桃次郎

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(104)

「桃次郎」
桃次郎は、兄桃太郎が「鬼が島」に行き、人間を苦しめていた鬼を退治して宝物を持ちかえってから気分がすぐれませんでした。
家には桃太郎を一目見ようと、在所だけでなく、都かも人がおしよせてくるわ、帝(みかど)も、「一度会いたい」という手紙を使者にもたせるわで、連日たいへんな騒ぎになっていたからです。
桃太郎も両親も有頂天になり、毎日お祭り騒ぎでしたので、それが嫌になり、近所に遊びに行っても、「お兄さんはどうしておる?大金持ちになったのおう」という話ばかりでした。
そんな時は曖昧にうなずくばかりでしたが、ガールフレンドには、「鬼の宝物といったって、元々人間のものじゃないか。どうして返さないんだよ。これじゃ、体(てい)のいい強盗じゃないか」と辛辣なことを口にしましたが、それでも、気がふさぐばかりでした。
しかし、桃次郎は賢明な男でした。これでは自分がだめになるばかりだと考えて、この現実を客観的に見ようと考えました。
自分の言動は、兄を妬んでいるからか。多少はある。それなら、兄よりすごいことをすればいいんだという結論に達しました。
それに、「1年後にまた流れてきた桃から出てきた桃次郎のほうが賢そうじゃな。何しろ、1才で読み書きができたのだから。それにひきかえ、兄の桃太郎は、3才になっても、まともに歩けなかったものな。まあ、兄弟として育てれば、弟が兄を助けるじゃろ」と両親が話しているのを物陰から聞いたことがあったので、何としても両親の期待に応えたいという気持ちが高まりました。
ちょうどそのとき、どこからあらわれた龍の集団がある村の池に住みついて、村人を怖がらせているという話が伝わりました。
桃次郎は、「これっきゃないでしょ!」と叫びました。
しかも、以前より兄の鬼退治を分析していましたので、すぐに作戦の準備をしました。
まず兄の場合は、ビギナーズラックもいいところで、黍団子欲しさに来るサルやイヌ、キジを何の考えもなしにお供にしたのだ。まず敵を知って、大まかな作戦を組みたてるべきだ。
それから、それを実行する能力をもっている動物を集める。さらに、作戦の予行演習をして、最後の詰めを怠らないようにすることだ。策士策に溺れるということがあるからな。桃次郎はどこまでも慎重に作戦を練りあげました。
そして、龍を退治したいと両親には話しました。「そうか。今度はおまえが手柄を上げてくれるか。まあ、人助けはすばらしいし、宝物もいくらあっても困らないからな」と二つ返事で賛成してくれました。
そして、老いた母親が、例の黍団子を作ってくれました。そして、翌日、最近、太り気味の桃太郎を含めた3人が見送ってくれました。
やがて、山道を歩いていると、「黍団子をいただければお供します」と声をかけてくるものが増えてきました。
しかし、桃次郎の頭には、龍退治作戦が出来上がっていましたので、ほとんど断りました。
桃太郎のお供になったイヌ、サル、キジの兄弟や友だちもいましたが、今回は役に立たないので例外はありません。
これはと思っても、「宝物のおこぼれを」と言うのもいましたから、そんなやつは最終選考で落としました。
そして、忠実そうなダイジャ、スッポン、キツネに決めました。まずキツネが家来にでたらめを言ってボスを一人きりにする。ダイジャがボスの龍を動かなくしている間に、スッポンが急所を噛む。桃次郎がボスの命を取るという作戦です。それを3人に話して、何回も練習しました。
もうすぐ、村に着こうというとき、3人が、「桃太郎はどっさり宝物をもってかえったのに、3人は何ももらわなかったそうだぜ。今回は分け前はもらわなくてはな」と話しているのを聞きました。
「これはやばいな」と思いましたが、もはや手遅れです。山から見ると、村の上空を龍が数頭飛んでいるのが見えたからです。
それらが池に下りると、空を飛んでいた龍の2倍はあろうかという龍が姿をあらわれました。「すごいな。あれがボスだな」と桃次郎が言いました。
もはやぐずぐすしておれません。「よし、作戦開始!」桃次郎は3人に命じました。
キツネに、「家来をどこかに行くように言ってくれないか」と言いました。キツネは走って池に向かいました。
すると、ダイジャは、「桃次郎さん、分け前をわたしら2人にくれませんか」と言いました。
桃次郎は、「キツネもいるじゃないか」と言いましたが、「なあに、やつは口だけの仕事ですからね。わたしらは危険手当がないとやれませんよ」と答えました。
スッポンも、「家族がいるんでね」と同調しました。
桃次郎は少し考えましたが、「まあ、いいいだろう」と答えました。
「いかほどいただけるんで」ダイジャは食いさがりました。
「まだあるかどうかわからないだろう!まずは作戦を成功させてからだ」桃次郎は一喝しました。
二人は渋々池に向かいました。そして、ダイジャはボスに絡みつき、スッポンは目を噛みつきました。それを見た桃次郎は持っていた剣で心臓を一突きしました。
もう一突きと思ったとき、家来が飛んできてダイジャとスッポンを殺してしまいました。戻ってきたキツネに、どうしてこんなことになったのかと詰問しました。「いや、『ボスが宝物があるかどうか確認してくれと言ってるぜ』と言いました。すると、池の近くにあったもので」と言いわけしました。
桃次郎は、二人は死んでしまったじゃないかというと、「ちょうどいいや。宝物を二人で山分けしませんか」と答えましたとさ。

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