シーラじいさん見聞録

   

「そういうことでオリオンの元に行くことにした」ミラたちは、リゲがようやく結論を言ってくれたので、お互いの顔を見てうなずいた。
おもわずペルセウスが、「ぼくらもそう願っていました」と言った。
「おまえたちの気持もわかっていたが、ベンのことが心配なのでかなり迷った。そこで、シーラじいさんに相談した。シーラじいさんも、ぼくらが決めたようにすればいいと言ってくれたので、おまえたちに早く伝えたかった」
「じゃ、すぐ行くのですね」シリウスが聞いた。
「そうしよう。カモメからの連絡が来てからと思ったが、ベラが自分がカモメを待っているといると言ってくれたので、すぐに出発できる」
「そうしましょう。できるだけ早くオリオンの近くに行きましょう」若いシャチが言った。
「我々の仲間であるオリオンは、自分のことよりニンゲンを助けるという選択をしたのですから、おれたちもオリオンを守るために全力を尽くします」別のシャチも自分の考えを述べた。
「ありがとう。前に行ったことのある北極海ではあるが、状況が変わっている可能性がある。絶対にニンゲンやクラーケンに近づくないように気をつけろ」リゲルは仲間に注意した。
そして、ベラと打ち合わせをして、全員で北に向かった。翌朝早く一羽のカモメが下りてきた。
リゲルは止まった。「申しわけありません。先に動いています」と声をかけた。
「謝ることはない。おまえたちの気持ちを考えたら当然だ。ベラが教えてくれたので、すぐ追いかけた」
「オリオンは大丈夫でしたか?」
「ベラを通じて、シーラじいさんにも報告したが、オリオンはすでに研究所に入った。教授と言われるニンゲンを空から観察していたが信頼できそうなニンゲンだ。
イリアスはオリオンがいる水槽の横にいたが、教授はオリオンだけでなく、イリアスにも話しかけていたな。イリアスも最初は緊張していたが、空から見ると体が固まっているのがよくわかるのでな、だんだんイリアスも楽しそうに話すようになった。何を話しているのかはわからなかったが」
「それはよかったですね。それから研究所に行ったのですね」
「そうだ。若い助手がやきもきしていたが、ようやく教授がみんなに指示を出してくれた」
「とりあえずオリオンの思うようになったのですね」
「今後は教授がオリオンの希望を叶えてくれるかどうかだ。しかし、マイクとジョンがずっとついているし、アントニスたちもいつでも動ける用意があるので安心だ」
「ぼくらも早くトロムソに行くつもりです」
「そうだな。邪魔をした。すぐに向かってくれ。仲間が見張っているから、新しいことがわかればまた報告するよ」カモメは飛びたった。
そのカモメは、集めた新聞をベラに渡していた。それは英字新聞だったので、ベラは読むことができた。
最近では、かなり英語を読むことができたので、要約した内容をシーラじいさんに伝えるようにしていた。
ベラは隅から隅まで読んだが、どこにも小競り合いの記事はなかった。ただ、アメリアとチャイアが会談をする用意があるという記事が目についた。
ベラは、カモメからの報告とその新聞の要約をシーラじいさんに伝えた。
「相変わらず紛争のことは書いていませんね」ベラが言った。「ベンのことを考えても、小競り合いが起きていないはずはないじゃろが、意識的に伏せているのじゃろ」
「どういう理由が考えられますか?」
「それぞれの国が自国の国民の敵対心を押さえようとしているのかも知れぬ。チャイアのことは分からぬが」
「普通は自国の国民を煽って、戦争を正当化するのですね」
「そうじゃな。しかし、すでに次の手が底をついてしまい、このまま国民の憎悪が高まれば、核兵器しかないのかもしれぬ。政治家や軍人が勢いで使ってしまうかもしれないと考えているのじゃろ」
「オリオンは大丈夫でしょうか」

オリオンは2頭のイルカの様子を見ていた。プールは、横20メート縦10メートル四方ぐらいだが、2頭は端から離れようとしなかった。
自分たちの仲間は、知らない者同士でもどちらかが近づくとすぐに友だちになれるのだが、2頭はわざと避けようとする。教授はかなり精神的に傷ついていると言っていたが、まさか同じ仲間にも近寄ろうとしない。
自分なりに何かできないか。オリオンは自分のほうから動こうとした。まず、輪を描くようにして泳いだ。
それを何回も繰り返した。2頭のイルカは、最初は嫌がるような気配を見せたので、それを止めた。
また、泳いでいると、それに慣れたのか、オリオンをちらっと見るようになった。
しかし、まだオリオンはそれ以上は何もしなかった。数回繰りかえしたとき、1頭のイルカと目があった。
イルカは、「ここは狭いので運動不足になる。早く戻りたいよ」と独り言のように言った。
2頭は何も言わなかったが、オリオンに興味を持ったように見えた。
教授は朝からプールにいた。オリオンのことも興味があったが、まず先に預かっている2頭のイルカのことが気がかりであった。
もし変調を来せば、同じプールに入れておくことができないからである。マイクとジョン、それに、3人の助手にもそれに注意するように言った。

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