中の幸いと言うべきである。よって、本件は無罪である。今後ともよろしくお願いする」
裁判長は頭を下げました。
女の子も頭を下げました。そして、その場に花をおいて帰りましたとさ。

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