長生き一族

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「ほんとはヘンな童話100選」の(2)
「長生き一族」
昔、山里離れたところに平均寿命が500才の一族が住んでいました。
長生きできるだけでなく、死ぬまで頭も体も元気なので、そこの人々は、500年近く前のことでもおぼえていました。
「わしが3才のとき、今から392年前じゃが、あの山が噴火したときのことを昨日のようにおぼえている」などと話しだすと、3つ年上の従兄弟が答えます。
「そうそう、あれはすごかった。ものすごい音と地響きがしたかと思うと、煙がもくもくと天を覆った。
わしらは、空に吹き上げられた岩に当らないように必死で逃げたもんじゃ。
それから、数年間太陽は顔を出さなくなり、一日中夜になった。食べ物も育たず、そりゃ困った。
おまえは腹が減って毎日泣いていたな。それで、わしがヘビやトカゲのステーキを作って、おまえに食べさせた。
おまえは、うまい、うまいと喜んだが、それから100年後に、あのステーキが何でできているか知ってから、おまえはわしを恨んだ」
「そんな昔のこと忘れた。もっと最近のことを話そうじゃないか」
「昔のことを言いだしたのはおまえのほうじゃ。最近のことといえば、今から200年前に・・・」と話は尽きません。
しかし、そんな話ができるのは一族が集まったときだけです。
100年ほど前から、近隣、といっても、山を5つも6つも越えていった山里に住んでいる人々とときどき話をするようになったのですが、何百年も前のことを、さも見たように話すと、法螺(ほら)吹きのように思われるからです。
しかも、100才ぐらいでは、自分の村では子供ですが、遠くの村ではたいへんなおじいさんに見られるのです。
世間の目から逃れて住んでいるのは理由があります。何万年、いや何十万年も前に一族をまとめていた賢い長老が、わしらのことを知られたら碌なことはないので、ひっそりと暮らすように言いのこしたからです。
それは厳しく守られましたが、少し交流が生まれたので気が緩んだのでしょう、ある若者が、自分たちは500才まで生きると言ってしまったのです。
山里の人々は、それなら、証拠を見せろといったものですから、自分は150才だけど、子供のとき、こんなことがあったなどと調子に乗ってしまいました。
山里の人々が調べると、昔のことが書いてある本にそのことが書いてありました。
すぐに、都から医者や歴史家、裁判官などがやってきました。
医者はその若者の体を、歴史家はさらに若者の話を、裁判官は若者の一族を調べました。
そして、500才生きる一族だと認定されました。
このことは都でも大騒ぎになりました。一族の長老が言いのこしていたように、驚嘆だけでなく、妬みや恨みまでが渦巻くようになりました。
「健康に気をつけることはばかばかしい」と朝から酒のにおいをさせて仕事をしない人や、「神様、なぜこんな不公平なことをなさるのですか」と不満を口にして教会に行かない人があふれました。
王様は、これでは国を治めることはできるぬと、その一族の村に行こうと思いましたが、囚われていた若者は、決して場所を言いませんでした。
一族の村以外でどんなことをしても、みんな100才までも生きないのだから恥ずかしくないと考えていた若者は、自分がしてしまったことを後悔したのです。
また、若者を助けようとした一族の者も、気配を感じて、あわてて逃げかえりました。
あるとき、都からお金持ちが来て、「お金はいくらでも払うから、わしが死んだら、わしの遺言どおりに家族がするか見張っていてくださらぬか」と頼みました。
また、あるときは、刀をもった男が、「こんな一族は生かしてはならぬ。天に代わって征伐してやる」と殺そうとしました。
何事もなければ500才まで生きたはずの若者は自殺しました。まだ160才の若さでした。
都や山里の人々は、500才まで生きる一族のことを忘れようとしました。
そうすれば、みんな同じぐらい生きて、同じぐらいの喜びや苦しみがあるからです。
もちろん、長寿の一族も、二度と山里には姿を見せませんでした。

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