星座

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(74)

「星座」
何日も何日もしとしと雨が降りつづいていたのに、今日は朝から輝くように晴れています。
「まあ、なんて美しいこと!」お家から見る山々の風景を見ながら、アナトリアは思わず叫びました。しかし、しばらくそれを見ていると、涙が出てきました。
それに気づいた母親は、「アナトリア、どうしたの?こんな日は家にいないで、ピクニックでも行っていらっしゃい」と慰めました。
アナトリアは、「お母様、よくそんなことが言えますね。お母様には、お姉様のことをお忘れになったのですか」と、涙にあふれた顔を母親に向けました。
「何を言うんだい、アナトリア。わたしは、ダニエラのことは一日でも忘れことがありません」母親も怒ったように答えました。
「そうでしょう。お姉様はこんな日以上に輝いていました。わたしはそれを忘れることができません。それなのに・・・」また涙があふれてきました。
「今さらそんなことを言ったって」母親も涙声で言いました。
「どうしてもあの男を許せない!」アナトリアは大きな声で言いました。
「許せないといったって。向こうにも言い分があるでしょうから」
「確かに自ら海に身を投げたのはお姉様が選んだことですが、あの男はお姉さまの許婚(いいなずけ)だったのですよ。それなのに、お姉様を裏切ったのです。そんなことは絶対許せません!」
それは確かなことなので、母親は何も言うことはできませんでした。
「そうだわ。いい考えがある」アナトリアは立ちあがりました。
「どこへ行くの?おまえまでへんなことをしないでおくれ」
「大丈夫です。お姉さまが喜ぶことを思いつきました。そうしたら、お母様とわたしの悲しみも少しは減るかもしれません」
アナトリアは、家を出てから、野原や山、海を越えて、どんどん進みました。
ようやく、雲のかかった山の頂に着きました。そして、大きな家に向かって叫びました。
「ゼウス様、ゼウス様。おいでですか。アナトリアと申します。今日はお願いに参りました」
しばらく待っていると、門がゆっくり開き、白い髭を蓄えた、巨人のような大きい老人が杖をついてあらわれました。
「何の用事じゃ。わしは体が悪いので寝ておった。死ぬことはないが、それも辛い話じゃ」
老人は独り言のように言いました。
「申しありません。全知全能のゼウス様にどうしてもお願いしたいことがあります」
「わしは昔のわしではない。みんな若い者に任せておる。帰ってくれ」
「ゼウス様。そんなことを言わず話だけでも聞いてください。ゼウス様はすべての神様の上に立つキング オブ 神様なんです。
雨や風になって、若い女を、いや男でさえも、自分のものにできたと言われています。
みんなは、天空一のスケコマシ、いや、スケールの大きい神様と崇めています」
「ほめているのか、けなしているのかわからんな。おもしろい娘じゃ。それじゃ、話してみろ」
アナトリアは、姉ダニエラがいかに美しかったか、いかに愛の犠牲になったかを話しました。
「それで、おまえはわしに何をしてもらいたいのじゃ」ゼウスは聞きました。
「はい、姉を星にしてほしいのでございます。そうすれば、姉は永遠に輝いていられますし、人々は、それを見上げて真実の愛とは何か考えることができるでしょう」
「うむ。若いのに立派なことを考えている。しかし、今は民主主義の時代でな。わしが言っても、そうなるかわからんぞ。それに、おまえのような者が、世界中から何万と来ておるということじゃ」
「ゼウス様、そこを何とか。ゼウス様がその気なら、わたしはどんなことでもします」
「何を言うのか。わしは病気なんじゃ」ゼウスは顔を真っ赤にして言いました。
しかし、「若い者がこちらに来たとき頼んでみる」と約束しました。
アナトリアは、「ありがとうございます」とお礼を言って帰っていきました。
それから、毎日のようにゼウスを訪ねては、まだか、まだかと催促しました。
全能の神でも、最近は寂しい日を送っていたので、毎日来てくれるアナトリアのことがとおしくなりました。やがて、身の回りの世話まで任せるようになりました。
そして、ゼウスは、久しぶりに娘のアテナが来たとき、みんなを説得して、アナトリアの姉を星にするように頼みました。
アテナは、アナトリアがぜゼウス介護をしてくれるのならそれくらいと快諾しました。
そのようにして、アナトリアの姉のダニエラは星になりました。ダニエラが生前好きだったオリオン座の近くで輝くとうになったのです。
アナトリアは有頂天になって、みんなに知らせました。さらに、ゼウスの介護にも来なくなってしまいました。
近在の若者が、結婚の申し込みをしても、「わたしは星座の家系よ」とけんもほろろです。
その噂を聞いたゼウスは、「あの娘を連れてこい。許してはおけぬ」と怒りました。
ダニエラの星はすぐに消され、連れてこられたアナトリアは、おばあさんにされて、一人さびしい人生を送りましたとさ。

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