シーラじいさん見聞録

   

ペルセウスは、このシャチをリゲルたちの前に連れていくのを一瞬ためらったが、ここでうろうろされては作戦に支障が出る。それに、シャチが話した内容の信憑性は自分だけではわからないので、リゲルに判断してもらおうと連れていくことにしたのだ。
シャチを見たとき、みんなはアッと驚いた。特にミラは喜んでシャチと話した。ペルセウスは、その間にシャチと会ったときの様子と聞いた話をリゲルに伝えた。
それから、「もう一度さっきの話をしてくれないか」ペルセウスはシャチに言った。シャチは話しはじめた。ペルセウスが注意深く聞いていたが、先ほどとほぼ同じ内容だった。
「それじゃ、いつ来るんだ」リゲルも聞いた。
「はっきりわかりませんが、ぼくの態度にいきりたって、すぐに行動を起こすような様子を見せていたので心配しています」と神妙に答えた。リゲルはうなずいた。
そのとき、ペルセウスが、「あいつはどうですか?」と小さな声で聞いた。
「何か隠しているようには思えない。善意で来てくれたとは思うがな」
「でも、仲間から追いだされています」
「スパイではないでしょうね」シリウスも近づいて自分の考えを伝えた。
「仲間に詫びを入れるために、何か手柄がほしいのじゃないか」
「いわゆる二重スパイだ」
「どういう意味だ?」
「どちらにも仲間だと言うように思わせる」
「でも、結局は?」
「もちろん昔の仲間のところに戻りたいのだろう」
「どうしますか」
「おまえたちは何を言うな。やつがどう動くか様子を見る。正体があらわれたらすぐに動くから」リゲルはそう言うと、シャチに、「ありがとう。よく教えてくれた。休んでいってくれ」とねぎらった。その言葉を間に受けて、シャチはどこにも行こうとしない。
それで、翌日の作戦は中止となったので、みんなは仕方なしに休むことになった。
シャチは別に気にするふうになく、若いクジラと話して一日を過ごした。
カモメはその話を聞いて、クラーケンが近づいてこないか見張っていた。近くを通る者を注意深く見ていたが、みんなここに住んでいる者たちで、妙な動きをする者はいなかった。
もちろん、ペルセウスたちもそれとなくシャチの様子を見ていた。
リゲルは、これでは何も始まらないと考えて、翌日若いクジラにそのシャチを任せて、作戦を再開することにした。もちろん、危険が迫ればすぐに逃げるように言っておいた。
6頭の若いクジラも退屈なので、少しうろついた。その1頭が他のクジラと離れて泳いでいた。すると、どこからか3頭のシャチがあらわれて、そのクジラを襲いはじめた。若いクジラは慌てて逃げようとしたが、取りかこまれて逃げ場を失った。クジラを激しく抵抗したが、先回りしたり、押さえつけたりして攻撃を続けた。
リゲルが、若いクジラを守るために5羽のカモメを残していたので、それに気づいたカモメはすぐにリゲルに知らせようとした。
しかし、それでは間に合わないので、いつもの場所に戻っていた5頭とシャチに知らせた。
5頭のクジラとシャチは急いで駆けつけた。そして、助けようとしたが、若いクジラは経験が少ないので、背後から向かったが、シャチは全く意に介さず狙った1頭を執拗に攻めつづけた。
そのとき、そのシャチは3頭のシャチにぶつかっていった。横からぶつかり、相手をひっくりかえした。最初は気にもしていなかった相手は、徐々にそのシャチを無視できなくなり、クジラのことを忘れて3頭でそのシャチに向かっていった。
その間に、5頭は弱ってきたクジラを守りながら逃げた。かなりの打撲をしていたが、致命的ではなかった。それよりショックのほうが大きかったようだ。
数時間ほどして、そのシャチも戻ってきた。かなりのけがをしていたが、大丈夫だと答えた。
夕方それを聞いたリゲルは、「おかげで助かったよ。ちゃんと言っておいたに油断をしたんだな」と礼を言った。
シャチは、「若いからまだ自分の力をうまく使えないだけですよ。それさえ覚えれば、心配ないと思います」と答えた。
しかし、ペルセウスたちは腑に落ちなかった。互いに顔をうなずきあった。
それで、「どうしておれたちがいないときにこんなことになるのですかね?」とリゲルに聞いた。
「またこんなことは起きたら作戦が続けられないですよ」と聞く者もいた。
リゲルはうなずくしかなかったが、できるだけ早く結論を出すと約束した。
そこで、上空から見ていたカモメに聞いた。「あの若いのがそっちに行くのは見ていなかったのですが、他のクジラが、『あいつはどこへ行ったんだ』と言っているのを聞いて、すぐに調べた。
10分ぐらいで見つけたが、そのときは変ったことがなかった。それで、『早く帰れ』と言おうとしたとき、横から着たシャチと鉢合わせしたんだ。もちろんそのまわりには、あのシャチはいなかった」ということだった。
また、5頭の若いクジラも、「シャチはずっといた。慌てて下りてきてカモメから話を聞いてすぐに一緒に向かったと言うのだった。
リゲルは、シャチは妙な動きはしていない。それに、大けがをしている。偶発的な事件としか思えないという結論に達した。
「海底のほうから来ているとは思えませんか」とシリウスが聞いたので、ミラは、「この際、おれが聞いてみてはいけませんか」と言った。
リゲルも、これ以上時間を先延ばししていては疑念が疑念を生み、みんなの士気に影響しれないと考えたので、ミラに任せることにした。
ミラはそのシャチを離れた場所に呼んだ。

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