新しい国(5)

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(156)
「新しい国」(5)
キネトピアは順調に進んでいます。時速10キロですから、朝目を覚ますと、昨日までとまったくちがう風景になっていることはありませんが、それでも地球の上を、海の上をまちがいなく動いています。
現在の位置はパソコンでも出ていますから、国民は早く起きて今の位置を知るのが日課になりました。
それに、氷山があちこちにありますから、ケンたちは24時間体制で操縦しました。
ようやく北極海を出ることができました。最初の難関をクリアすることができたので、国民は大喜びでした。
空にはヘリコプターが旋回するようになりました。初めて国が動くのですから世界中のマスコミが注目しています。
数年前まで戦争があったので、空は厳戒態勢で民間機が飛ぶことはなかったのですが、ようやく解除されたのです。
ただ、船での取材は危険が伴うので禁止されています。
そして、氷山を少なくなったので、訪問者を受け入れることにしました。
そのときもヘリコプターや飛行機を使うことになっています。
島の空港には次々訪問者が降りてきました。「よくおいでくださいました」大勢の国民が迎えました。
国民はほとんどが悠々自適の生活を送っている人たちですから、こんなことには慣れていませんが、自分たちが世界を一つにすることができるという使命感が懸命に働いています。
ケンも、「ただ島を動かすだけでなく、世界の人と話すことが大事なのだ」と言いつづけています。
世界には、もう電力エネルギーの心配がないのだから、世界とつきあうのはやめて自分たちの事だけを考えようという国もありました。
それについて意見を求められたケンは、「そう思う国が出てくるのは当然だ。どこかに属したばかりにこんな被害を受けてしまったと後悔している。
しかし、国は協力しなければ世界平和は作れない。だから、それを根気よく伝えることが必要だ」と答えました。
訪問者は、ホテルだけでなく各家庭にも泊まって、キネトピアの生活を満喫しました。すでにその数は100万人を超しました。
しかし、10億人がこの国の国民になりたいという希望がありますが、国民は8000人しかいませんので仕方ありません。
島は南米大陸の南端に達しました。ここを曲がれば太平洋です。
それを祝って毎晩ダンスパーティが開かれました。ある晩、突然ホールが暗くなりました。キャーという声が上がりました。「どうしたんだ!」とみんなが叫びました。
しかし、すぐにライトをつきました。みんなは安心しましたが、「今、外的な原因で発電装置が損傷しました。今調査中です」という放送がありました。
「外的な原因?」、「何かがぶつかったのか」とささやきがあちこちで起きました。
やがて島の動きが止まったようです。もちろんそれを感じることはできませんでしたが、放送でそれを知って、みんな顔を見合わせました。
翌日、動力装置が破壊されたことがわかりました。
「自分たちは世界のために動いているのにどうしてこんなことをされるんだ!」
「そうだ!世界に向かってケンに抗議してもらおう」みんなの怒りは収まりません。

 -