シーラじいさん見聞録

   

「事実です。オリオンはぼくが溺れそうになったのに気づいてすぐに来てくれました。そしてぼくの体を下から支えてくれました。オリオンがいなかったらぼくはまちがいなく溺れていると思います。
でも、そのとき、数人の男がオリオンを捕まえました。そして、船に乗せてどこかへ連れていきました。
そのとき、アントニスがオリオンを助けようとしたのですが、どうしようもなかったのです」
「それで、あの童話を書いたのか」
「はい。みんなが知ってくれれれば、オリオンがどこにいるかわかると思ったのです」
「なるほど」
「オリオンがどこにいるかわかったのですが、ぼくらでは助けだすことができません」
「詳しい話は聞いていないが、オリオンはベンの船が攻撃されたとき、うまく脱出できたのだろう?」
イリアスはどう答えたらいいのかわからず、ただうなずくかりだった。すると、教授は、「わかったぞ。オリオンはベンと離れ離れになったが、ベンと約束をしていたトロムソに一人で来たといういうわけだ」とイリアスの話をつないでくれた。
イリアスは、基本的にはそういうことだと納得して、「そうだと思います」と答えた。
「やはりオリオンは特別な才能をもっている。頭がいいイルカでも教えられたことをやるだけだが、そこまでするとは!」
「オリオンはとても賢明です。人間以上です」イリアスは答えた。
「それはまちがいない。ベンからはオリオンをくれぐれもよろしくと頼まれているので、全力で世話をするつもりよ。できるなら、きみの希望を叶えるようにがんばる。
いや、いけない。オリオンが弱ってしまう」教授は、立ちあがって、「きみたち、運ぶ準備をしてくれ」と、桟橋にいた3人の若者に叫んだ。
マイクたちもすぐに水槽をもちあげる準備に取りかかった。トラックは、バックで桟橋の端まで移動した。水槽はトラックに載せられた。教授を含め全員荷台に乗るとトラックはすぐに出発した。
20分ほどで大学の海洋研究所に着いた。それから海洋研究所のビルに横付けされると、すぐに建物の中に運び入れられた。オリオンはプールに入った。
教授はオリオンの動きを見ていた。そして、マイクとジョンを見て、「オリオンは大丈夫か。ぼくが早く連れてきてやればよかった」と悔やんだ。
「心配ありません。とても元気ですよ。ところで、2頭イルカがいますね」と言った。
「そうなんだ。ひどく弱っているイルカが港にいると市の担当者から連絡があったので、引きとっている。
調べたが、外傷はあまりなかったが、ひどく怯えていた。何か怖い目にあったのだろう。
もう三ヶ月になる。徐々に解放に向かっているが、戻すのにはもう少し時間がかかりそうだ。
それで、オリオンを同じプールに入れたらストレスが取れるのではないかと思ったので、そうしてみたが、きみらに様子を見てもらって、お互い反発しそうなら、オリオンを別のプールに入れることもできる」
「そうですね。オリオンは、こういうことは慣れていますが、向こうはどう思うかわかりませんからしばらく観察します」
「頼む。それじゃ、ぼくは大学にオリオンのことを話してくる。今後のことは、明日から決めよう」と言うと、オリオンに向かって、「オリオン、ゆっくりしてくれ」と声をかけると部屋を出ていった。
オリオンは笑顔で二人に近づいた。二人もオリオンに笑顔を見せた。そして、「オリオン、今聞いていたとおりだ。あのイルカたちは精神的に問題を抱えているようだ。ぼくらを見て、逃げるようにしている。オリオン、しばらく様子を見てくれないか」
「わかりました。様子をみてから話しかけます」

リゲルは、オリオンはもうトロムソに着いただろうかと思った。カモメがオリオンについているので連絡が来るだろうがそれまで待っているべきか。
リゲルは、ベラにシーラじいさんを呼んでほしいと頼んだ。ベラは、「リゲルはそろそろそう言うだろうと思っていたわ」と言った。「わたしもオリオンのことが心配で」
「マイクたちがいるから心配しなくもいいけどね」
ベラはうなずいて潜った。しばらくして、シーラじいさんが上がってきた。
「シーラじいさん、申しわけありません。お話したいことがあって」
「わしもそう思っていた。ベラからも聞いたが、捜索はあきらめたようじゃな」
「そのようです。ミラも毎日のように船の近くまで行っていますが、センスイカンも来なくなったと言っています」
「わしらも次のことを考えるときじゃろ」
「オリオンを喜ばせようと思っていたのですが」
「おまえたちも無念じゃろ。今後どうするかはおまえに任せる」
「ありがとうございます。それなら、みんなを集めて話をしますが、すぐにここを離れたいと思います」
「了解した」
リゲルは仲間を集めて、話をした。「オリオンはすでにトロムソに着いているだろう。そして、マイクたちのサポートで、すでに海洋洋研に入っているかもしれない。
教授との関係がうまくいって、すでに海底にいるニンゲンを助けるプロジェクトが動きだしているかもしれない。
そうなればおれたちも忙しくなるぞ。今は静かだが、クラーケンからニンゲンを守れるのはおれたちしかいない」
リゲルは、それでどうするかとまだ言っていなかったが、みんなはわかっていた。

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