チュー吉たちの冒険二章3

   

「今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「チュー吉たちの冒険」二章3
まだ無数のホースが延びているのが見えました。しかも、多くの足が忙しく動いています。遠くで立ち止まっている足は野次馬でしょうか。
幸い上り坂のほうに逃げたので家に放水された水はこちらに来ませんが、地上は雨上がりのように濡れています。
お世話になった家は共働きの40代の夫婦と小学生の姉妹二人の4人が住んでいました。
しかも、午前11時には誰もいませんでしたので、家族は誰も被害を受けていないはずです。
しかし、チュー吉は念のために救急車で誰か運ばれたかどうか見届けてから、みんながいる場所に戻りました。
今見てきたことを報告してから、「とりあえずここを離れよう」と言いました。
みんなまだあちこち痛そうそうでしたが、家と反対のほうに行くことにしました。
しばらく行くと、溝が切れたので、人間がいないのを見計らって溝を出ました。道を渡って右に行けば小さな公園があったはずです。
そこに着くと、すべり台がある右手に茂みがありました。そこに入って休むことにしました。それぞれ傷をかばって寝ころびました。
みんな眠りましたが、チュー次郎が、「誰かが勝手口の窓を破ってノブを回してくれなかったら、助からないところだったな」と誰に言うともなく言いました。
「確かに。もう少し煙を吸い込んでいたら命が危なかった」チュー八が答えました。
「神様がこいつらは日頃人助けをしているから、今回は助けてやろうと思ってくれたんじゃないの」チュー太も黙っていません。
「それにしても、家族に何もなかってよかったな」チュー五郎も応じました。
「あの夫婦は若い。家ぐらい何とかなるさ。おれたには家がないけどな」チュー吉が言ったとき、「みんな大丈夫だったかい」という声が聞こえました。
茂みの外に出ると、地面に懐かしいものがいます。ビニール傘です。
「きみかあ!久しぶりだな。でも、昼には降りてこないんだろう?」
「久しぶり。そうなんだけど、煙が上がっている家があったので、少し降りてみた。
そうしたら、何か一列になって走るものがいたので、ひょっとしたらと思ってみていたのだ」
「相変わらず目はいいねえ」
「いつも遠くを見ているからね。まあ、それはともかく、あの家にいたのか?」
「そうだよ」みんな我先に火事の様子を話しました。「それで、恩返ししなくちゃと考えていたところさ」
「おれたちの仲間には人間に捨てられたと恨んでいるものが多いが、きみらも邪険にされてきたのに、人間を助けようと思うのはすばらしいことだと」ビニール傘は感心しました。
「火事の前までは、もうやめようと言っていたけどね」チュー五郎が正直に言いました。
「きみらが無事でよかった。落ち着いたらまた空に招待するよ」
「ありがとう」
けがはまだ回復していないので、そこでしばらくいることにしました。どこかの家の屋根裏のほうが安心できるのですが、誰もそこに行こうと言いませんでした。
昼寝をしているときでした。遠くで何か聞こえてきました。パトカーか?いや、消防自動車だ。また火事か。誰も寝ぼけ眼で考えていました。
音はだんだん大きくなってきました。おいおい。冗談じゃないぜ。音はさらに大きくなりました。耳をつんざくようです。
みんなごそごそと茂みを出ると、ただならぬ雰囲気でした。あっ、あのマンションだ!公園のすぐ近くに高層マンションがあります。消防自動車がそこに集まりはじめていました。
「あそこから煙が噴きだしている。あっ、人が出てきた」確かに10階ぐらいのベランダで手を振って助けを求めています。
「なんとかできないか」チュー次郎が叫びました。「さすがにこれは無理だ」チュー太が答えました。
「ビニール傘がいてくれたら何とかなるかもしれないが」チュー吉がそう言ったとき、「はい。来たよ」とビニール傘の声が聞こました。
「来たね」チュー吉が答えると、「100人ぐらいの仲間が近くにいるよ」と笑顔で答えました。
「ありがとう。それじゃ行こう」チュー吉はみんなに声をかけました。
「どうするんだい?」みんな不安そうに聞きました。
「煙が出ている部屋の下に布団が干してあるだろう。あれを地面に落とす」
「OK」みんな分かったようです。
マンションの近くまで行くと、ビニール傘に乗って布団の部屋に行きました。
ビニール傘は仲間を呼び、「よし。物干し竿を引き上げてから、布団に柄をひっかけて下に落とす。チュー吉。そうだね」
「そうだ。ぼくらが布団に乗ってうまく下に落ちるように操縦する。布団は3枚あるから、おれたちは3組に分かれる。それを地面で重ねるのがおれたちの腕だ」
その間にも煙は激しい勢いで出ています。「助けてくれ!」数人の声が聞こえます。ビニール傘とチュー吉たちの連携作戦が行われました。
3枚の布団で分厚くなり、辛抱しきれなくなった人間が飛び降りました。
チュー助が新聞を読みましたが、3人の人間が飛び降りましたが、骨折はしたそうですが命は助かりました。
新聞には奇跡が起きたと書いてありましたが、チュー吉たちは、夢はあきらめずにいれば、実現するチャンスは必ずあるということが分かりました。

 -