いくさ

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(197)

「いくさ」
昔々、あるところに国がたくさんありました。それぞれの国には王様がいて、それぞれの王様の考えで国民は暮らしていました。
つまり、国民のことを第一に考える王様もいましたが、自分たちのことを第一に考える王様もいたわけです。
その昔は土地の取りあいでいくさばかりしていたのですが、みんな疲れてきて、今持っている土地を自分の国にして平和に暮らしてきました。
それぞれの国の国民は他の国がどうなっているのかは、国々を渡る商人から聞くしかないのですが、他の国に住みたいと思ってもどうしようもありません。
だから、国民は不満を言うことがあっても、とりあえず一生懸命働きました。
ただ、一つだけ心配事がありました。国はたくさんあるのですが、一番お金持ちの国と一番貧乏な国が接していて、時々争いごとが起きるのです。
その国境には峠あり、そこから金や銀が取れました。最初は自分の国の地面を掘るので喧嘩になることはなかったのですが、金や銀や少なくなると、どちらもさらに前を掘りたくなり、「ここはおれたちの土地だ」と言い争うようになりました。
やがて、いくさで結着をつけざるをえなくなり、どちらの国も国民がいくさに駆りだされました。
まず、一番お金持ちの国、東の国としましょうか、そこがまずクマやトラを相手の山に放ち、一番貧しい国、西の国としましょうか、そこの国民が金や銀を掘れないようにしました。
怒った西の国は、石を飛ばす道具を作って東の国の一番賑やかな町に飛ばしはじめました。
大勢の国民が石に当たって死んでしまいました。東の国も、石を飛ばす道具だけでなく、敵のつぶてを避ける網を町の上にかけました。
最初はよかったのですが、すぐに今までより大きい石のつぶてが飛んでくるようになりました。
また多くの人が死んでしまいました。東の国も、さらに大きい石を飛ばす道具を作りました。もちろん、今まで以上に頑丈な網も作りました。
すると、今度は火が飛んでくるようになり、木で作った家が焼けました。
もちろん、東の国も負けていません。同じような道具を作って西の国を責めました。
しばらくおとなしくなったのですが、西の国から密使が来ました。
「おれたちは決しておまえたちに負けることはない。おまえたちの城を吹っ飛ばす威力を持つ道具を作った。すでに実験は何回も成功している。
おまえたちが話し合いに応ずれば考えなおしてもいいが、今までのように敵対すればすぐに発射する。
そうすれば、おまえたちの国はたちどころに火の海になる。それでもいいのかどうか王の判断を求めろ」と言いました。
対応した兵隊はうろたえたのですが、それを聞いた大将が出てきました。
「ちょうどよいときに来てくれた。こちらもおまえたちの国に知らせることがある。聞け!」すると、ドーンという音とともに地響きがしました。
西の国の密使は身震いしました。それを見ていた大将は、「あれはお前たちの国に落とすものじゃ。今わしが命令すれば、おまえたちの国は一瞬にして地獄に真っ逆さまに落ちる。おまえの王に、このいくさには勝ち目がないことを話すのじゃ」西の国の密使は慌てて帰りました。
「大将。今の話はまちがいないのですか」まわりの家来がおそるおそる聞きました。
「いや。大きな岩を30人の兵隊ががけから落としただけじゃ。向こうの話もどうかわからぬて」と大将は不敵な笑みを浮かべました。「いくさには流儀というものがあって、格のちがう国と戦うときは流儀を見直さなければならぬ。
それを怠ると、象が蟻に負かされるということがある」
「つまり、相手のやり方を研究するということで」家来はうなずきました。
それでも、西の国は、「国を焼け野原にするぞ」などと脅すことをやめませんでした。
今までは、どんなことでも王様に伝えていたのですが、今は、まず大将に伝えました。王様は自分の威信を守るために、「どんなことがあっても相手を打ち負かせ」と言いがちだということが分かったからです。
大将はほとんどのことを無視するよう言いました。やがて、西の国、東の国の仲間も口を挟まなくなりました。
今までじっと見ていた国の王様が、東の国に来て、王様に言いました。
「小さな国をやり込めても誰も褒めません。金や銀を譲るぐらいの器量をもたなくてはなりません。すると、他の国があなたを信頼するようになります」
王様は大将に命じて、国境の金や銀は西の国に譲ることにしました。
やがて、多くの国の王様が東の国に来て、王様にぜひ友だちになってほしいと言いました。いつの間にかいくさは終わり、平和になりましたとさ。

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