大事なもの

   

「ほんとはヘンな童話100選」の(3)
「大事なもの」
昔、何百年の間、何十という国が戦っていたことがありました。
どの国にも、王様が信頼している勇敢な武将がいたので、なかなか決着がつかなかったのです。
しかし、長い間の戦いで、武将が代わったり、兵士や人々の疲れがたまったりしたので降伏する国が出てきました。
最後に3つの国が残りました。3つの国は、武将が代わっても、その前の武将に負けず劣らず勇敢だったこともありますが、なにより、「燃える水」をもっていたからです。
それは、古い山の池に溜まっていて、とても臭いのですが、火をつければ、ぼっと燃えました。
食料を煮たり焼いたりすることもできますし、暖を取ることもできます。戦いでは、相手の国の建物を燃やすこともできます。
また、夜が昼のように明るくなりますから、不眠不休で弓矢などの武器を作ることもできるのです。3つの国が勝ちあがってきたのも、3つの国の戦いに決着がつかないのも当然です。
真ん中の国の王様が考えました。
「このままでは、兵士の士気に関わるし、出費もかさむ。目の黒いうちに、戦いに決着をつけて、みんなの喜ぶ顔を見たいものじゃ」
そこで、深夜国が寝静まってから、ある老人を訪ねました。
老人は、占い師ではなく、人間の心理を研究していて、悩む人が来れば、その人の心を理解して、今後どう生きるべき教えていました。
王様は、戦いとなれば、いつもは武将の考えどおりにしていたのですが、今回は、その噂を聞いていたので、物は試しと老人を訪れたのです。
老人は、王様の話を聞いて、「どの国も、同じ条件ですから、この先1000年立とうと決着はつきますまい。そのうち、どこかの国が、一気に攻めてくるかもしれない」と答えました。
「そ、それなら、どうすればいいのじゃ」王様はひどくあせりました。
「どんな褒美でもやる。今後どうしたらいいか早く教えてくれ」と老人をせっつきました。
老人は、じっと考えていましたが、「相手の国が一番大事に思っているものだけを、全兵士に攻撃させるのです。他のものはほっておきなさい」と答えました。
王様は、早速城に帰って、武将を呼びました。
そして、「東の国が一番大事にしているものは何じゃ」と聞きました。
武将はすぐに答えました。「東の国でも、西の国でも、一番大事にしているものは、『燃える水』です。これなくして、戦いはできませぬから」
「よし、わかった。すぐに兵士を集めろ。そして、東の国に攻めいって、全兵士で『燃える水』をおさえるのじゃ」
「王様。お言葉ですが、東の国でも、燃える水を燃やして、数多くの弓矢を作っております。そんなことをすれば、まわりを囲まれて、全兵士は殺されます」
「かまわぬ。今回はわしの言うとおりにせよ」
武将は、仕方なく100万の兵士を集めて、東の国に攻入り、全兵士で「燃える水」がある山を攻めました。
そこには、10万の兵士がいるだけでしたので、簡単に取ることができました。
やがて、東の国の使者が来て、もうこれ以上戦えぬから降伏すると言いました。
王様は、老人に、使いきれないほどの金貨を与えました。
そして、王様は、この勢いで西の国を攻めることを決めました。そして、いよいよ世界はわしのものになるぞと喜びました。
東の国を攻めたときと同じように、100万の兵士を「燃える水」がある山に向わせました。そして、同じように、簡単に取ることができました。なぜなら、10万の兵士は、すぐに逃げてしまったからです。
しかし、今度は、使者は来なくて、大きな喚声とともに、西の国の兵士が攻めてきました。しかも、その背後には、何百万という人々がいました。みんな武器を持っていました。
その様子に驚いた兵士は、我先に逃げ、100万の兵士は全員殺されました。
それを知った真ん中の国の王様は降伏しました。
王様は、監獄に連れて行かれるとき、あの老人を見つけました。
「おまえの言うとおりにしたら、こんなことになったじゃないか」と怒鳴りました。
「わしは、その国の大事なものと言っただけでございます」と答えました。
なるほど、東の国の王様は、真ん中の国の王様と同じように、「燃える水」が一番大事なものでしたが、西の国の王様は、日頃から、兵士や人々に、「危険な目に会ったら、すぐに帰ってこい。おまえたちが一番大事なものじゃ」と言っていたそうです。

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