シーラじいさん見聞録

   

ヘリコプターが低すぎると、高い波が起きて遭難者を巻きこんでしまうおそれがあるので、かなり高いところでホバリングしているのだ。ようやくニンゲンがはっきり見えるようになった。
黄色の服に身を包み、ヘルメットを被っている。飛行機事故を捜索していたのだろう。ようやく現場を見つけることができ、しかも生存者がいることがわかったのだ。
シーラじいさんは、事態が大きく動いたことがわかった。
男は海面近くに止まった。そして、海に浮いている黒人に、何か声をかけているようだが、もちろん何を言っているのか聞こえない。
男は、ゆっくり海に降りた。そして、黒人と自分をくくって、黒人を後ろから抱えた。すぐにロープが引きあげられた。
黒人が収容されると、ヘリコプターは、そのまま飛びさった。
すぐに、別のヘリコプターが近づいてきた。今度も、ボートや荷物が転覆しないように高い場所でホバリングをした。また男が降りてきた。
救助の男は、ボートの真上に近づいた。ボートと荷物は今にも転覆しそうだったが、ゆっくり降りると、アジア系の男や少年に声をかけたようだ。
そして、まず青年を救助した。意識はなさそうでぐったりしたままだ。
収容を終えると、最初のヘリコプターの方向へ飛びたった。また、次のヘリコプターが来て、荷物に乗っている老婆を引きあげて消えていった。
すぐに空気を揺るがす音が聞こえた。遠くに豆粒のようなヘリコプターが見えた。
「もう大丈夫だな」シーラじいさんは指揮官に声をかけた。
「わたしたちも引き上げましょう」
指揮官は、それを伝えようと後ろを振りむいた。指揮官の顔が変った。2人いない。最初に報告をした見回り人と改革委員会のメンバーの1人だ。
「あいつらはどこにいる?」みんな当たりを見まわした。
指揮官は、ジャンプを何回もくりかえした。部下もジャンプをした。ヘリコプターによる波もようやく収まりかなり遠くまで見わたせるようになっていた。
「あそこに何か浮かんでいるぞ」指揮官は叫んだ。
「向こうにいるぞ」、「こっちにもいる」部下も叫んだ。
「よし、手分けをしていけ。ひょっとしてけがをして動けないかもしれない。ただし、敵がいるかもしれないから用心しろ」
ヘリコプターが来ると、また四方八方に波を起すので、指揮官は急いだ。
「了解」全員がちらばった。
浮いているものは、ヘリコプターの風で、ボートや荷物からかなり離れていた。
近づこうとすると、またヘリコプターの強烈な音がすぐ上で聞こえだした。
音だけで気を失いそうだ。そして、すぐに風が襲い、波がうねりはじめた。
近づこうとするが、風に流されたり、海に飲みこまれたりするので、思うようにいかない。
見上げると、ヘリコプターは三機いた。さっき救助したヘリコプターだろう。救助隊は、指揮官たちが、ニンゲンを襲っていると思い、救助をはじめているヘリコプター以外は、指揮官たちを威嚇しはじめた。
オリオンは、ニンゲンが救助されているのをちらっと見た。
泣いている少女のあと、海に落ちた少年のようだった。少年は、救助の男とともに引きあげられるとき、オリオンのほうに手を振ったように見えた。
オリオンは、思わずそっちに行こうとした。しかし、ヘリコプターが急降下してきて、大きな波に飲まれてしまった。
指揮官たちは、海の下から近づくことにした。
ヘリコプターの風で、海はえぐりとられるので、点々と影が見えているが近づけない。
しかし、ヘリコプターの隙を狙って、ようやく近づくことができた。
ほとんど敵の兵士だったが、みんな死んでいた。ひどくケガをしている者が多かった。
少ない人数で、これだけの兵士をやっつけたのだ。
オリオンは、うつむいたまま浮いている者のところへ行った。そして、顔を見るために、その下にもぐった。
最初に飛行記事を報告した見回り人だった。
「先輩、どうしたんですか?任務は終わりました。ニンゲンは今助けられています。さあ帰りましょう」と声をかけた。
しかし返事がない。ただ小さな波に体が揺れているだけだ。
どこにもケガをしていない。どうしたんだろう?
「帰りましょう。みんな待っていますよ」
遠くでヘリコプターの音がしているだけだ。オリオンは、そっと見回り人の体に触れた。
ようやく何が起きたのかわかった。
すぐにシーラじいさんのところへ戻った。
「シーラじいさん!」
「どうした?」
「見回り人が動きません」
「指揮官に知らせろ」
オリオンは、ジャンプをして、指揮官を探した。遠くで、大勢いるのが見えた。
「あそこにみんな集っています」オリオンは、そういうとすぐに向った。
シーラじいさんも急いだ。
近づくと、「よくがんばった」という指揮官の声が聞こえてきた。
オリオンは、浮いている者が改革委員会の1人だということがわかった。
腹が大きく裂け、赤い肉が見えている。血は今も出ている。他の者は黙って泣いている。
オリオンは、思い切って、「もう一人見つけました」と叫んだ。
「どうだった?」指揮官は振り向いて聞いた。
「返事がありません」
「そうか。すぐに案内してくれ。2人はここにいて見送ってやれ」
オリオンは、何か言いたそうだったが、指揮官と見回り人を案内するために泳ぎはじめた。
シーラじいさんも続いた。

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