シーラじいさん見聞録

   

その二つの赤いものは、シーラじいさんたちの方を向いた。それは、炎のように明るくなったり暗くなったりしていた。
明るくなったとき、そのまわりは黄色く光っているように思われた。
やがて、そこから、「何者だ」という声が聞こえた。
その声は腹の底から吐きだされたような低く、すぐに壁に当たり、部屋中に響きわたった。ペリセウスと仲間は震えあがった。
シーラじいさんは、その赤い二つのものはボスの目だとわかった。
「おまえが、平和に暮らしている者を襲うように命令したのか」シーラじいさんの声も、部屋に響いた。
その赤い目が一瞬消えた。「待て。わしが話をする」まわりにいる部下が、ボスの前に出たようだ。
「わしは、そのようなことを命令したことはない」
「ここにいる若者は、おまえの部下に親や友だちを殺された。どうしてもおまえを探しだして、仇を討ちたいと願っている」
また、影が動いたような気がした。
「下がっておれ」ボスは、また部下に命令した。
「もうすぐ大きな災厄が来ることを告げて、生きのびるために助けあおうとしているだけだ」
「どんな災厄が知らぬが、おまえたちに襲われることこそ、この若者たちにとって災厄である」
しばらく沈黙が続いた。
「行きすぎたことがあったようだな。部下のことはわしに責任がある。この通りじゃ。許してくれ」
赤い目が少し動いた。頭を下げたのか。
暗闇はまた凍りついたようになった。
今度は、シーラじいさんが声を出した。「ペリセウス、おまえたちはどうかな」
しばらくして、ペリセウスは、「憎いです」と搾りだすように言った。
そのとき、外から激しい音と怒声が聞えた。
どうやら兵隊が戻ってきて、リゲルとベテルギウス、オリオンに向ってきたようだ。
シーラじいさんは、すぐに出て行こうとした。
「わしが出る」ボスは、シーラじいさんを制した。
そして、すぐに動いた。その体は3メートル近くあり、1メートル以上はある鰭(ひれ)が、何本もあった。
その後を護衛の兵隊が追った。そして、シーラじいさんたちもすぐについていった。
外に出てみると、何千という兵隊が激しく動きまわっていた。
リゲルたちは、その中にいるだろうが、これではどうすることもでき名だろう。
そのとき、「みなの者、静まれ」という声が響きわたった。
そのボスの声は、大きな波のように何千という兵隊に伝わったようだ。
戦場の動きは止まり、すぐに整列をはじめた。
真ん中にリゲルやベテルギウス、オリオンが残された。
「みなの者、ごくろうだった。この客人たちは、おまえたちより知力と気力がある。おまえたちが勝てる相手はでない。
そして、話はついた。まだ誤解はとけていないが、それは些細なことだ。いずれわれらの意図もわかってくれるはずだ。
災厄が降りかかってきたとき、われらの元に駆けつけて、共に戦ってくれる。
もう誰にも手出しをしてはならぬ。わかったか」
兵隊から、「よーし」というような声が上がった。それはどんどん大きくなっていって、波のようにシーラじいさんのほうに向ってきた。
その波の中を、ボスはシーラじいさんのほうに近づき、「貴殿とはゆっくりと話がしたい。もう一度お越しねがえないか」と言った。
「まずこの若者たちの話を聞かなければならぬ。それによっては、もう一度戦うこともある」
「承った。それでは」
そういうと、さっと身を翻して穴に向った。護衛の兵隊も後を追った。
シーラじいさんは、何千という兵隊が見守る間を進みだした。リゲルたちも続いた。
城砦が小さくなったころ、シーラじいさんは止まり、ペリセウスたちに声をかけた。
「おまえたちの望むようになっていないだろうが、もうおまえたちの国を襲わないという確約は取れた」
「シーラじいさん、ありがとうございます。パパもママも喜んでいると思います」
ペリセウスは、そう言うと、仲間を振りかえった。二人の仲間はうなずいた。
「国に帰って、みんなに、自分たちが見たことを話したらいい。そうすれば、これからどうすべきか考えてくれるじゃろ。
まずは国を立てなおすことじゃ。わしとオリオンはかたづけなければならない仕事がある。それまで3人で助け合って、どんな困難にも立ちむかっていけ。
そうじゃ、二人の者にも名前をつけてやろう。アテーナー、ヘルメースだ。どちらも、ペリセウスの仲間じゃ」
二人の仲間の顔には喜びの表情がさっと広がった。
「リゲルとベテルギウス。3人を送ってやってくれ。それから家に帰れ。
おまえたちのことは、わしがちゃんと言っておく。すぐに『海の中の海』に帰れるじゃろ」
そのとき、ペリセウスが言った。
「シーラじいさん、お聞きしたいことがあるのですが、あのボスは、ぼくのパパやママを殺した悪いやつです。
しかし、あいつがどこにいるかさぐっているとき、あの国の者が、『ボスは、みんなのことを大事にしてくれる』と話していました。あいつは悪いやつではないのですか」
「うむ、おまえたちが国を立てなおしながら、それについて考えたらいい」
リゲルとベテルギウスは泳ぎだした。ペリセウスは、「オリオン、また会おう」と言葉をかけた。
オリオンも、「元気でな」と返した。アテーナーとヘルメースも、「さよなら」と挨拶をした。

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