秘密

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(70)

「秘密」
昔のある国のあるお城のことです。深夜、一人の召使が、「やれやれ、今日は来客が多くて疲れてしまった」と、厨房に入りました。料理人はすでに寝ていますが、何か甘いものが残っていないかと思ったのです。
ローソクの火で探していると、ごそっという音がしました。ネズミかなと思って、そちらを照らすと、大きな影が見えました。
泥棒かと思って、「誰だ!」と叫びました。すると、「わしじゃ。大きな声を出すのではない」という声が聞こえました。
「あなたは!」召使は思わず叫んでしまいました。その声はまちがいなく王様です。それに、でっぷりした影も・・・。
「王様、どうしたのですか?こんな遅くに」召使は聞きました。
「いやなに、酒を飲みすぎたので喉が渇いた。それで、水を飲もうと思ってな」王様はあわてて答えました。
「でも、王様。水は寝室にはいくらでも用意されています」と言って、顔を照らすと、口元に何かついています。そして、手にも何かが見えます。
王様は観念したように、「どうも甘いものがやめられなくてな。妃(きさき)に知られたらどうなることか。とにかく、今見たこと秘密にしてくれぬか」と言って、ポケットから何かを取りだしました。それは1枚の金貨でした。召使にとっては、これは一年のお給金です。
召使は、「恐れ入ります。誰にも言いません」と言ってひきさがりました。
翌日、その召使は、仲のいい仲間に、「今度、休みのときに、ごちそうをしてやろうと言いました。
仲間は、召使がにやにやしているので、「どうしたんだ?と何回も聞くものですから、召使は、とうとう夕べのことをしゃべってしまいました。
その晩、秘密を聞いた仲間は、夜中に厨房に行きました。友だちには悪いと思ったのですが、一年分のお給金の魅力に負けてしまったのです。しかし、あいにく王様はいません。
仲間は、「王様が医者から甘いものを禁じられていることはお城中の者が知っているはずなのに、ケーキを食べていたということは、買収された料理人がいるにちがいない」と考えました。
そこで、大勢の料理人の中で一番気の弱い者に、「王様にケーキを作っているのはおまえだな」と言いました。
料理人は、わなわなと泣きだし、「妻と子供が病気で仕方がなかったのです。でも、私だけではありません。私は、大将に命令されただけです」と白状しました。
「何と!これは大変なことになったぞ。王様は、甘いものを取りすぎると、そう長生きできないと言われているのに。王様の弟たちが知ったら、たいへんなことになる」と思いました。
次の王様を狙っている弟は、お城にスパイを送りこんでいるといううわさがありました。日頃の料理は家来が毒見をしているが、秘密のケーキに毒でも入れられたら・・・。
「あわよくば自分も」と思った友だちは、この際は事態を収めてから、王様にお礼を頂こうと考えを変えました。
しかし、王様は、ケーキを食べているという噂がお城中に広がりました。
二人の召使は、うわさが国中に広がるのは何としても防がなくてはならないと話しあいました。
この4,5年飢饉が続いていて、民は空腹にあえいでいますもし、このことを知ったら、民は暴動を起こして、それに乗じて、よその国が攻めてくるかもしれないからです。
二人の召使は、密かに王様にお城の様子を伝え、「たとえ家族にでも、お城で見たり聞いたりしたことを話した者は死刑に処す」という「おふれ」を出させました。人のよい王様は、最初いやがりましたが、二人の召使は説得しました。
しかし、いつのまにか国中が知ることになったのです。次の王様をめざす弟の一派が、民に人気がある王を追いおとすために、「おふれ」を利用したのです。
「何も秘密がないのなら、こんな『おふれ』を作るわけがない。きっと知られたらまずい秘密があるはずだ」と国中に広めました。
「そうだ、そうだ」という民があらわれ、「わしらも我慢していると言いながら、どこかに食べものを隠しているにちがいない」と大勢の民がお城に押しかけました。
国を治めることができなくなった王様はお城を出ていかざるをえなくなりました。
そして、弟が王様になりました。新しい王様はお城のバルコニーに姿をあらわしました。そして、民の歓声に手を振りながら、「わしなら、秘密はもっとうまく隠せるぞ」と思いましたとさ。

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