マッチを売らない少女

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(71)

「マッチを売らない少女」
一人の少女が、誰もいない通りを、「マッチはいりませんか。すぐに使えるマッチはいりませんか」と言いながら歩いていました。
しかし、まったく売れません。それはそうです、普段は賑やかな通りも、こんな遅く誰も歩いていません。野良犬さえいません。
だって、昼過ぎから降りだした雪はかなり積もっていますし、それよりなにより、今日は大晦日で、みんな急いで帰ったのです。
家のそばを通ると、灯りがついていて、いい匂いがします。その家のママが明日のために、一生懸命料理をしているのでしょう。子供たちは、暖かいベッドの中で楽しい夢を見ているのでしょうか。
それでも、少女は、雪が固まった道に足を取られながら、「マッチはいりませんか」と大きな声で言いながら歩きました。
寒さで体はがたがた震えだしたので、大きな声を出さなければ、倒れそうだったのです。
そこに、一人の紳士が通りがかりました。少女に気がつくと、「「お嬢ちゃん、こんなに遅く何をしているのだい?早く帰らないと、パパやママが心配するよ」と声をかけました。
「おじさん、わたしはマッチを売っています」と、口をがたがたさせながら答えました。
「なんてことだ!こんなことをしていたら、凍え死んでしまうよ」
「でも、パパが・・・」
「ママは?」
「ママは死にました」
「そうか。パパは、子供にマッチを売らせて同情をさせようという魂胆だね。
でも、最近発明された黄燐マッチは便利だけど、高いうえに、体に悪いと言われているんだよ。だから、お嬢ちゃんがいくらがんばっても、今日は売れないかもしれないね」
「でも、今帰ったら、パパが何と言うか・・・」
「おじさんがついていって、きみのパパに話をしようか?」
「ありがとうございます。でも、パパは他人の話を聞く人ではないので・・・」
「そうか。それなら、今持っているマッチを全部買ってあげよう。そうしたら、すぐに帰えることができるだろう」
「ほんとですか!」
「全部出しなさい。それと、きみには難しいかもしれないけど、商売というものは、売る時と売る場所が大事だとパパに伝えなさい」と言って、紳士は、約束どおりマッチを全部買ってくれました。
少女は、何回もお礼を言って、急いで帰りました。
少女がお金を見せるとパパの喜ぶこと!その顔を見ると、紳士のことを言えなくなりました。
翌日の1月1日も、父親は、「この調子で売ってこい」と、少女を外に出しました。
朝早くから町を歩いたのですが、まったく売れません。
そのとき、同じマッチ売りの仲間の少女が、今朝、別の仲間の少女が死んでいたことを教えてくれました。その死に顔は、何だかうれしそうだったことも。
少女は、自分はまだ死にたくないと思いました。だって、夢が、空の星のようにたくさんあるのですから。
そのとき、昨晩の紳士の話を思いだしました。
「そうか。いくらがんばっても、売る時と売る場所をまちがっていたら売れないのだわ」
そこで、繁華街をやめて、金持ちの家がある町に行きました。そして、「マッチはいりませんか。すぐに使えますよ」と大きな声を出しました。
すると、大きな家の玄関が開き、そこの女中が走ってでてきました。
「あなた、いいところに来てくれたわ。奥様が早く料理を作ってちょうだいと言われるけど、ちょうど『つけ木』を切らしちゃって、困っていたのよ」と喜んでマッチを買ってくれました。その後も、たくさんマッチが売れました。

それで、父親は、このところご機嫌がよいのです。売れないときは、少女のカバンを調べるのですが、最近は何もしません。だから、お金を少しだけ蓄えにまわすようにしました。
売れないに日には、それを父親に渡すのです。
仲間の少女たちが、売り方を教えてほしいと言ってきました。少女は隠すことなく話しました。
ある時などは、死んだ少女の父親が、「養女をもらったが、弟子にしてもらえないか」と尋ねてきました。
「いいですよ。でも、以前のように売れないからと言って、ぶったりしないと約束してくれたら」と念を押して教えました。
そのかいもあって、マッチは飛ぶように売れ、少女たちの笑顔が増えました。
しかし、たいへんなことが起きました。紳士が言っていたように、少女たちが売っていた黄燐マッチのガスで死亡する者が増えてきました。マッチで父親を亡くした子供のことも聞きました。
「自分たちの幸福のために、他人を不幸にすることはできないわ。少しぐらい不便でも辛抱すればすむのだから」と少女は考えました。
少女は、マッチを売らないと決心しました。
明日、みんなに会って、今後は誰もが喜ぶものを売ろうと提案するつもりです。もちろん、紳士のアドバイスどおり、売る時と売る場所を考えて。

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