シーラじいさん見聞録

   

みんな気づいて、それを見守った。見回り人のようだ。シーラじいさんを囲んで大勢集っているのを見て、一瞬どこに行こうか迷ったようだが、改革委員会のリーダーが、迎えるように前に出たので、そこに向った。
止まってからしばらく息を整えた。そして、「たいへんなことが起きたようです」と叫んだ。
「どうした?」リーダーは、見回り人に聞いた。
「見回りを終えて、そろそろ帰ろうかと思ったとき、激しい衝撃を感じました。何が起きたのかあたりを見てまわりました。しかし、どこも変った様子はありません。
しばらくすると、遠くの方で、何か大きなものが落ちていくのが見えました。
ボスよりはるかに大きなものが二つ、三つ、もうちょっと小さいものが何個か、次から次へと落ちていきました。
追いかけていこうかと迷いましたが、もしそいつらが向ってきたらとても勝ち目はないと判断して、もう少し待ってから近づこうと考えました。
すると、上の方で何か気配を感じましたので、まずそっちへ向うことにしました。
そのうち、あちこちから、急いで上に向っていく者が見えました」
「何が起きていたんだ?」
「はい。水面に近づくにつれて、妙なにおいと血のにおいがしてきました。みんなが集ってくるのは、これかと思いながら、どんどん集ってくる者に混じって上をめざしました」
その話を聞いていた者は、不安そうにお互いの顔を見た。
誰もの頭に、災厄という言葉が浮かんだだろう。いよいよ災厄が降りかかって、多くの者が死んでいるのか。
リーダーは、みんなの不安をはっきりさせるために聞いた。
「それで?」
「わたしが着いたときは、太陽が沈んで、薄暗くなっていましたが、水面に出ると、妙なにおいがさらにひどくあたりをおおっていました。
そして、大きなものがいっぱい浮かんでいました。みんな争って取りあっている状態でした。
何を取りあっているのだろうと近づこうとしましたが、海が黒っぽいものでおおわれていて、うまく体が動かせないのです。
においもひどく、気分が悪くなってきたので、遠くから様子を見ることにしました。
よく見ると、取りあっているのは、大きなものではなく、その間に浮いているもののようでした」
「それは何か?」
「ほとんど喰われていましたが、海にいる者ではないようです。ものすごく速いものに乗っている者のようです」
「速いもの?船か?」
「そうです。そうです。船です。それに乗っている者です」
「それなら、ニンゲンだ!」
みんなが顔を見合わせた。
「何百というニンゲンが海に浮いていたのです。それをみんなで取りあっていたのです」
リーダーは、じっと黙っていた。
「まだ生きていて、何かにつかまっているニンゲンもいるようでしたが」
「何が起きたんだろう?」リーダーは、誰かに聞くともなしに大きな声で言った。
見回り人は続けた。「近くにいた者に聞きましたところ、空からものすごく大きなものが、黒い煙を吐きながら海に落ちてきたということです。ものすごい音がしたかと思うと、海は激しく揺れ、近くにいた者は遠くに吹きとばされました。
ようやく大きなものが落ちたほうを見ると、大きなものは真っ二つに割れ、中からどんどん出てきたといいます」
リーダーは、シーラじいさんのほうを見て聞いた。
「シーラじいさん、これは何が起きたんでしょう?」
「飛行機が墜落したようじゃな」
「飛行機?ああ、昼は鳥のように飛び、夜は星のように光っているものですね?」
「そうじゃ」
「あれが落ちることがあるのですか?」
「ある。それで、多くのニンゲンが死んだという記事がときどき載っている」
「どうして落ちるのですか?」
「飛行機はさっき話していた石油を燃料としているが、何か不都合なことが起きたのじゃろな」
「それでは、われわれが恐れている災厄ではありませんね?」
「多分。気象に大きな変化が起きていないかぎりじゃが」
リーダーは、見回り人に聞いた。
「それはどこだ?」
「カノープス方向に進んで、右手にシリウスがみえるところです。ここから2日ぐらいかかります」
「シーラじいさん、どうしましょうか?」
「支障がなければこの目でみたいが」
「わかりました」リーダーは、そう言うと、改革委員会の3人と、報告した見回り人を入れて3人の見回り人、そして、シーラじいさんとオリオンの8人ですぐに出発することを決めた。
途中、訓練を受けていたオリオンが合流した。
「海の中の海」を出ると、シーラじいさんとオリオン以外は、急いで飛行機が落ちた場所に向うことになった。
6人グループは、改革委員会でリーダーが強い信頼をおいている男が指揮を取るようになった。
寡黙すぎるが、自分を犠牲にしてでも、リーダーの指示に従う意思を持っている。
シーラじいさんは、他の者がその指揮者を補佐できるように、手短に注意をした。
そして、絶対に石油に触れないように言って、6人を見送った。

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