シーラじいさん見聞録

   

ペリスウスは、岩に沿って近づいた。兵隊らしき者が集っている下が崖のようになっていた。
そこに隠れて聞き耳を立てた。
「部隊はまだ帰らないか」
「まだです。こちらに向ってくる波も感じません」
「どうしたんだろうな。あれだけの兵隊を向けたのだから、4、5人ぐらいすぐに抑えられるはずなのに」
「狂暴だと聞いていますが」
「このあたりでわれらの軍隊に匹敵するものはいないはずだ」
「ボスがお呼びです」別の部下が来たようだ。
ペリセウスは、そっとそこを離れて、シーラじいさんがいる穴に向った。
無我夢中で帰ってきたペリセウスは、「シーラじいさん、ボスの居所がわかりました」と息を弾ませながら報告した。
「よし、行こう」シーラじいさんは、もう泳ぎだしていた。
そして、二人は岩の下に着いた。「あの穴にボスがいるようです」
「外からは見えにくくなっている。まちがいないようじゃ。
わしは信号を送ってリゲルたちを待つ。おまえは、仲間を呼んでこい」
「わかりました」ペリセウスは、すぐに消えた。

陽動作戦を続けていた3人のうちリゲルが、シーラじいさんからの信号をキャッチした。
「ベテルギウス、オリオン、今シーラじいさんから信号が来たぞ」
「了解」二人は同時に答えた。
「まずあいつらを一気にまけ。それを見届けてから、城塞へ帰るのだ」
「了解」
この兵隊たちは回遊しない種類なので、そう早く泳げなかったが、回遊を続ける者は、時速100キロを越すといわれている。そうなら、リゲルたちは、危険な目に会っていただろう。
リゲルたちは、一気にスピードを上げた。
リゲルは、敵との距離をできるだけ離して、暗闇の中を戻ることにした。
オリオンは、遠くに岩山が見えたので、その間に誘いこみ、すぐに戻ることにした。
ベテルギウスは、イワシのような大きな群れが通るところだったので、そこに突っこんだ。数万、数十万のイワシは思い思いの方向に逃げ、まるで大きなカーテンが動くようだった。兵隊の目をくらませると、そのまま大きく迂回して、リゲルとオリオンの後を追った。

その間シーラじいさんは、ボスらしき者が外に出ないか見ていた。
警戒する兵隊はずっといたが、ボスらしき者は出てこなかった。
そのとき、ペリセウスとその仲間やリゲルたちが次々と帰ってきた。
「みんなご苦労じゃった。ボスはまちがいなくあの穴にいる。穴から出てくるのを待っていては、大軍が帰ってくる。そうなれば厄介なことになる」
「それでは、すぐ攻めこみましょうか」リゲルが聞いた。
「そうだな。もう少し警戒する兵隊が外に出てきたら行くか。リゲルたちは兵隊を押さえこめ。そして、穴の入り口を制圧するのじゃ。
わしとペリセウスたちは、その間に穴に入る」
「おれたちも行かなくていいですか」ベテルギウスが心配そうに言った。
「多分ボスのいる穴は、敵が入っても動けないように狭くなっているはずじゃ。しかも、迷路になっているにちがいない。
おまえたちは、穴の入り口を守ってくれ」3人はうなずいた。
ペリセウスが、離れた場所に行き、兵隊の様子を見た。大軍の動向を調べに言ったのだろうか、5,6匹の兵隊が出ていき、穴の前にいる兵隊は、さっきの倍近くになっていると報告した。
「よし、やろう」シーラじいさんは決断を下した。
リゲルたちは一気に攻めあがった。鈍い音がしだした。兵隊に体当たりをしているのだ。兵隊は、慌てふためいて逃げだしたが、リゲルたちが追ってこないのを見ると、すぐに
戻ってきて、穴のまわりにいるリゲルたちに向ってきた。
しかし、リゲルたちは、兵隊を穴にいれないようにしつつ、何事かと思い、穴から出てきた兵隊の横腹に体当たりした。
シーラじいさんとペリセウスたちは、その間に穴に入った。
やはり穴に入ると急に狭くなっていて、しばらく行くと、道が三つに分かれていた。
どの道を進むべきか考えていると、波が押しよせてくる道がある。
多分、兵隊の駐屯所に続く道になっているのだろうと思っていると、続々と兵隊が出てきた。
ほとんど者は、そのまま穴から出ていったが、数匹の兵隊は、ちがう道に急いで入っていった。
「よし、ここだ。中にボスがいるはずじゃ。兵隊がボスを警護しているじゃろが、無用な争いは避けなければならぬぞ」
そのとき、ボスがいる道から波を感じた。
すぐに他の道に隠れた。
「何かあったのか」
「どうもわからん」
「出て行った者が帰らないという報告が今あった」
二人は外に向った。
その間に、シーラじいさんたちは、またボスのいる道に入り、そのまま進んでいった。
途中、何度となく分かれ道があったが、太い道を進んでいった。
すると、二つの赤いものが光っているのが見えた。

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