シーラじいさん見聞録

   

それによると、まずカモメがグリーンランドの南まで戻り、それらしき集団を見つけたらすぐに報告するというのだ。
しかし、クラーケンを恐れて、仲間と集まって行動するものが少なくなったとはいえ、南の方はまだ多いので、それがこのあたりの者かリクルートされて北極海まで来た者かのか判断しなければならない。
クラーケンも、リゲルたちの場合のように別の種類の者で構成されているが、それは仲間になってからのことで、リクルートされて間がない場合は同じ種類のもの同士で行動するようなので、さらに判断がむずかしいのだ。
また、海に潜ってしまってはさらにむずかしくなる。方向を変えていることも考えられるからである。
だから、カモメは100羽以上いたが、報告する者、途中の動きを見る者、あるいは、別の方向に姿を見せればそちらに向かう者と任務を分担しなければならない。
リゲルたちも、報告を受けてすぐにそちらに向かうが、近づきすぎても悟られるので、カモメの動きから一瞬も目を離さないようにする必要がある。
その作戦のための訓練を毎日続けたが、まず、ミラが助けたシャチに対する疑念があったので、そのシャチを世話した場所から離れることにした。もしここにいるということを話しでもすれば寝込みをかかれる場合もあるからだ。
それで、リゲルはその場所からかなり西に移ることを決めた。グリーンランドから離れることになるが、やつらも、なるべく島から離れて進むはずなのですぐに対応できるのだ。しかも、氷山が密集しているので、隠れる場所にはもってこいだと判断したのだ。
すべての準備ができたので、作戦を開始した。しかし、これは予想以上に困難を極めた。
カモメが報告してすぐに向かったが、カモメもすぐに動きを見失った。潜ってからかなりジグザグの動きをくりかえしているようなのだ。
「さっぱりわけがわからない。体の特長を覚えて追いかけたが、そいつが見つからないんだ」カモメも悔しそうだった。それが続いた。
リゲルも成果が上がらずどうすべきかわからなかったが、「大丈夫ですよ。それなら、これはまちがいないなと考えたやつらを最後に見た場所を教えてください。そこから探してみます」と提案した。
カモメたちとリゲルたちはその通りしたが、やはりその後の行方がわからなかった。
ペルセウスが、「あちこちから来るようですが、幹部が待っている場所は限られているのではないでしょうか。もちろん1か所ではなくて、何か所もあるようですが、引率したものはそれが分かっているから、方向転換をするかもしれません」と推測した、
「なるほどな。どうしてリクルートされたものが迷わずに組織に合流するのか不思議でたまらなかったが、それでわかった」シリウスは合点がいったようだ。
「それなら、また以前の場所に戻ったほうがいいのかな」リゲルは迷った。「とにかく、もう少し状況を見よう」
翌日の朝、カモメが慌てて下りてきた。「どうしました?」誰かが聞いた、「あいつがいるぞ!」と叫んだ。
「あいつ!」
「あいつだ。おまえたちが世話をして命をふきかえしたやつだ」
「どうしたんだろう?まさか仲間をつれてきたのじゃないだろうな」
「それはなさそうだ。別のものが見てくれているが、もしそうなら、すぐに報告してくれるようになっている」
「クラーケンの仲間の元に戻ったはずなのに一人でいるなんてあやしいぞ!」
「先回りしてつかまえましょうか?」
「いや、おれが見てくる。みんなはここで待っていてくれ。この場所は知らないはずだからあわてることはない」
リゲルが承諾したので、ペルセウスは急いだ。ペルセウスは、カモメが旋回するのを見て、少し潜った。それから、顔を出して様子を見た。
いた!やつだ。海面に止まってあたりを見ている。しばらく様子を見ていたが、確かに仲間らしきものはいない。
それで、背後からシャチに近づいた。「どうしたんだ?仲間と会えなかったのか」と声をかけた。
シャチはペルセウスに気づくと、「おっ、やっと会えた。ずいぶん探したよ」と叫んだ。
「おれたちを探していたのか」と冷静に聞いた。
「そうだよ。以前お世話になった場所に行ったんだ。でも誰もいなくてどうしようか考えたんだ。
もう自分たちのボスがいる場所に帰ったのなら、それですむことなんだが、もしこのあたりにいたら話しておかなくてはならないと思って探していたんだ」
「何かあったのか?」
「少しね。とにかく仲間とは会えたが、もう戻ることはない」シャチはきっぱりと言った。
ペルセウスは黙っていたが、シャチは、「みんなは?」と突然聞いた。
「ああ、いるよ」
「そうか。それなら、会って話したいんだが」
「一体何の話だ」
「仲間がきみらを襲うかもしれないんだ」
「えっ、おれたちのことを言ったのか!」ペルセウスは詰問した、
「いや、そうじゃないんだが」シャチは口ごもった。
「それじゃ、どういうことなんだ!」ペルセウスはさらに厳しく聞いた。
「実は仲間のところに戻ったとき、隊長はひじょうに喜んでくれたんだ。隊長がやさしくしてくれたので、つい、『こんなことをして何の意味があるのでしょうか』と聞いてしまった。
隊長は、『またゆっくり話してやるよ』と帰っていったが、その後、仲間に取りかこまれて、今までどこにいたのか問い詰められたので、仕方なしに、このあたりの者に助けられたと答えたが、そいつらどこにいるか教えろといのうので、つい・・・」
「わかった。それじゃ、リゲルに話してくれ」ペルセウスはシャチを連れていくことを決めた。

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