シーラじいさん見聞録

   

教授は言葉を失ったままだった。ようやく、「軌跡だ、奇跡だ!」とつぶやいたかと思うと、「おれは夢を見ているのか」と独り言のように言った。
マイクとジョンはオリオンを見た。オリオンも二人を困ったような顔で見た。
教授はようやく我に返り、2人とオリオンを交互に見た。それから、「そうだ。おれは、まだオリオンに返事をしていない」と言った。
そして、オリオンに近づいて、「オリオン、ぼくがアムンセンだ。わざわざノルウェーまで来てくれてありがとう」とぎこちなく挨拶を返した。
「いえ、こちらこそありがとうございます。忙しいのに迷惑をかけます」オリオンはゆっくり答えた。
教授は何回もうなずいてから、今度は2人のほうに向いた。そして、「ベンは、オリオンは特別な才能を持っていると言っていたが、これだったのだな」とようやく落ちついて言った。
また、オリオンに向かって、「オリオン、英語は誰から学んだのか」と聞いた。
「はい。海の仲間です」
「仲間?」
「どんな仲間だね?」と聞いたとき、ドアが開いて、助手が入ってきた。そして、「そろそろお時間です」と言った。
「え?そうか。教授会だったな。きみたち、1時間ほどで戻ってくるから、ここで待っていてくれないか」と言った。そして、部屋を出ていった。
2人は、最初ハードルをクリアしたことにほっとしたが、マイクは、「教授にももう一度念を押しておかなくてはならないな」と言った。
「そのようだ」ジョンが答えた。
オリオンは、「それじゃ、ぼくは彼らと話してきます」と言った。
「教授を安心させなければならないからな。でも、ぼくらがいてもかまわないのか」
「大丈夫です。ぼくらの仲間だと伝えていますから」
オリオンはイルカのほうに行った。2人が見ていると、前からいる2頭のイルカは自分たちのほうからオリオンに近づいたようだった。「うまくいってようだ」と二人は思った。
1時間ほどすると、教授が一人で戻ってきた。「いや、これほど時間が立たない会議はなかったよ」と笑った。そして、「オリオンはどうだ?」と聞いた。
「今、イルカと話をしているようです。どうして、怯えるようになったかわかれば、オリオンは自分の口から教授に説明すると思います」
「そうか。きみらはオリオンが話すのをいつ知ったんだい?」
「研究所に連れてこられてからしばらくしてからです」
「ぼくらも、ちょうど教授のように驚きました。最初は、これは何かのトリックかもしれないと疑いました」
「それに、今もそうですが、当時は生物兵器が取りだたされていました。それで、密かに軍人や研究者が組織されて、オリオンを徹底的に研究しました」
「しかし、結局何もわからず、オリオンは英語を上手にしゃべるイルカだと言うことになったのです」
「それで?」
「しかし、紛争が頻発して、それどころとじゃなくなったのです。ベンなど研究所に派遣されていた軍人はほとんど自分の部署に戻りました。
でも、ベンはオリオンののことが気になって時間があれば連絡してくれましたが、核兵器が落ちて、それも少なくなりました」
「でも、ベンは、かえってそれで、さらにオリオンのことを心配したようです。そして、人類が絶滅するようになってもオリオンは助けたいと思って、教授を頼ったのです」
「ベンは相当の覚悟でオリオンをぼくに任せてくれたのだな。責任をもってオリオンを助ける」
「ありがとうございます。ぼくらも全力で取り組みます。実は、オリオンは教授に頼みたいことがあると言っています」
「それは何だ?」
「ぼくらが言ってもうまく伝わらないので、オリオンが話すでしょう。それを信じるかどうかは教授の考え一つです」
「それなら、すぐにわかるな」
「それと、オリオンのことは、助手の方にも黙っていてくれませんか」
「それは約束する」
「もしオリオンがここにいることが本国にわかれば、ぼくらはどうなってもいいのですが、所長をはじめ責任が問われる人間がかなりいます。
それに、オリオンは監視下に置かれて、どこにも行くことができないことになるかもしれないので」
「そうだろうな。ベンとの約束は絶対守る」
そのとき、オリオンが戻ってきた。「オリオン、何かわかったのかい?」教授は、ぎこちなさが取れて、普通に話すように言った。
「もう少しでせベ手がわかります。彼らは、かなり凄惨な目に会っているようです。口にするのが辛そうでしたが、話さなければ、いつまで立っても前に進めないということがわかったようです。
急かさずに聞いていますので、少し時間がかかります。しばらくここにいてもいいですか」
「もちろん、きみに任すよ。それにしても、そんなことがあったとは。きみがいないとわからないところだったな」
翌日、アムンセン教授は午前7時に研究所にあらわれた。担当の助手は驚いて、「教授、どうしたんですか!と聞いた。
「いや、昨晩アメリアとチャイナの会談が決裂したので、最終戦争が起きるのではないかと思うと寝られなかったんだ」と説明した。

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