チュー吉たちの冒険

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(36)

「チュー吉たちの冒険」あるいは「縄張り」
みんなが屋根裏でグーグー寝ている真っ昼間、誰かがバタバタと帰ってきました。
チュー次郎のようです。急に止まれなくて、チュー作の体に体当たりをするぐらいのあわてぶりです。
「どうしたんだ、チュー太郎。また猫にでも追いかけられたのか」眠りを邪魔されたチュー作が不機嫌そうに聞きました。
「ちがう。火事だ!おばあさんが腰を抜かして動けなくなっている」
「ほんとか!それなら助けに行こう」二人の声で起きたチュー吉たちもすぐに動きだしました。
チュー次郎を先頭に屋根裏を降りて、壁の穴から外に出ました。そして、狭い溝を走っていくと、確かに焦臭いにおいがしてきました。
チュー次郎は溝を上がると、「この奥だ」と叫び、家と家の間を行こうとしたとたん、目の前に、ネコと見まちがうほど巨大なネズミが3,4匹あらわれました。
みんな止まりました。すると、大将らしきものが、「どこへ行く?ここはおれたちの縄張りだ」と威嚇しました。
「この奥の家で火事が起きている。おばあさんが動けなくなっているようだ。すぐ助けなくては死んでしまう。通してくれ」チュー吉が頼みました。
「だめだ。ここから一歩も入れない。ここはおれたちにとって神聖な場所だ」大将は認めようとしません
「煙がどんどん出てきているじゃないか。火事になれば、おまえたちも住む場所を失うぞ」
「そんなことはどうでもいい。これ以上入ったら、承知しないぞ」
「救助が終わったら、すぐに出るから通してくれ」
「絶対入るな」今にも向かってきそうな気配です。
そのとき、消防自動車が到着しました。チュー吉たちは、サイレンの音が聞こえないほどあわてていたようです。すぐに消防団員が裏手に走り、放水もはじまりました。
チュー助が、「もう大丈夫だ。引き上げたほうがいい」とチュー吉に声をかけました。
みんなは急いで屋根裏に戻りました。
一息つくと、チュー次郎が、「なんだよ、あいつら。ぼくが火事を見つけたときはいなかったくせに。それに、あの太り方!おばあさんのものをくすねているのにちがいないよ。
その恩に報いることもせず、『縄張りだ、縄張りだ』と言いやがって。
あいつら、いずれ、ろくな死に方はしない」チュー次郎はすごい剣幕です。
チュー次郎は、この旅に出たころは、兄のチュー太郎の陰に隠れていましたが、最近は心身とも成長しているようです。
「まあ、そう怒るな。おばあさんも助かったようだから」とチュー吉が声かけました。
「とろこで、チュー助、この前、みんなでロンドンオリオンピックのテレビを見ていたとき、『オリンピックの役目は戦争を防止することだ』と教えてくれただろう?」
「ああ、そうだよ」
「おれたちにも、オリンピックがいるね」
「どうして?」
「いや、人間がはじめる戦争の原因は、大体、領土の奪いあいだと言っていたが、あいつらの頭には縄張りのことしかないようだからね」
「確かにそうだな。あんなに、縄張りを主張するネズミも珍しい」
2人の話を聞いていたチュー作が、「でも、最近、人間の場合も、領土、領土と言っているよ」
「ぼくも、テレビで見た。中国人が、『戦争をしろ』とか叫んでいた」チュー造も話に入ってきました。
「戦争が起きるのか、チュー助?」チュー太郎が聞きました。
「昔は、経済が破たんしたので、他国に戦争を仕掛けたけど、今は、どこも世界有数の経済発展国だ。意地のために、わざわざ戦争をはじめるとは思えないね」
「それじゃ、毎年、オリンピックをすりゃいいんだ」チュー作は、チュー作らしいことを提案しました。
「それはいいアイデアだ。でも、お金が続かない国も出てくる」チュー助も、チュー助らしく答えました。
「まあ、人間が、どんな考えを持つのも自由だが、高枕で寝るのは邪魔しないでほしいものだ。それじゃ、もう少し寝よう」チュー助は、夜に備えて休むように言いました。

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