脱出

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(85)
「脱出」
ゾウとキリンがどちらともなく話しかけた。「何とかしなくてはいけないようだな」、「そのようだ。そして、まずわしらが行動を起こさなくてはならないかな」
「それじゃ、行こうか」二人ともお腹が空いていましたが、太陽が容赦なく照らす中を歩きはじめました。
やがて、向こうに森が見えてきました。ただし、昔は青々とした木が生い茂っていましたが、今はほとんど葉がついていません。みんな食べられてしまったのです。
「多分あそこにいるだろう」二人は急ぎました。
森から何かが出てきました。ライオンです。でも、昔のように威厳はなく、やせほそっていて歩くのも辛そうです。
だから、久しぶりの肉だと近づいてきましたが、これではとても襲えないとあきらめて戻ろうとしたとき、「やあ、ライオンさん、おりいって話があるんだけど」とゾウが声をかけました。
その声に振りむいたライオンは、わかったというように、二人を森の入り口に案内しました。
ライオンは、「何だね?」と穏やかに言ったものの、森の奥にいる大勢の仲間とこの二人を平らげたら満腹になるだろうなとも思いました。
「お互い食べるものがない状態が続いているが、このままでは死を待つのみだ。
そこで、この際、みんなでここを出て、食べものがある場所に行かないか」
「なるほど。でも、あんたたちは草や葉っぱを食べるだけだけど、わしらには肉がいる。みんなとは誰と誰がいるのか知らないけど、わしらの仲間が食べてしまうかもしれないぜ」
「それも考えた。しかし、みんなここで住んでいるのだから、みんなで行きたいんだ。
それに、途中、何が待ちかまえているかもわからないので、それぞれが自分の十八番(おはこ)でお互いを助けあったほうが無事につけると思うんだ」
「だから、落ちつくまでは辛抱してもらわなくっちゃならないが」キリンも言いました。
ライオンはしばらく考えていましたが、「そうか。わしらだけここにいても、絶滅を待つだけだ。わかった!お供しよう。その間、わしが責任をもって仲間を見るから」
「それじゃ、明日、朝日が出るまえに、バオバブの木に集まってくれるかな。あそこなら、みんなが集まっても大丈夫だから」
まだ暗いときから無数の影がバオバブ木に向かって動いています。少し明るくなるときには、数百万頭という動物がいるのがわかりました。
先頭に立ったゾウとキリンの合図で歩きはじめました。早くいくと、お腹が空いた者が倒れてしまうかもしれないのでのんびり歩きました。
「さあ、これで新天地を探すだけだ」ゾウが言いました。「あいつらが出てこないか心配だ」キリンが言いました。「あいついらって?」
「あいつらだよ。小さいくせにわしらを襲うやつだ。特にあんたたちの牙を狙って。
そうかと思えば、わしらを見ては喜ぶときもある。また、わしらを誘拐するか思えば、けがをしたときには丁寧に治療してくれる。わしらより頑丈なものに乗って来るかと思えば、空から下りてくることもある」
「わかった、わかった。敵か味方かわからないやつだな。でも、この10年近く見ないから、暑さで絶滅したんじゃないか」
そのとき、「地面が割れて、向こうにいけない!」と鳥があわてて飛んできた。
そこに行くと、確かにぱっくり口を開いていました。幅は3メートルぐらいありそうです。しかも、長さはどこまで続いているのかわかりません。小さい鳥が下を見てくると、動物の死体がいっぱいあるというのです。
「日頃飛び越えられても、お腹が空いているので、落ちてしまったようだな」、「かわいそうに」みんな下を見て涙を流しました。
「よし、みんなで手分けして橋を作ろうじゃないか」とライオンが提案しました。
ゾウやキリン、サイなどが木を倒し、シマウマやインパラなどが運びました。
サルが器用に「つる」でそれを結び、ライオンの指揮で頑丈な橋を作りました。3日後、全員が橋を渡ることができました。
そんなことが何回もありましたが、みんなで協力して乗りきりました。
60日後、息絶えたものもいましたが、ほとんどのものがスエズ運河まで来ました。
「さて、ここをどう渡るかだな」ゾウが言いました。
「ここは海だから、わしらには無理かな」そのとき、「ぼくががやるよ」という声がしました。人間です。50人ぐらいいるでしょうか。
「あんたたちは絶滅したのではないのか?」ゾウが聞きました。
「寒い場所にいるのはわからないが、ここらではそうだ。ぼくらは生きのこった。あんたたちと出会ったので、後ろからついてきたんだ」
「そうだったのか。ここを何とか渡れないか?」
人間たちは、近くに停留している船をゾウやキリンなどに引っぱってもらいました。
そして、それを何十隻も横において、その間をロープで結びつけました。
1週間後、全員が渡りました。人間が食べものを集めてきたので、そこで少しの間休むことにしました。
しかし、そこは新天地ではないので、また探すことにしました。

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