昔々のこと

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(66)
「昔々のこと」
昔々、あるところに、八十過ぎた夫婦がいました。おじいさんの名前は茂作、おばあさんの名前は安中といい、人も羨むほど仲のいい夫婦でした。
しかし、5,6年ほど前までは、二人は仲が悪くて、朝起きてから夜寝るまで喧嘩ばかりしていました。「なんだ、今日のごはんは!」とおじいさんが言うと、「いやなら自分で作ったら」とおばあさんが答える毎日でした。
若いころからそうだったので、一人息子もいつのまにか出ていってしまい、家に寄りつこうとしませんっでした。
ある日、おじいさんが山に芝刈りに、おばあさんが川に洗濯に行きました。
夕方、おじいさんが背中にたくさんの芝を背負って川を渡ろうとすると、今まで見たことのないような大きな桃が浅瀬にありました。
おじいさんは、食後のデザートにでもと思って、それをもってかえりました。
おばあさんは、それを見るなり、「何だい、そんなもんをもってかえってきて。わしが洗濯をしているとき、それが流れてきたんじゃが、何かの前兆じゃと思うて、見なかったことにしたんじゃ」と怒りだしました。
「これだけあれば、デザートに困らないと思うただけじゃ」おじいさんは譲りません。
「あいかわらず間抜けじゃな。家(うち)は二人しかいないのに、そんなに食べられるか。
無理して食べてわしの糖尿がひどくなったらどうしてくれる?それに、大きいものはまずいと相場が決まっている」おばあさんはますます怒りだしました。
おじいさんは、せっかく持ってかえったのだから一口でも食べてみようと、庭に出て、鉈(なた)で真っ二つに切りました。
すると、中に何かいます。そして、動いいています。よく見ると赤ん坊です。
おじいさんは、先ほどの喧嘩のことを忘れて、「たいへんじゃ」とおばあさんに見せにいきました。
おばあさんは、「こんなもの捨ててこい」と怒りました。
おじいさんは、「かわいい男の子じゃ。わしが一人で育てる」と言いました。
おじいさんは、その子供を桃太郎と名づけ、大事に育てました。そして、どんどん大きくなりました。
おばあさんは、今までは声もかけなかったのですが、これは役に立つと思い、次から次へと用事を言いつけました。しかし、食べものはあまり与えませんでした、
毎日牛馬のようにこきつかわれている桃太郎を見かねて、村長がやってきて、「安中さんや、子供をずっと働かせているが、今流行のDVじゃないか」と聞きました。
おばあさんは、「そんなことはございません。早くみんなの役に立ってもらいたくて躾をしているだけでございます」と答えました。
やがて、桃太郎は、「鬼退治に行ってきます」と言いました。おじいさんは、「お前はまだ子供じゃ」と反対しましたが、おばあさんは、「鬼でも蛇でも退治してきたら」と言いました。これで、これで食い扶持が減ると思ったのです。
数年後、桃太郎が鬼を退治したらしいという噂が届きました。しかし、桃太郎からは何の連絡も来ません。
「いくら大事に育てても、何の礼もしない。今日(きょうび)の子供はこんなものじゃ」とおばあさんはまた怒りだしました。
数年後、おばあさんは、物干し竿にするための竹を探しに竹やぶに行きました。すると、なにやら光っている竹があります。
おばあさんは、その竹を切ると、光がぱっと溢れました。「なんじゃろ?」と思って、よく見ると、女の赤ん坊がいます。
桃太郎で失敗したから、何でももってかえらないようにしていたのですが、これは高く売れるかもしれないと思ってもってかえりました。
今度はおじいさんの逆襲です。「こんなものがいたら、夜中鼠が出てきるわ、それを狙って猫が狙うわで、うるさくて寝られなくなる」と文句を言いました。
「金持ちに売るんじゃ。桃太郎の損を取りもどさなくちゃ」と、あくまで執念深いおばあさんです。
しかし、3か月もすると、赤ん坊はどんどん大きくなり、ますますきれいになりました。
匂いたつような美しさでしたから、近所の人は、「かぐや姫」と言うようになりました。
その噂は都にも聞こえ、大勢の貴族が嫁にもらいたいとやってきました。
しかし、「かぐや姫」はみんな断ってしまいました。おばあさんは、こんなチャンスはないのにと注意しましたが、「生まれ故郷の月に帰りたい」と言いだしました。
「妙なことを言いだしたな」と思っていると、ある月夜の晩、本当にいなくなりました。
また二人っきりになりました。おじいさんとおばあさんは、今までのことを反省して、「わしらの老い先は短い。お互い意地をはりあっていると、物事が見えなくなる。人生は、わしらの名前のように、暗中模索じゃから、何でも話しあって決めていこう」と思いました。
そこで、新しいところで人生をやりなおすことと、何か拾うときは村の人に相談することにしましたとさ。めでたし、めでたし。

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