シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんとオリオンもすぐ後を追った。
カノープスを右に曲がり、シリウスが間近に見えるところまで二日ほどかかった。
ここで誰かに聞くことにしたが、誰にも出会わなかった。
しかも、油や血のにおいもしなかった。飛行機が落ちた場所はここからかなり離れているかもしれない。
しかし、疲れてきたこともあり、しばらくあたりの様子を調べることにした。
夜になった。シーラじいさんは、岩陰を見つけるために海の下に向った。
オリオンは、誰かに会わないかあちこち泳ぐことにした。
どこにも動きらしい動きもなくしーんと静まりかえっていた。赤や黄色の光を放ちながら、寸胴のウリクラゲがのんびりと泳いでいるのが見えた。
あれに聞くのは無駄だろう。話しかけたとたん、あわてて逃げるし、大体、自分をきれいに見せることしか興味がないのだから。
遠くで影が走ったが、追いかけていくことは危険だ。向こうも驚いて向ってくることがあるからだ。
また海面に向った。どこかでピシャッという音がしたが、元気な子供が一人で遊んでいるのだろう。
空には無数の星が生き物ように瞬いていた。ひときわシリウスが光っていた。
オリオンは、ベテルギウスを思いだした。シーラじいさんは、オリオンとベテルギウス、シリウスという星は仲がいいのだと言っていた。
ベテルギウスはあの城砦に囚われているのだろうか。きっとぼくを待っているのだ。
この仕事が終れば、どんなことがあっても助けにいこう。
暗闇が薄くなりはじめた。
鳴き声だけが聞こえていた鳥の影が見えるようになった。
オリオンはジャンプをして、海面の様子を調べた。
シーラじいさんは、小さな岩山にほどよい窪みを見つけたので、そこに入った。しばらく休むと疲れを取ることができた。オリオンが心配になったので、早く出ようとすると出られない。誰かがいるようだ。
「もし、どいてくださらんか」シーラじいさんは大きな声を出した。何の反応もないので何回も背中からぶつかった。
ようやくもぞもぞと動いたので、外に出ることができた。
そこには、大きなタコがいた。かなりの老人のようだ。
「お休みじゃったか。先を急いでいたので申しわけないことをした」
シーラじいさんは、そのまま行こうとすると、その老人は、「どこにいきなさる?」と眠そうに聞いていた。
「最近、このあたりで大騒ぎがあったところをご存知ないか?」
「大騒ぎ?浮世のことはとんと知らぬが、食べ物が降ってきたとみんなあわてて行ったことはあったが、そのことか?」
「そのことじゃ」
「それなら、ここをまっすぐ行ったほうじゃ」
「よう教えてくださった」
「あんたも、食べ物を探しにいかれるか?」
「いや、気がかりなことがあるので、そこを見にいくだけじゃ」
「おのれの欲望に振りまわされるほど空しいことはない」
老人は、そういうとゆっくり体を浮かべて泳ぎさった。
上に向っていると、オリオンがシーラじいさんを見つけて飛んできた。
「何も見つけられませんでした」
「どうやらまだ先のようじゃ」シーラじいさんは、老人のことを話した。
そして、すぐに向った。
半日ほど行くと、オリオンは血と何か不快なにおいがすると言った。
「着いたようじゃな」
オリオンは、ジャンプをして海面の様子を調べた。
「シーラじいさん、向こうのほうに何か浮いているようです」
「よし、行こう。みんなもいるだろう」
近づくにつれて、不快なにおいがきつくなってきた。ところどころ海水が虹色に光っていた。
浮いているものは何十とあり、しかも、かなり大きいことがわかった。
「あれは何でしょうか?」
「飛行機の残骸じゃろ」
「浮いているものに体当たりしている者がいますが」
「襲っているのじゃ」
「浮いているものは食べられるのですか?」
「いや、ニンゲンを襲っている」
「じゃ、浮いているものには、ニンゲンがいるのですか?」
「まちがいない」
「見てきます」オリオンはすぐにそちらに向った。
そしてすぐに帰ってきた。
「何個かのものに、それぞれ4、5頭で体当たりしています。浮いているものは激しく揺れ、今にもひっくりかえりそうです。
そして、ニンゲンが何かで撃退しようとしているのですが、何もしないニンゲンもいます」
「飛行機が落ちて、もう5,6日立つ。かなり弱っているじゃろ」
「どうしましょうか?」
「どうしたものかのう」
そのとき先発していた者がシーラじいさんとオリオンを見つけた。

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