シーラじいさん見聞録

   

「それはありがたい」他の親も思わず叫んだ。
「それでいいな、ミラ?」リゲルはミラの同意を求めた。
「リゲル、ありがとうございます。お世話になったお礼ができるのはとてもうれしいです」
「他の者はどうだ?」リゲルは、シリウスたちを見た。シリウスたちも、「もちろん。おれたちもどんなことでもやります」と声を揃えた。
「みんなもお役に立ちたいと言っています」リゲルは、いずれ若いクジラたちがここを守らなければならないので、若いクジラに勇気を植えつけようにしたのだ。
「心強いことです」別の親も言葉を出した。
「大勢の仲間が殺されたのでみんなおびえてしまって、どうしたらいいのかわかなかったのです。それで、若いものには危険なことは絶対するなとしか言えませんでした」
「息子たちは、何かしなければまた何か起きるかもしれないと言ってくれたのですが、わしらは聞く耳を持ちませんでした」
「そして、息子たちに言うように、またこんなことになって」
「お父さんたちは何も悪くありませんよ。それより、急に大事な息子さんを失くされてお気の毒です」リゲルは親たちを慰めるしかなかった。
「ありがとうございます。逃げてばかりいては自分たちを守れないことがよくわかりました。それでみんなで相談して、あなたたちに会わせてほしいと息子たちに頼んだのです」
「わかりました。息子さんたちにも言ったのですが、今起きていることは、元々ニンゲンが引き起こしたことです。
さらに、ニンゲンはさらに憎しみあっているので、この混乱はもっとひどくなるかもしれません」
「どうして、それでここが混乱するのですか?」
「詳しいことは省略しますが、ニンゲンは、あなたたちやおれたち海にいる者を、敵のスパイだと考えているのです。だから、あなたたちがここで群れになっていると攻撃するようになったのです」
「それではクラーケンは?」
「クラーケンもニンゲンを憎んでいます。それで、あちこちで大勢の者をけしかけて、ニンゲンを攻撃させているのです。それがニンゲン同士の疑心暗鬼を引き起こしているのです。
しかも、クラーケンのボスとその部下は巨大で獰猛です。おれたちでも、まともには向かっていくことができません。そして、あいつらは、ここを住処とするために、あなたたちを追いだそうとしているのです」
「そういうことでしたか。最初、あいつらに抗議したのですが、まったく話を聞こうとしませんでした」
「追いだせますか」
「すぐには無理です。それで、あいつらがどこにいるかを調べて、もしこちらに向かってくるようなら、今は逃げるしかないです」
「いずれまたどこかに行くと考えられますので、それまでの辛抱です」ミラも言葉をかけた。
「そう言ってくださったらがんばれそうです。昔、毎年遠くから来ていたクジラにお世話になったことがあります。
その中でも、一人立派なクジラがいました。ここでも、ちょっとしたもめごとがあるのですが、そんなときでもうまく仲裁してくれました。あなたたちは、あのクジラのようです」
「そうだ。不満を持っていた者でも、あの人が言えば、みんな言うことを聞いたものだ」
「あの人が今いればこんなことにならなかったと思います」
「もう来ていないのですか」
「そうなんです。この2,3年来ていません」
「どんなクジラですか」ミラが聞いた。
「わしらよりも大きかったな。いつも堂々としていた。しかし、やさしかった。右目の下から腹にかけて、大きな傷がありました。あれを見ると、暴れん坊でも小さくなっていましたよ」
「それはパパです。パパは毎年寒い海に行っていました。ぼくも、そのことはよく聞いていましたから、ぼくもいつかは行きたいと思っていましたが、事情で行けなくなりました。
パパも大事な仕事を任されるようになったので、どこにも行けなくなったのです」
「そうでしたか。今はどうされていますか?」
「クラーケンのボスと戦って死にました」
「えっ、ほんとですか。世界で一番強いと思っていましたのに」
「なんということだ!どんなに強いシャチが向かってきてもうまく抑えてくれたのに」
「今も覚えていてくれる人がいてパパも喜んでいると思います。ぼくは、パパのためにもがんばります」
翌早朝から、カモメたちを先遣隊としての作戦を開始した。そして、3日後カモメたちが慌てて下りてきた。「いたぞ。30頭ぐらいの者がどこかに向かっている。いろいろな種類がいる。クラーケンに間違いないだろう」
「わかりました。案内してください」リゲルは答えた。ミラやシリウスたちはスタンバイした。
「ぼくらも行っていいですか」若いクジラが聞いた。
「あっ、まだ訓練が終わっていないのでここで待っていてください」リゲルが言った。
「いや、連れていってください。邪魔にならないようにしますから」
リゲルは一瞬考えた。すると、ミラが、「連れていってやってください。ここを守ろうとする意気はたいしたものですよ。それに、生きた訓練ができますから」とリゲルに頼んだ。
「そうか。それなら、シリウスの指示を受けてください」
「ありがとうございます」
「みんな行くぞ!」

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